昇降機で下へ通り、天空客車に乗って港へとアッシュたちは出た。 そこで、アッシュたちが見たものは、ラルゴに向かって弓を向けているナタリアの姿だった。 〜Shining Rain〜 「ナタリア!」 「お仲間が来たようだぞ、姫」 「……おまえは……おまえは何故、六神将に入ったのです!」 グッとナタリアはさらに弓を引き絞った。 「そんなこと俺に訊いてどうする?」 「答えなさい! バタック!!」 「!!」 ラルゴが一瞬息を呑むのがわかった。 そして、ラルゴはアッシュを見ると全てを確信したような表情となった。 「バタック!」 弓が限界まで絞られた。 ラルゴは息をつくと腕を組み、ナタリアに背を向けた。 「……昔、妻は……シルヴィアは、ここから見る夕日が好きだった」 話の意図が読めず、ナタリアが動揺するのがわかる。 「あの日、俺は砂漠越えのキャラバン隊の護衛を終えて帰宅したところだった。家に帰るとシルヴィアも、数日前に生まれたはずの赤ん坊もいない。嫌な予感ってのは……本当にあるんだな。家の中に夕日が射し込んで、そりゃぁ赤くてな……」 ゆっくりとナタリアの腕が下がっていく。 「俺は必死になって街中探したよ。だが、シルヴィアは、見つからなかった」 「シルヴィアさんは、どうしましたの……?」 「……数日後、この港で浮かんでいるのが発見された」 「!?」 ラルゴの言葉にナタリアの肩がはっきりと震えた。 「どうし――」 「シルヴィアは、生まれたばかりの赤ん坊を奪われ、錯乱して自害したのだ!」 「…………そん、な……」 ナタリアの手から弓がするりと抜け落ち、浅橋の石畳に当たって、乾いた音を立てて転がった。 「シルヴィアは身体が弱かった。だが、預言士が二人の間に必ず子供が生まれる。……いや、産まねばならぬと言ってな。それが、あの結果を導く為だったと知って、俺はバチカルを捨てた。そして、各地を放浪しているときにヴァン総長に拾われたのだ。そのとき、ヴァンは俺にこう言った。『預言は星の記憶だ』と。星は、消滅するまであらゆる記憶を内包していて、全ての命は定められた記憶通りに動いている。預言は、その一端を人の言葉に訳しているだけなのだと」 ラルゴは、振り向いた。 その顔は逆光となっていて、表情を見ることが出来なかった。 「ならば、シルヴィアの惨い死も定められていたと? 馬鹿な。俺は預言を……いや、星の記憶を憎んだよ」 「……確かに惨い話ですわ。でも、預言は絶対ではないはずです。あれは、未来の選択肢の一つに過ぎないのではありませんか……?」 「しかし、そうして選んだ道も、選ばなかった道も、結局は同じ場所に辿り着くように出来ているのなら、そこに人の意思が働く意味があるのか?」 「結果は……同じ……?」 ナタリアの言葉にラルゴは頷く。 「そうだ。おまえたちが預言を禁じようとも、この星は自ら未来の記憶を保持し、その通りに進んでいる。ヴァンが目指す預言の消滅とは、すなわちローレライを……星の記憶そのものを消し去ること。あらゆる命が自由な未来を生み出す権利を得ることなのだ。俺はその理想を信じ、ヴァンと共に行動することを決めた」 「!!」 いつの間にか出航したのか、ラルゴの後ろに一隻の船が入り込んだかと思うと、ラルゴは浅橋から船の縁へと飛び乗った。 「忘れるな。おまえたちのやり方では手緩いのだよ」 「待ちなさい! あなたは……わたくしの――」 「ナタリア姫。私の娘は、もうこの世にはいないのだ。十八年に奪われてな」 ナタリアの言葉を遮ったラルゴの言葉は、とても静かなものだった。 そして、ラルゴはその言葉を最後とし、水平線へと消えていった。 「…………ナタリア。一度、城に帰ろう。陛下が心配してるよ」 アッシュは、ナタリアに近づくと優しくそう言った。 そうしないと、彼女はいつまでも、水平線を眺めていると思ったからだ。 それにナタリアは力なく頷くと、足元に転がっていた弓を拾い上げた。 そして、アッシュたちは再びバチカル城へと戻るのだった。 * * * 「ナタリア! 心配したぞ!」 城に戻ったナタリアをインゴベルトはそう言って出迎えた。 「……お父様……わたくし…………」 「辛かったであろう? だが、もういいのだ。もうこれ以上、新生ローレライ教団との戦いにおいて、最前線に立つ必要はない」 俯いたナタリアにインゴベルトは、首を振るとそう言った。 それを聞いたナタリアは、驚いたように顔を上げた。 「お父様!! 何故です!?」 「おまえは預言の処置について会議を執り行う為、使者として旅立った。もう使命は済んだはず。何故、血を分けた親子が戦う必要があるのだ?」 「血を分けた……親子だからこそ、越えねばならぬこともあると思います」 「!!」 ナタリアの言葉にインゴベルトは瞠った。 「いえ……本当はわからないのです。お父様の言う通り、戦わないほうがいいのかもしれません。ですが……みんなもラルゴが私の父親だと知っています。戦い辛いのは同じでしょう……。わたくしには……どうしたらいいのか…………」 再び俯いてしまったナタリアは、そう力なく言った。 「…………ナタリア」 そんなナタリアを見たアッシュが優しく話しかける。 「今すぐ結論を出す必要はないよ。新生ローレライ教団が戦いを準備するにも時間があるはずだ」 「そうだ。それに、俺たちにはこれからプラネットストームの停止作業がある。その間に結論を出せばいい」 アッシュの言葉に続くかのようにルークは言った。 「残ってもいい。ついてきて考えてもいい。……どうする?」 「…………」 ナタリアは、目を瞑り黙り込んだ。 アッシュたちは決して聞かず、彼女が自分で答えを出すのを待った。 「…………わたくし、ついて行きますわ」 大きく息を吐き、顔を上げたナタリアは、はっきりとそう言った。 「そこで考えさせてください」 ナタリアの言葉を聞いたインゴベルトは快く頷いた。 「……わかった。ナタリア、くれぐれも気を付けるのだぞ」 「我侭を言ってすみません。お父様……」 そう言ったナタリアは再び俯いた。 そんな彼女の肩にインゴベルトは優しく手を置くのだった。 Rainシリーズ第10章第4譜でした!! 今回は、ナタリアとラルゴの対峙のお話となりました。 これは、当時ゲームをプレイした内容でもかなりショックだったものでした。 シルヴィアさんとナタリアは、それだけラルゴにとって大切な存在だったんだろうなぁ。 それを預言のせいで二人いっぺんに失ったラルゴは、本当につらかったんだと思います。 この話では、ナタリアがどういう結論を出すのやら……。きっといい感じでアッシュが導いてくれるはずです! R.5 9/23 次へ |