「どうした、アッシュ?」 バチカルの自分の家の門の前から動かなくなったアッシュを見てルークは言った。 「…………なぁ、どうしても行かないとダメか?」 バチカル城でインゴベルトに今までのことを報告をルークたちは済ませた。 すると、インゴベルトがシュザンヌ――ルークの母が酷く心配しているから顔を見せてやって欲しいと頼まれたのだ。 そこで、ルークとアッシュは、ここへとやってきたのだ。 「当たり前だ。母上は、おまえのことずっと心配してたんだぞ」 躊躇いを見せるアッシュにルークは、眉を顰めてそう言った。 「でっ、でも、俺は…………」 「ここはおまえの家だ。行くぞ」 ルークは、アッシュの手を強引に掴むとそのまま歩き出す。 そして、屋敷の扉に手をかけるのだった。 〜Shining Rain〜 「ルーク! アッシュ!!」 屋敷の扉を開けた途端、その声は聞こえた。 既にインゴベルトから連絡を貰っていたのだろう。 そこには、シュザンヌと公爵の姿があった。 「二人ともよく無事で!」 すぐさまシュザンヌは、二人の許へと駆け寄ると二人をいっぺんに抱き締めた。 「兄上から話を聞きました。その話を聞いたとき、もう生きた心地がしませんでしたよ」 「すっ、すみません……」 「本当に何処も悪くない? 何処か痛いところはないのですか?」 「大丈夫です。俺もアッシュも検査で異常は見つかりませんでしたから」 シュザンヌを安心させるようにルークは優しい口調で言う。 「そう……本当によかった…………」 「…………」 本当に嬉しそうにそう言ったシュザンヌにアッシュは、何も言えなくなった。 「シュザンヌ。あまり二人を強く抱き締めるな。苦しそうだぞ」 「あら! 私ったら!」 公爵の言葉に自分が二人を強く抱き締めていることに気付いたシュザンヌは慌てて二人から離れた。 「二人とも。今日はゆっくり休んでくださいね」 「えっ! でも――」 「ありがとうございます、母上」 シュザンヌの言葉に口を開いたアッシュの言葉をルークが遮った。 「行くぞ」 そして、アッシュの手を引くと自分の部屋へと向かって歩き出した。 * * * 「…………ここが……ルークの部屋?」 中庭を挟んだ離れへとやってきたアッシュがルークに訊く。 それにルークは、あぁと頷く。 「もともとは屋敷にあったが、七年前からこっちに移ったんだ」 「そう……」 「別におまえにせいじゃねぇよ。悪いのは、ヴァンだ」 アッシュの表情が曇ったことに気付いたルークは、そう言うと自分の部屋の扉を空け、部屋の中へと入っていく。 それにアッシュも続く。 「あっ……」 部屋に入ったアッシュは、思わず声を漏らした。 目の前に広がる光景は俺が『ルーク』だったときに使っていたものとほぼ同じだった。 強いて違いを言うのなら、俺のときよりも本棚にはびっしりと本が並んでいるくらいだろう。 「どうかしたか?」 「えっ? いや、その……。ルークらしい部屋だなぁっと思ってさぁ」 それを不思議に思ったルークがアッシュに尋ねると、アッシュは慌てたようにそう言った。 「そうか? 何もない部屋だろ」 「そんなことないと思うよ。こんなにも本があるじゃん。全部読んだの?」 「あぁ。大体屋敷にある本は、一通りは読んだことはあるぞ」 「すっ、凄いな」 ルークの言葉にアッシュは、心底感心したようにそう言った。 「なぁ、屋敷を出る前って、ルークはどんなことして過ごしてたんだ?」 「そうだなぁ。……本を読んだり、ガイと話したり、ヴァンに剣の稽古をつけてもらったりだな」 「外に出られなくて、退屈じゃなかったのか?」 「いや。屋敷にいたって、本さえ読めば、大体の知識は得られたからな」 「そう、なんだ……」 ルークの言葉にアッシュは、やっぱり凄いと思った。 俺がここで過ごした七年間の唯一の楽しみは、ヴァンとの剣の稽古だったから……。 「そう言うおまえは、俺たちと出会う前は何してたんだ?」 「俺は……六神将で任務をこなしてたなぁ。被験者イオンの護衛とか…………人殺しとか」 「!?」 「ヴァンって酷いんだよ。ある程度、剣を扱えるようになった途端、俺を戦場とかに放り込んだもん」 「…………」 「俺の服って白いだろ? だから、何回も――」 「もういい!!」 そう言った途端、ルークはアッシュを抱き締めた。 「もういい。そんなこと、無理して笑って言うな」 「ルーク……?」 「悪かった。そんなこと、おまえに話させて……」 わかっていたはずなのに。 アッシュが今までどんなことをさせられていたのかなんて……。 初めてタルタロスであったときも、こいつは血だらけだった。 すべては、任務の為。 俺を生かす為。 俺がやらせてしまったのも同然のことなのに……。 「…………俺は、この手でたくさんの人の命を奪ってきた」 静かなアッシュの声がルークの耳の届く。 「それは被験者だけじゃない。……世界の為にレプリカたちの命も奪ったんだ。だから……俺の手は、血で染まっているんだ」 白い布が赤く染まって、どんなに洗っても戻らないように……。 俺の手が綺麗になることはないんだ。 「そんなことはねぇ!」 それに対してルークは、首を振った。 「アッシュ。おまえの手が汚れているって言うんだったら、それは俺たちも同じだ。俺たちだって、自分が生きる為と言って人の命を奪ってきた。世界の為、俺を生かす為におまえの命を……犠牲にしようとした」 「そっ、それは……」 「俺は何も知らなかった。だが、そんなの言い訳にもなんねぇんだよ。おまえを犠牲にしようとしたことは変わらない事実なんだから」 例え、そんなつもりがなかったとしても、それは変わらないのだ。 「俺はおまえの被験者だ。だから、おまえの背負った罪も俺のものだ。……これ以上、一人で罪を背負い込むな」 「!!」 ルークの言葉にアッシュは瞠目した。 「俺が……おまえごと、おまえの罪を背負ってやる」 「…………」 「アッシュ……?」 それを聞いたアッシュは、ルークの手の中からゆっくりと放れた。 その行動の意味をルークは、理解することが出来なかった。 「……ありがとう、ルーク。やっぱり、ルークは優しいんだな。俺なんかの為にそんなこと言ってくれるんだから」 「アッシュ……」 笑みを浮かべてそう言ったアッシュは言った。 「けど、俺なら大丈夫だから。だから、心配しないで」 「アッ……」 ルークが何かを言いかけたそのとき、ノックの音が響き、一人のメイドが部屋の中に入ってきた。 「失礼します。ルーク様、アッシュ様、ご夕食の準備が出来ましたので、応接間までいらしてください」 「わかった。ありがとう」 メイドの言葉にアッシュがそう言うとメイドは一礼をし、部屋を後にした。 「ほら、ルーク行こ。あの人たちを待たせるなんて悪いだろ?」 「あっ、あぁ…………」 ルークがそう頷くとアッシュは、ニッコリ笑って部屋を出て行った。 「…………アッシュ。俺がおまえを守るから」 もう、おまえ一人につらい思いはさせはしない。 絶対、俺がおまえを守る。 そのことをアッシュに言いそびれてしまったことを若干後悔しながら、ルークも部屋を後にするのだった。 Rainシリーズ第10章第2譜でした!! バチカルへとやってきましたよ!! おそらく、シュザンヌの抱きつきは激しいだろうなぁ、とか想像しながら書いてましたww にしても、ルークはよく聞いてはいけないことを聞いてしまうなぁ; アッシュと何か話したいと思って聞いたことなんだろうけどね R.5 9/23 次へ |