「公爵様! 大変です! 城に新生ローレライ教団の使者を名乗る者が参りました!!」 屋敷の応接間へキムラスカ兵が取り乱した様子で入って来たとき、ルークたちはその部屋で両親たちと、そしてナタリアを除く仲間たちと朝食を摂っていた。 (ラルゴ、来たんだ……) その使者が誰なのか唯一知っているアッシュは、ゆっくりとフォークを置いた。 「……いよいよ来たか」 ファブレ公爵は、ナプキンで口を拭くと立ち上がり、ルークとアッシュを見た。 「ルーク、アッシュ。私は登城する。おまえたちもすぐに来なさい」 「はい」 公爵は頷くとシュザンヌに一言二言話をして、兵士とともに応接間を出て行った。 そして、アッシュたちもすぐに登城するのだった。 〜Shining Rain〜 「ラルゴ!? 使者っていうのはおまえだったのか!」 「…………」 謁見の間に通されたルークたちは、新生ローレライ教壇の使者を見て息を呑んだ。 六神将が一人、《黒獅子ラルゴ》はアッシュたちを一瞥したものの、何も言わずにインゴベルトへと向き直った。 「…………して、導師モースへの返答はいかに」 「我がキムラスカ・ランバルディア王国は、預言を廃することで合意した。よって、新生ローレライ教団の申し入れはお断りする」 そう横から大臣は言った。 「それは、新生ローレライ教団に対する宣戦布告と取ってよろしいのか?」 「我々に戦う意思はない。しかし、我が国の領土と民が侵されるのであれば、直ちに報復行動に出ると心得られよ」 インゴベルトの言葉にラルゴは薄い笑みを浮かべ、徐にアッシュを見た。 「…………わかったか、アッシュよ。おまえがレムの塔でレプリカを消したことで、新たな戦いが始まろうとしている。預言とは恐ろしいものだ」 「それは詭弁だ!」 ラルゴの言葉にファブレ公爵が前に出る。 「第一、我が息子は二人とも生きている!」 「っ!」 我が息子。 その言葉にアッシュは胸を突かれた。 『ルーク』ではない俺にそう言ってくれたことが嬉しかった。 「どうかな?」 だが、ラルゴは不敵に笑った。 「おまえたちも知っているだろう。第七譜石には消滅の預言が詠まれているのことを」 「俺たちは、生き残る未来を選び取ってやる。世界を滅ぼさせたりはしない」 ラルゴの言葉にそうルークは強く言った。 「それはこちらとて同じだ」 「同じではありませんわ!」 ナタリアが玉座を立った。 「あなたは預言に固執するモースに味方しているではありませんか! それは、あなた方の理屈で言えば、滅亡に進んでいるのではないのですか!?」 「私にとって、剣を捧げた主はただ一人だ。それを忘れるな」 ラルゴはそう言うと踵を返すと、用は済んだとばかりに歩き出す。 「…………おまえはここで何をしている?」 「私は、あなたほどヴァンに忠誠を誓ってはいませんから」 途中でディストがいることに気付いたラルゴは足を止めそう言った。 「それに、ヴァンが造る愚かな未来より、アッシュが創ろうとする希望の未来の方を信じただけですよ」 「……愚かな選択だな」 「それは、お互い様ですよ」 「…………」 ディストの言葉にラルゴはそれ以上何も言わずに、謁見の間から出て行った。 「…………陛下」 完全にラルゴが見えなくなったそのとき、アッシュは口を開いた。 「新生ローレライ教団との戦いは避けることはもう出来ません。……今こそ、真実を告げるときだと思います」 「…………そうだな」 アッシュの言葉にインゴベルトは、深い溜息をついた。 「ナタリア。アッシュと共にわしの部屋に来なさい。……おまえに話さねばならぬことがある」 「お父様…………?」 ナタリアは、不思議そうな表情でインゴベルトを見たが、彼は何も言わずに立ち上がると自室へと向かっていった。 「ナタリア、行こう」 「えっ、えぇ……」 アッシュにそう促されたナタリアは、表情は少し不安げだったが、頷くとアッシュと共にインゴベルトの私室へと向かった。 * * * 「お父様、どういたしましたの?」 インゴベルトの私室へと入ったアッシュとナタリアは、そこで椅子に腰を下ろしているインゴベルトを見た。 それにナタリアは、不安そうな声で問いかけた。 彼は一度だけ、チラリとアッシュを見て、アッシュが頷くのを確認するとナタリアを見た。 「…………おまえに話がある。おまえに実の父親にことだ」 「! ……確か、わたくしの本当の母は、ばあやの娘なのでしたわね……?」 「そう、シルヴィアだ。しかし、父親のことは知るまい?」 インゴベルトの言葉にナタリアは頷く。 「えぇ。詳しい話を聞く前に、ばあやは城を出て行ってしまいましたもの」 「おまえの父は、バタックという名の傭兵だったようだ」 「……傭兵……そうですの。でも、何故今になって急に…………?」 「バタックの行方が判明したのだ」 「っ! ……生きて……らっしゃいますの……?」 インゴベルトの言葉にナタリアは息を呑んだ。 「……なっ、なんですの?」 「ナタリア。気を強く持って聞いて欲しい。この事態だからこそ、おまえには父のことを話さねばならぬと思ったのだ」 そして、不穏な空気を感じ取ったのか、ナタリアの声が曇る。 「バタックは今、新生ローレライ教団にいる」 「そっ、そんな!?」 ナタリアの瞳には、はっきりと動揺が宿った。 「何故!? なっ、何かの間違いでは!?」 「…………いや、間違いない。アッシュが教えてくれた。バタックは今、名前を変え、教団の重鎮の一人となっている。……《黒獅子ラルゴ》と名乗り…………」 「……うっ、うそ…………」 インゴベルトの言葉が信じられないといった様子でナタリアは何度も首を振った。 「アッシュ………何かの間違いでしょう? そっ、そうですわよね……?」 縋るようなナタリアの言葉にアッシュは首を振った。 「ナタリア……本当なんだ。俺は、その真実を…………七年前から知ってたんだ」 「!!?」 申し訳なさそうにそう言ったアッシュの言葉にナタリアの表情が一変したかと思うと、彼女は駆け出した。 「ナタリア! 何処に行くつもりだ!?」 それを咄嗟にアッシュは、ナタリアの腕を掴んでそれを止めた。 「ラルゴを問い詰めますわ! 急げば追いつけるはず! わたくしは、認めませんわ!!」 アッシュの手を振り解き、ナタリアは飛び出した。 「ナタリア! まっ…………っ!!」 「アッシュ!?」 アッシュは、すぐにナタリアを追いかけようとしたが、突然眩暈に襲われ、ふらつく。 それに驚いたインゴベルトは、声を上げてアッシュに近づいた。 「だっ……大丈夫です。ちょっと、眩暈がしただけですから」 それを聞いたアッシュは、慌ててそう言った。 「……ナタリアには、俺から話してみます」 「……あぁ、頼む」 インゴベルトの言葉を背中で聞きながら、アッシュは部屋を出た。 廊下を駆け、突き当りの扉を開けた瞬間、ルークたちと出くわし、アッシュは足を止めた。 「どっ、どうしたの……?」 それに少し驚いた様子でティアがアッシュに問いかける。 「ナタリアが、こっちの来なかった!?」 「えっ、えぇ。今……」 ティアは通路の先、教会の玄関のほうを振り返った。 「追いかけなくちゃ! 今のナタリアは、何をしでかすかわからない!」 「! おい! じゃぁ、陛下との話は……」 「そうだよ! ラルゴがナタリアの父親だってことを話したんだ!」 ルークの言葉にアッシュはそう言った。 「「!?」」 「行きましょう!」 事情を知らないアニスとアリエッタだけが驚きの表情を浮かべた。 だが、ジェイドの言葉にすぐに踵を返すと教会を飛び出して、ナタリアを探し出すのだった。 Rainシリーズ第10章第3譜でした!! バチカルに新生ローレライ教団の使者としてやってきたラルゴとの対峙。 そして、ついにナタリアが実の父親がラルゴだと知らされる回となります。 何気に、ラルゴとディストの対話を書いているのが楽しかったです♪ R.5 9/23 次へ |