日が完全に沈んだ頃。 アッシュはダアトに辿り着いた。 アッシュはそのまま、神託の盾本部へと向かい、ヴァンの部屋へと向かった。 コンコン 「誰だ?」 扉をノックすると、ヴァンの声が返ってきた。 「アッシュです」 「アッシュか。……入れ」 アッシュはヴァンの言葉に従い、扉をゆっくりと開けた。 〜Shining Rain〜 「失礼します」 アッシュが扉を開けると、そこにはヴァンの姿があった。 ヴァンは椅子に座っていて真っ直ぐにアッシュを見ていた。 「ただいま、戻りました」 「ご苦労だったな。……その様子だと、かなり暴れたようだな」 ヴァンはアッシュの血で染まった服を見て、不敵に笑った。 「で、どうだ? 自分の被験者を見た感想は?」 どうやら、ヴァンはそれが聞きたかったようだ。 「……とても、自分が彼から作られたとは思えない」 「ふっ……そうだろうな」 ヴァンはアッシュの言葉に満足そうにそう言った。 「それについては私も驚いているのだよ。育つ環境によって、人はこんなにも変わるだとな」 「…………」 「今日は疲れただろう。もう、休みなさい」 「……はい、失礼しました」 アッシュはヴァンに一礼をすると、扉へと手をかける。 「……アッシュ、あまり無理はするな。時が来る前におまえに死なれては、私が困るのだからな」 「…………はい」 アッシュはヴァンの言葉に小さく答えると、部屋を出て行った。 ジリリリリリ…… アッシュが部屋を出たと同時に机に置いてある伝声機が鳴った。 「私だ」 『閣下……』 伝声機を取ると、そこから女性の声が聞こえた。 「リグレットか……」 『閣下、イオン様奪還に失敗しました』 「そうか……引き続き、イオン捜索を任せる」 『了解しました。それと……』 「? なんだ?」 リグレットが言葉を濁したので、ヴァンは不思議に思った。 『アッシュは、もう戻ってきましたか?』 「ああ、さっきまでここにいた」 『そうですか……』 ヴァンの言葉にリグレットは安心したような声で言った。 「何かあったのか?」 『はい。治癒譜術を使った身体で、≪死霊使い≫と闘っていたので……』 「なにっ!?」 アレは≪死霊使い≫とやり合えるほどの実力をつけているのか。 しかも、体調が万全じゃない状態で……。 アレは、自分が思っている以上に強くなっているのか。 『閣下?』 「いや…なんでもない。私は、これからルークのところへ向かう」 『わかりました。……では、失礼します』 「ああ」 ヴァンはそう言うと、伝声機を静かに置いた。 その手は、微かに震えていた。 「ディスト、いるか?」 アッシュは自分の部屋に行く前にディストのところへ寄った。 「おや、アッシュ。……どうしてんですか!? その格好は!!」 ディストは、アッシュの姿を見ると驚きの声を上げた。 「……なんでもない。それより、頼みたいことがある」 「頼みたいことですか?」 「被験者との同調フォンスロットを繋ぎたい」 「それは……」 アッシュの頼みにディストは少し暗い表情になった。 「……出来ないのか?」 「いえ。そうじゃないですけど、それはあなたに負担が掛かり過ぎます」 「それでも構わない」 それは、わかっている。 『アッシュ』と繋がる度にあのひどい頭痛が襲ってくる。 それでも、俺は『アッシュ』と繋がりたいのだ。 アッシュの態度を見たディストは、溜息をついた。 「……わかりましたよ。けど、被験者をコーラル城に連れて来てくださいよ。あそこにある譜業装置じゃないとたぶん、無理ですから」 「ありがとう、ディスト」 ディストの言葉にアッシュは笑みを浮かべて言った。 「じゃあ、俺は戻る」 アッシュは踵を返して、部屋を出ようとした。 「待ちなさい、アッシュ」 すると突然、ディストにアッシュは呼び止められた。 振り返ると、ディストの手には青い袋が握られていた。 「睡眠薬、作っておきましたよ」 「……いらない」 「いらないって; これがないと夜がまともに寝られないのに?」 「…………」 「とにかく、持って行きなさい!」 ディストは、半端強引にアッシュに薬を押し付けた。 「……一応貰っておく、ありがとう」 「ちゃんと、それを飲みなさいよ!」 部屋を出て行くアッシュに、ディストはそう言い放った。 アッシュは、やっとの思いで自分に部屋へと戻ってきた。 部屋に入った途端、緊張が解けたせいか今までの疲れが一気にきて、眩暈が襲ってきた。 アッシュはそれに耐え切れず、そのまま床へ倒れこもうとした。 『ルーク!!』 顔に床が当たる寸前に誰かが俺を支えてくれた。 アッシュの眼に入ったのは、彼と同じ燃えるような紅と翡翠の瞳を持つ男。 「ローレライ……」 アッシュはその人物の名を呼んだ。 『馬鹿者! なんで、こんなになるまでに我を呼ばない!!』 ローレライはそう怒鳴ると、アッシュを抱きかかえ、ベッドへと寝かせた。 「ローレライ。俺、もうルークじゃないよ?」 ローレライは、アッシュとなった俺を今でもルークと呼ぶのだ。 『……そなたがアッシュと生きていても、我にとってのルークはそなただけだ』 ローレライは優しくそう言った。 「じゃあ、『アッシュ』はなんて呼ぶのさ?」 『それは……≪聖なる焔の光≫とでも呼べばいい』 「そっか……」 『アッシュ』には悪いけど、少しだけホッとした。 誰か一人でも、俺のことを『ルーク』と呼んでくれる存在がいることに……。 「なぁ、ローレライ……」 『? なんだ?』 「……本当に『アッシュ』が生きていたよ」 『当たり前だ。我が時を戻したのだぞ』 「でも、本当に嬉しかった。『アッシュ』が生きていてくれて……」 本当に嬉しかった。 彼の姿を見た途端、嬉しさから涙が止まらなくなってしまうくらいに……。 「……ねぇ、ローレライ……」 『? なんだ?』 ローレライは優しい口調で聞き返してくれた。 「……俺、『アッシュ』に触ってよかったのかな?」 『…………』 「俺の手、こんなにも穢れているのに……」 アッシュは自分の掌を見た。 この七年間、俺はこの手で何人もの命を奪ってきた。 俺の手は血で穢れた。 たとえ、その血を綺麗に洗い流しても、その穢れは決して落ちないのだ。 こんな手で、本当に『アッシュ』に触れてよかったのだろうか……。 『……ルーク、今は何も考えるな。もう、寝なさい』 そんなアッシュに対して、ローレライは優しく頭を撫でた。 ローレライが頭を撫でてくれると、気持ちが落ち着く。 「うん……わかった」 アッシュは瞳を閉じて、深い眠りについた。 『…………ルーク。……そなたは穢れてなどいない』 眠りについたアッシュにローレライは優しく囁いた。 穢れてなどいない。 例え、そなたの手が血でまみれていも、そなたはずっと優しい光を放ち続けている。 そなたはそなたのままだ。 我は、そんなそなたの望みを叶えたい。 守りたいのだ。 ローレライはアッシュの仮面を外すと、右頬に優しい口付けを落とした。 本当は『ルーク』の唇にしたかった。 けど、『ルーク』の唇にしていいのは、きっと彼だけだ。 我と同じ存在で、違う彼だけだ。 『ルーク。……よい夢を……』 ローレライはそう言うと、光となって消えていった。 Rainシリーズ第2章第15譜でした!! ていうか、ヴァン師匠が酷過ぎるなぁ〜。今回、何気にディストも登場しましたよ。 何気にディストはいい人(?)ですね〜。そして、ローレライも登場しました。 アッシュのことが心配でたまらないのに、呼んでもらえないので、ちょっと可哀相ですねwwww と、言うわけで第2章はこれにて完結です!!次からは第3章に突入します!! H.19 6/18 第三章へ |