屋敷中に響き渡る美しい歌声。 それが、全ての始まりだった。 〜Shining Rain〜 ルークが中庭に行くと、そこでガイとヴァンが何か話していた。 「ルーク様!」 ペールがそう言うと二人は話をするのをやめた。 「何してるんだ、ガイ」 ルークはガイとヴァンの近くに行くとそう言った。 「ヴァン謡将は剣の達人ですからね。少しばかり、ご教授願おうかと思って」 「本当か? あまりそういう風は見えなかったが?」 からかうようにルーク言ったのを聞いて、ガイは、ははは、と笑った。 その笑いを見てルークはガイは明らかに何を隠しているのがわかった。 だが、あえてそのことは言わなかった。 親友だからといって、何でも話せるわけではないと、ルークは思っている。 でも、話してもらえないことが少しだけ、寂しいと思ってもいた。 「では、そろそろ始めようか。……準備はいいか?」 「はい、大丈夫です」 ヴァンの問いにルークは頷いた。 「それじゃあ、俺は見学させてもらおうかな。頑張れよ、ルーク」 「ああ」 ガイはルークとヴァンから離れると、中庭に置かれたベンチに腰を下ろし、二人の稽古を見学することにした。 「では、始める」 ヴァン師匠は本当に強い。 俺がいくら技を繰り出しても、全てかわされてしまう。 俺は師匠の攻撃を防御するのに精一杯になるのに、師匠はいつも余裕がある。 俺にとって師匠は憧れの存在だ。 俺も師匠のようになりたい。 いつか、師匠を越えてやる。 トゥエ レィ ツェ クロア リュオ トゥエ ズェ すると、突然屋敷中に美しい歌声が響き渡った。 「この声は――――」 ヴァンが驚いたように呟く。 途端、身体が思うように動かなくなっていた。 「か、身体が……動かない…………」 ルークは声を搾り出すように言った。 「こ、これは譜歌じゃ! 第七音譜術士が入り込んだのか!?」 ペールがそう言うのが聞こえる。 譜歌。これがそうなのか。 「ようやく見つけたわ……裏切り者、ヴァンデスデルカ!」 少女のような声がした直後、ほっそりとした影は屋根から中庭に飛び降り、ヴァンの背後に走り寄った。 「覚悟っ!」 彼女は手にしていた杖でヴァンに殴りかかる。 マロンペーストの長い髪が風でなびいた。 ヴァンは木剣で杖を受け止めた。 その表情は明らかに苦しそうだった。 「やはり……おまえかっ、ティア!」 ヴァンは折れた木剣で杖ごと少女を押し返した。 ヴァンにティアと呼ばれた少女は何とか踏みとどまり、唇を噛み締め再び殴りかかる。 その様子を見ていたルークは何とか立ち上がり、木剣を強く握った。 「なんなんだ、おまえは! 師匠に何してやがるんだ!」 ここでヴァンが倒されるわけにはいかなかった。 師匠を倒すのは俺なんだから。 ルークは地を蹴り、木剣を思いっきり振り下ろした。 ティアはそれに気付き、ヴァンに背を向けその一撃を受け止めた。 すると、キィンという音と共に、杖と木剣の間で波紋が出現した。 「な、なんだ!」 「これは……第七音素!?」 ルークとティアは驚いたように言った。 「「ルーク!」」 ヴァンとガイは同時に叫び、二人へと駆け寄ろうとした。 だが、杖と木剣と間で光が爆発するように膨らみ、輝きが二人を呑み込んだ。 そして、一筋の光となって空へと疾り、二人の姿は天へと吸い込まれるように消えた。 「しまった……」 折れた木剣を支えに膝をついたヴァンが、そう呟く。 「……第七音素が反応しあったか!」 ダアトの神託の盾本部。 そこにアッシュはいた。 アッシュはシンクを相手に訓練をしていた。 シンクは剣を使わず素手で戦うが、動きが素早く、剣術とは違うためいい訓練相手でもあった。 すると、突然キィンと音と共に頭に微かに痛みが走った。 「アッシュ?」 アッシュが突然止まったので、シンクは不思議そうにアッシュの名を呼んだ。 アッシュはシンクに呼ばれたことに全く気付いていないのかある方向を向いていた。 そんなアッシュの様子に、近くで訓練をしていたリグレットとラルゴも気付きアッシュを見た。 「…………動いた」 「えっ?」 独り言のようにアッシュは呟いた。 まだ、自分とルークとは繋がっていない。 だが、それでもわかるくらいルークのいる位置が屋敷から遠く離れた。 そして、アッシュは今日の日付を思い出した。 ND2018 レムデーカン・レム・二十三の日 俺が初めて、あの屋敷から出た日だ。 アッシュは握っていた剣を強く握りなおす。 ついに、動き出してしまった。 世界と俺たちの運命を乗せた歯車が……。 Rainシリーズ第2章第2譜でした!! ルークが屋敷から出ました!! なんだか、ルークが屋敷を出るまでが長くなってしまいましたね! H.19 3/21 次へ |