「ラルゴは大丈夫か?」 ラルゴの治療を続けていたシンクにリグレットは話し掛けた。 「急所は外れているみたい。そんなことより……」 「? 何かあったのか?」 「アッシュはアンタの言いつけを破ってラルゴに治癒譜術を使ってたよ。……しかも、あんな身体で艦橋へ向かって行ったよ」 「何っ!?」 シンクの言葉にリグレットは驚いたような顔をした。 「……シンク、ここは任せる」 リグレットはシンクにそう言うと艦橋と向かった。 〜Shining Rain〜 おかしい。 あのときの今頃だったら、リグレットが部下を引き連れてここにやって来たはずだ。 なのに、まだリグレットの姿は見当たらない。 まだ、譜歌の効果が切れていないせいなのか。 そんなことを考えながら、アッシュはジェイドの攻撃を受け流す。 ジェイドとのやり合いは、思った以上に体力を消耗させていた。 それは、ジェイドも同じようだ。 ジェイドは封印術をかけられたばかりだ。 本来なら、全身のフォンスロットを閉じられているのだから、立っているのだってやっとのはずだ。 そう考えると、これだけ動けているジェイドはすごいと改めて思った。 アッシュはジェイドの隙をついては、ジェイドを気絶させようとした。 だが、さすがジェイドだ。 アッシュの繰り出す技を上手く交わし、出来るだけ隙のない動きをしている。 「……こんなものですか? あなたの実力は?」 ジェイドは余裕の笑みを見せる。 本当はそんな余裕すらないはずなのに……。 「……噂とはだいぶ違うみたいですね。」 神託の盾騎士団六神将特務師団長≪鮮血のアッシュ≫。 誰一人その姿を見た者はなく、彼が剣を振れば戦場は血の海と化す。 マルクトではそんな噂が流れていた。 それは人を人とは思わないかのように殺していく。 それを聞いたとき、ジェイドはまるで自分のようだと思った。 人の死を、人の痛みを理解できない自分に……。 「…………」 アッシュはそれを黙って聞いていた。 ジェイドの聞いた噂はどんなものかは知らないが、たぶんそれは事実だろう。 だから、何も言えない。 今はただ、ジェイドを気絶させることだけを考える。 アッシュはジェイドに剣を振り下ろした。 「甘い!!」 キイイィィィン 音と共にアッシュの手に握られていた剣は天高く飛んだ。 そして、ジェイドは槍をそのままアッシュへと飛ばす。 「っ……!!」 それを何とか避けようとしたアッシュだが、右肩に槍が掠った。 服は破れ、そこから赤い血が流れ出す。 剣を取ろうにも、ここからでは遠すぎる。 「さぁ、大人しくしてもらいましょうか、アッシュ?」 ジェイドは手に再び槍を出現させると、勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。 状況からしてアッシュの方が不利だった。 そのはずなのに、何故かアッシュは笑みを浮かべた。 そして、そのままジェイドに向かって走り出す。 「馬鹿ですね〜♪ 死にたいのですか?」 そんなアッシュをジェイドは余裕で迎え撃つ。 が、 「なっ!?」 次の瞬間、ジェイドは驚きの声を上げた。 今、自分の首筋にはしっかりと剣が当てられていた。 彼は、剣を持っていなかったはずなのに……。 「……大人しくしろ…………ジェイド」 「!?」 何処か懐かしい響きが自分の耳に入ってきた。 彼が自分の名前を言ったのは、これが初めてのはずなのに……。 「アッシュ!!」 すると、ジェイドとアッシュしかいない場所から声が聞こえてきた。 「……リグレット」 アッシュは呟くように、その声の持ち主の名を呼んだ。 「やれやれ、これでは完全に形勢が逆転されましたね〜♪」 ジェイドは諦めたかのように両手を挙げた。 そんなジェイドの行動を見たアッシュは、ジェイドの首筋から剣を放した。 そして、その剣を光の粒子に変えて消した。 「……三人を牢屋に閉じ込めておけ」 「はっ!!」 アッシュは近くにいた兵士にそう命令すると、リグレットへと歩み寄った。 「……アッシュ、シンクから話は聞いた。治癒譜術を使ったらしいな」 リグレットは少し怒ったような口調でアッシュに言った。 「……ごめんなさい」 「もういい、とりあえず無事でよかった」 こんな身体であの≪死霊使い≫とやり合えたことをリグレットは正直驚いていた。 「アッシュ、お前は先にダアトに戻りなさい。閣下がお前を呼んでいた」 「ヴァンが……?」 リグレットの言葉に不思議そうにアッシュは聞き返した。 「そうだ。あと、疲れただろう? 後は私たちに任せて、アッシュは休みなさい」 リグレットは優しく微笑みそう言った。 「……ありがとう、リグレット」 それにアッシュは笑って答えた。 「兄さま!」 すると、突然声と共にアリエッタがアッシュの胸に飛び込んできた。 「ア、アリエッタ!?」 アッシュはアリエッタの行動に驚きながら、何とか彼女の身体を支えた。 「……兄さま、もう行っちゃうの? せっかく、一緒の任務なのに…………」 「うん、ヴァンに呼ばれたからね。またお友達を借りるね」 「……! 兄さま。肩、怪我してるです」 アッシュの右肩の服が破れ、そこから血が出ていることにアリエッタは気が付いた。 タルタロスを襲撃する前に怪我していた右肩はシンクが治してくれていた。 それに、服もアッシュは着替えていたので破れてはいなかったのに……。 「大丈夫ですか? ……痛くないですか?」 「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」 泣きそうな声で言ったアリエッタに、アッシュは優しい笑みで答えた。 それを見たアリエッタは少しだけ安心したような顔をした。 すると、一匹の魔物がアッシュに近づいてきた。 そして、アッシュに「乗れ」と言った。 アッシュはそれに従い、魔物の背に乗った。 「……じゃぁ、先に戻ってるな」 「…………はいです」 アリエッタの言葉を聞いたアッシュは魔物に合図を送った。 すると、魔物は合図に答え、天高く飛び上がった。 「兄さま……」 ぬいぐるみを強く抱きしめ、アリエッタはアッシュが遠ざかっていくのをただ見ていた。 Rainシリーズ第2章第12譜でした!! やったよ!アッシュがジェイドに勝ったよ!(当たり前だけどね〜) そうです、うちのアッシュは音素乖離を利用して左腕に剣を予備に持っているのです!! ジェイドと同じ〜♪ジェイドさんもビックリですよねww でも、Symphonyシリーズとは違ってアッシュが左腕に入れている剣は、ローレライの剣ではありません。 H.19 5/19 次へ |