「あっ! 兄さま!」

タルタロスが通るであろう道筋にシンクたちは待機していた。
すると、一匹の魔物がこちらに向かってきた。
その背には見慣れた夕焼けのような赤い長髪の彼の姿があった。






〜Shining Rain〜








その魔物はアリエッタの近くに着地した。
アッシュはゆっくりと魔物から降りた。
すると、突然アッシュは倒れ込んだ。

「アッシュ!!」 

シンクとアリエッタはすぐにアッシュに駆け寄り、アッシュを抱き起こした。
アッシュの右肩を見ると白い服が血で赤く染まっていた。
顔色も蒼白くなっていて、とても苦しそうな顔をしていた。
シンクは急いで、治癒譜術(ちゆふじゅつ)をアッシュにかけた。
優しい光がアッシュを包み込み、少しだけアッシュの顔色がよくなった。

「……ありがとう、シンク」
「馬鹿! お礼なんで別にいい! それより何があったんだよ!!」
「……別に…………何も」
「何もなくて、こんな怪我が出来るわけないだろ! 誰にやられたのさ!! アッシュだって治癒譜術(ちゆふじゅつ)は使えるだろ!!」

前に自分の火傷をアッシュは治癒譜術(ちゆふじゅつ)で治してくれた。
なのに、何故アッシュはそれを使わずにいたのだろう。
こんなにまでなっているのに……。

「アッシュ、お前、他人に治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使ったでしょ?」

リグレットがアッシュに歩み寄った。
アッシュはリグレットの言葉にコクリと頷いた。

「アッシュ、何度言ったらわかるの。治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使いすぎてはいけないと」

治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使いすぎるとアッシュの身体はもたない。
だから、何度も注意してきたのに、彼は一向に聞こうとしないのだ。

「……ごめん、リグレット。どうしても、彼女を助けたかったんだ」

アッシュは申し訳なさそうにそう言った。

「……まあ、いい。もう少ししてからタルタロスを襲撃する。それまで、身体を休めなさい」

リグレットはアッシュの頭を撫でながら優しくそう言った。
アッシュはそれにコクリと頷いた。
それを見たリグレットは優しく微笑み、先程いた位置へと戻っていった。

「……兄さま、大丈夫ですか?」

アリエッタが心配そうに、アッシュの顔を覗き込んだ。

「ああ。心配してくれて、ありがとう」

それに、アッシュは笑って返した。

「まったく、アッシュは無茶しすぎなんだよ」
「うん、ごめんな。シンク」
「もう、喋らなくていいから。少し休みなよ」

自分が治癒譜術(ちゆふじゅつ)をかけたからといっても、まだアッシュの顔色はよくない。

「…………うん」

アッシュは、頷くと瞳を閉じて眠りについた。





















「というわけですが、よろしいですか?」

タルタロスのある部屋でジェイドは話していた。
その視線の先には、マロンペーストの長髪の少女と、不機嫌そうな真紅の長髪の少年がいた。
二人は、チーグルの森を出た途端、ジェイドにタルタロスに連行されたのだ。

「……ようするに、俺が伯父上にイオンたちが謁見できるように頼めばいいんだろ?」

その為か、ルークは不機嫌そうにそう聞き返した。

「まあ、簡単に言えばそういうことになりますね〜♪協力してもらえますか?」

ジェイドはそれに楽しそうに答えた。

「……わかった。俺だって戦争なんて起こしたくない」
「ありがとうございます。私は仕事がありますので失礼しますが、ご自由にどうぞ。軍事機密に関わるところ以外はタルタロスを自由に見てもらっても構いません」

ジェイドは笑みを浮かべてそう言うと、部屋から出て行った。

「あのぅ、ルーク様♪ よかったら、艦内をご案内しますけどぉ?」

すると、アニスがルークの腕を引っ張り、話しかけてきた。

「……そうだな。ここにいても暇だし、頼むか?」
「きゃわ〜ん♪ ルーク様って、高貴な方なのに、気取ってなくてステキですぅ♪」

アニスの反応にルークは一瞬ひるんだ。

「私も一緒に行くわ。バチカルに送り届けるまでは、ルークのことは私に責任があるし」
「僕もお付き合いしますよ」
「はぁい♪ それでは、艦内をご案内しますね〜♪」

アニスはそう言うと、勢いよく部屋を出て行った。
それにルークたちも続いて部屋を出た。





















「ルーク様♪ タルタロスのどこに行きたいですかぁ?」
「どこって、言われても、俺はこの船のことを知らない。……どんなところがあるんだ?」
「んーと……」

ルークの質問にアニスは立てた指を顎に当てて考える。

艦橋(ブリッジ)でしょ。休憩中の兵士さんがお喋りする休憩所に、食堂もありますよ! 後は、作戦会議に使う大部屋と、兵士さんが寝る部屋はいっぱいって感じです♪」
「……自由にうろつけても、あまり面白そうなものがなさそうだな」
「タルタロスは軍事艦ですからね〜。あっ! 機関室なんでどうですか? 譜業(ふごう)に興味ある人は見所満載みたいですよ♪」
「……いや。俺はあまり音機関には興味はない。ガイなら喜びそうだがな」

ガイは根っからに音機関オタクだ。
きっと、この場にいたらすぐにそこへ向かっただろう。

「他には?」
「んー……後は、禁止区域になっちゃいますね〜。あ! 艦橋(ブリッジ)と機関室もそうでした! ごめんなさいですぅ」
「……仕方ない。この辺でも歩き回るか」

ルークは溜息をつきそう言うと、とりあえず歩き出した。





















「おや、楽しんでいますか?」

廊下でジェイドを見つけると、彼は眼鏡の位置を直しながら笑みを浮かべて、そう言った。

「楽しむところはあまりない」
「どうですか? 譜業(ふごう)好きには、たまらないと思いますがねぇ〜♪」
「俺は興味はない」

ジェイドの言葉に、ルークはキッパリとそう言った。
その直後、艦内にけたたましい音が響き渡った。
























Rainシリーズ第2章第8譜でした!!
なんか異様に長くなってしまいました。
ジェイドが出るまでが長すぎだっつの!!
あと、シンクに治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使えるようにしてます!!
そうしないと、アッシュが死んじゃいそうなので・・・・。
こんなところで、アッシュが死んじゃいやだあああぁ!!(壊)


H.19 4/24



次へ