ルークたちがチーグルの森から出た数分後、ライガの巣の洞の前に一匹の魔物が現れた。
その背には夕焼けのような赤い長髪の少年が乗っていた。
彼は魔物から下りると魔物を優しく撫でた。

「ちょっと、ここで待ってろよ」

彼はそう言うと、洞の中へと入っていった。






〜Shining Rain〜








洞の中に入るとすぐにそれを見つけた。
ライガ・クイーンを……。
アッシュはすぐさま、ライガ・クイーンに駆け寄った。
すると、ライガ・クイーンが微かに息をしているのがわかった。

(……よかった、まだ生きている)

ジェイドの譜術(ふじゅつ)をもろに喰らったはずだが、若干急所から外れたらしい。

「待ってろ。今、治してやるから……」

アッシュはそう言うと、詠唱を始めた。
すると、閉じられていたライガ・クイーンの瞳が開いた。
ライガ・クイーンはアッシュを見ると、自分を止めを刺そうとしているのだと思い、アッシュに爪を振り下ろした。

「っ!!」

それに反応が少し遅れたアッシュは右肩を負傷した。
血がポタポタと流れ落ちる。
それでも、ライガ・クイーンの怒りは治まらないのか、アッシュを鋭い眼つきで睨みつける。
そして、『近寄るな!』と言った。

(どうすればいいだろう……)

どうやったら、ライガ・クイーンの誤解を解けるだろうか?


ライガ・クイーンに危害を加えるつもりがないことを。
すると、アッシュはあることを思いつき、腰にある剣を抜いた。
それを見たライガ・クイーンはいつでもアッシュに襲いかかれるような体勢をとった。
だが、アッシュは剣を構えず、剣を地に突き刺して、両手を広げた。
その行動にライガ・クイーンは驚いた。

「……俺は、あなたの傷を治したいだけです。あなたに危害を加えるつもりはない。おとなしくしてもらえませんか?」

洞中にアッシュの凛とした声が響き渡った。
その声は、どこまでも透き通って、どこまでも純粋な声だった。
ライガ・クイーンはアッシュの言葉を信じたのか、その場に座り込んだ。
それを見たアッシュは両手を下げ、ライガ・クイーンにゆっくりと近づいた。

「……ありがとう」

アッシュはライガ・クイーンを優しく撫でた。
その感触はとても気持ちよかった。

「……癒しの光! ――――ヒール!」

詠唱が終わると同時に、ライガ・クイーンは優しい光に包まれた。
その光が、見る見るうちにライガ・クイーンの傷を癒していった。
ライガ・クイーンの傷が完治すると同時に、アッシュは眩暈に襲われ、その場に膝をついた。

『大丈夫か?』

ライガ・クイーンが心配そうに聞いてくる。

「……大……丈夫だ。治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使うといつもこうなる」

言っていることとは裏腹に、アッシュはとても苦しそうな声でそう言った。
アッシュは息を整えると、再び立ち上がった。

「ありがとう、心配してくれて」

アッシュはライガ・クイーンに笑ってそう言った。

『……何故だ?』
「えっ?」
『何故、お前は私を助けたのだ?』

人が自分たちを恐れて幾度も私を殺そうとした。
なのに、この少年は違った。
私を助けてくれた。

「……あなたが死ぬと、哀しむ人がいるんです」

ライガ・クイーンの問いにアッシュは静かに答えた。

「俺はその子の、アリエッタの哀しむ顔を見たくないだけです」
『……アリエッタ。そうか、貴方がアッシュか』
「俺のことを知っているんですか?」

ライガ・クイーンの言葉にアッシュは驚いた。

『ああ、アリエッタはよく貴方のことを話していましたよ。とても楽しそうに』
「そうですか……」

それを聞いたアッシュは、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。

『あの子のこと。これからもお願いします』

そう言うと、ライガ・クイーンは立ち上がり、洞の入り口でと歩みだす。

「何処に行くんだ?」
『私たちはこの地を去ります。もっと人里の離れた場所へと移ります』

アッシュの方に振り向いたライガ・クイーンはとても穏やかな表情をしていた。

『それがあの子にも、私の命を救ってくれた貴方のためにも一番良いことだと思うから』

ライガ・クイーンはそう言い残すと、物凄いスピードで走り抜けていった。
それと同時に、アッシュは足に力が入らなくなり、その場に倒れ込んだ。
自分が思っている以上に力を使いすぎたらしい。
すると、アッシュの言いつけ通り洞の外で待っていた魔物がアッシュへと駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

心配そうにアッシュの顔を魔物は覗き込んだ。

「大……丈夫だ」

そうは言ったが、とてもそうには見えなかった。
魔物はアッシュの剣のところに行き、それを銜えてアッシュの近くに置いた。
アッシュは剣を掴み、それを支えにして何とか立ち上がった。

「……ありがとう」

アッシュは魔物を優しく撫でた。
そして、やっとの思いで魔物の背に乗った。

「少し休まなくていいのか?」
「……うん。用が済んだら、すぐ戻るって約束したし。それに…………」

一分一秒でも早く彼に会いたい。
『アッシュ』に……。

「……お願い。早くアリエッタの所に向かって」
「…………わかった。しっかり、掴まっていろ」

魔物はそう言うと、翼を大きく広げ、地を蹴り、飛び立った。
アリエッタのいる場所を目指して……。
























Rainシリーズ第2章第7譜でした!!
アッシュ、ライガ・クイーンを助ける。
ライガ・クイーンが死ななくて良かったねwwアッシュww
にしても、ヒールを使っただけで、倒れちゃったよwwww
次は、タルタロスに強行突破だ!!


H.19 4/11



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