――――約束だからな! 約束……。 夢の中のあいつはいつも必死は声でそう叫ぶ。 顔も名前の知らないあいつ。 一体、あいつは誰なんだ……? 〜Shining Rain〜 「うっ……」 目を開けると、眩しい朝日の光が目に入ってきた。 「……またかよ」 また、あの夢を見た。 顔も名前も知らないあいつはいつも俺に向かって必死な声で叫ぶ。 その声は、とても哀しそうにも聞こえた。 なぜ、そんなにもあいつは叫ぶのだろうか? あんな風に叫ばしている原因は俺なんだろう。 きっと、あいつは笑顔が似合うはずだ。 顔も知らないのに、ルークはそう思う。 ルークはベットから降りると、着替えるためクローゼットを開けた。 そこには、きちんと整えられたいくつもの黒い服があった。 いつからだろうか。 俺が黒い服ばかり着るようになったのは……。 幼い頃は白い服ばかり着ていたのに。 きっと、あの夢を見るようになってからだろう。 夢の中の俺は黒い服、あいつは白い服を着ていた。 それが、とても自然なように感じた。 俺より、あいつのほうが白い服が似合っていた。 「ルーク、起きてるか?」 着替え終わると同時に、人のよさそうな声が聞こえてきた。 「……ガイか」 声が聞こえたほうを見ると、窓のところにガイが立っていた。 彼は、この屋敷の使用人兼俺の親友でもある。 「……また、あの夢を見たのか?」 ガイはルークの表情を見てそう言った。 「……ああ」 自分の表情を見ただけで、それがわかるガイはすごいとルークは思う。 「ああ、一体何なんだ。あの夢は」 あの夢を見るようになったのは、俺が十歳のとき、マルクトに誘拐されてからだ。 俺は誘拐されていた数日間のことを全く覚えていなかった。 医者からは、誘拐されたショックのせいだろうと言っていた。 「ストレスでも溜まってるんじゃないか。俺でよかったら、剣の相手してやってもいいぞ」 「ああ、そうかもな。だか、その前に朝食をとってくる」 「ああ、じゃあ俺は中庭で待ってるな」 ルークはガイに見送られながら、朝食をとりに応接間へと向かった。 マルクトに誘拐されてから、ルークは屋敷から一歩の外には出ていない。 だが、それが不自由だと感じたことは一度もなかった。 知識などは屋敷にある本を読めば大体が得られる。 そして、何よりガイやナタリアたちが傍にいてくれたからだろう。 それに、あと三年もすれば、自由になれるのだから、何も焦ることなんでなかった。 「ルーク様、失礼します」 中庭でガイと剣の稽古をしているところ、メイドがやってきた。 女性恐怖症のガイはそのメイドからある一定の距離を取った。 「なんだ?」 「公爵様がお呼びです。応接間に来てくれとのことです」 「父上が? ……わかった、さがれ」 メイドは失礼しましたと、言いながら一礼をして自分の仕事へと戻っていった。 「……すまないが、少し行ってくる」 「ああ、行ってこいよ」 ガイは笑顔でそう言った。 「……ああ」 ガイの笑顔を見て安心したルークは、応接間へと足を動かした。 「失礼します」 ルークが応接間に入ると、そこには父上と母上、そしてヴァン師匠がいた。 「待っていたぞ、ルーク。はやく席に着きなさい」 「はい」 父上に言われたとおり、ルークはヴァンの隣に座った。 「久しぶりだな、ルーク」 席に着くとヴァン師匠が話しかけてくれた。 「師匠、今日は稽古の日ではなかったはずですが?」 「そのことなんだが、ルーク。グランツ謡将殿は明日ダアトに戻られることになった」 「! な、なんですか?」 「導師イオン様が行方不明になったんだ」 導師イオン。 彼は、ヴァン師匠が所属しているローレライ教団の最高指導者だ。 先代の導師エベノスがホド戦争終結の功労者なら、現・導師イオンは、今日の平和の象徴と言われている。 その彼が行方不明になったなら、ヴァン師匠がダアトに戻ることは仕方のないことだ。 「そんな顔をするな、ルーク。だから、今日はそのぶん剣の稽古をみっちりしてやるからな」 ヴァンはルークに優しい笑みを浮かべて言った。 「……はい」 「では、私は先に中庭で待ってる。準備が出来たら、来なさい」 ヴァンはルークにそう言うと、公爵に会釈をして応接間を出て行った。 ルークも応接間を出ようと席を立つ。 「ルーク、怪我をしないように気をつけるのですよ」 母上が心配そうな顔をしてルークに言った。 「……はい、出来るだけ気をつけます」 ルークはそう言うと、一礼して応接間を出た。 Rainシリーズ第2章第1譜でした!! やっと、ルークが登場です!! 本当はティアと一緒に飛ばされるまで書きたかったんですけど、あまりにも長くなってしまったので分けます。 と、いうことで次回ティア登場です!! H.19 3/9 次へ |