「どうしたの、ルーク?」

チーグルの森に入った途端、ルークの足が止まった。

「あれ、イオンじゃねえか!?」
「えっ!?」

彼の視線を追ったティアは、その先を見た途端、顔色が青ざめた。
導師イオンが、魔物に囲まれていたのだ。

「危ない……!」

杖を手に、ティアはイオンを助け出そうと走り出す。
その途端、辺りに微かな歌声が響いたかと思うと、イオンの身体に下に大きな譜陣(ふじん)が出現し、発動した。






〜Shining Rain〜








「おい! 大丈夫か!?」

光の竜巻が止み、譜陣(ふじん)が完全に消えると導師にイオンはその場に倒れた。
ルークは驚いたように駆け寄って、イオンを助け起こした。

「おい!」
「だ、大丈夫です。少しダアト式譜術(ふじゅつ)を使いすぎただけで……」

イオンはルークの手を借りて立ち上がりながら、掠れた声でそう言った。
言っていることとは裏腹に、白い肌がさらに蒼白くなっていた。
唇の色も紫に変わっている。
そんな状態で、イオンはルークの顔を見ると、あっというような表情を浮かべた。

「あなた方は、確か昨日エンゲーブにいらした……」
「ルークだ」

昨日、バチカル行きと間違えて乗ってしまった辻馬車をエンゲーブで降りた。
そのときに、彼を見かけたのだ。

「ルーク……。古代イスパニア語で『聖なる焔の光』という意味ですね。いい名前です」

イオンは、にっこりと微笑んでそう言った。
ルークはその言葉に照れたのか、少し顔が赤くなった。
そんなルークの様子を見てイオンは微笑み、視線をティアへと移した。

「あなたは――――」

ティアは、ローレライ教団式の礼を行った。

「導師イオン。私は神託の盾(オラクル)騎士団モース大詠師旗下(だいえいしきか)、情報部第一小隊所属、ティア・グランツ響長(きょうちょう)であります」

イオンは優しげな表情のまま頷いた。

「あなたが、ヴァンの妹ですか。噂には聞いていましたが、お会いするのは初めてですね」

ティアはイオンの言葉に頷いたが、ルークは驚いた表情を浮かべた。

「おまえが師匠(せんせい)の妹……」

だったら、何でティアは師匠(せんせい)を殺そうとしたんだ。
師匠(せんせい)とは兄妹なのに……。
ルークはそのことを問いただそうと思ったが、言葉を呑んだ。
今、ここで揉めていてもしょうがない。
きっと、ティアには俺の知らない事情があるのだろう。
実の兄を殺さなければならないくらいの事情が……。

「あっ!」

イオンは不意にそんな声を上げてルークの背後を指差した。

「チーグルです!」

ルークとティアは振り返り、小さな獣が茂みの中へと消えたのを見た。

「あれが……チーグル?」

その姿がよく見えなかったので、本物がどうかわからなかった。

「行きましょう」
「えっ? あ、イオン様!」

ティアが止める間もなく、イオンは森の中へと歩き出す。

「お、おい!」

ルークは慌ててイオンの隣へと歩み寄った。

「何処に行くつもりなんだ?」
「チーグルの巣です」

ルークの問いにイオンは足を止めて離した。

「昨日、食糧泥棒に騒ぎがあったのを覚えていますか?」
「ああ、宿の隣にある食糧庫の物が根こそぎ盗まれていたらしいな」

エンゲーブの食糧は世界中に出荷されている。
この村では、食糧が一番価値のあるものだ。
それが、北の森の方で火事があってから、ずっと食糧が盗まれているらしい。

「その犯人がどうやら、チーグルのようなんです」
「……チーグルがですか?」
「ええ。でも、チーグルは魔物の中でも賢くておとなしい。人間から食べ物を盗むなんておかしいんです。だから、どうしても気になってしまって……」
「……わかった、俺たちが付いていってやるよ」
「ルーク!?」

ルークの思ってもみない言葉にティアは驚いた。

「ダメよ! イオン様をこんな危険な場所にお連れするなんて!!」
「だったら、どうするんだ? 村に送ったところで、また一人でここに来るかもしれないんだぞ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「第一、今にも倒れそうな奴をほっとけるわけがないだろうが。俺たちの用はその後でもいいんだろうし」
「……わかったわ」

ティアはルークの言葉に言い返す言葉が見つからず、ルークの意見に賛成した。
イオンは、ルークの言葉に感激したように腕を胸の前に組んだ。

「ありがとうございます! ルーク殿は優しい方なんですね!」
「なっ……! ば、馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ!!」

ルークは照れたのかまた顔が赤くなった。

「はい!」

それに嬉しそうに返事をするイオンを見て、ティアは不思議な気持ちになった。
いつも遠くから見ていたイオンは威厳に満ちていたのに、今の彼は普通の少年だ。

「後、あのダアト式譜術(ふじゅつ)って奴は使うなよ。おまえ、さっきそれを使って倒れたんだろ? 魔物とは俺たちが戦う」
「守ってくださるんですか? ……感激です! ルーク殿」
「ち、違う! おまえに倒れられると、困るだけだ! ……それと俺の名前は呼び捨てでいい! さっさと行くぞ!!」

これ以上顔が赤くなるのを見られたくないのか、ルークはさっさと歩き出す。

「はい、ルーク!」

それにイオンは、嬉しそうにルークの後を追って歩き出した。
そんな二人のやり取りを微笑ましく思いながら、ティアも二人の後を歩いた。
























Rainシリーズ第2章第5譜でした!!
ルークとイオンの合流。
きっとオリジナルルークも照れると思いますよvv
チーグルの森のルークの話を一話でまとめるつもりだったのに、結局出来ませんでした。
なので、次の話にもアッシュが出ない可能性大有りですwwww(おい;)


H.19 3/28



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