「どうしたですの、アッシュさん?」

グランコクマへと向かうアルビオールの中、ミュウはアッシュの肩に乗ると首を傾げた。

「具合でも悪いですの?」
「えっ? いや……そうじゃないけど…………」
「違いますよ、ミュウ。アッシュは、陛下に会うのが怖いんですよ♪」
「ジェッ、ジェイド!」

笑みを浮かべてそう言ったジェイドにアッシュは思わず声を上げた。

「……アッシュ。おまえ、陛下に何したんだ?」
「べっ、べつに……俺は何も……」
「よく言いますよ♪ 陛下に手紙を送ったでしょう? 自分の命の引き換えに障気を中和するからレプリカたちを保護して欲しいと」
「! 本当か、アッシュ!!」
「……障気を中和させるから、レプリカたちを保護して欲しいと書いただけだよ」
「同じことでしょう? あまり知識のない陛下にも、あなたが死を覚悟していたことがわかってしまったのですから」
「う゛っ;」

ルークの問いにアッシュはそう言ったが、ジェイドにそう言われアッシュは黙り込んだ。

「そりゃぁ、陛下も怒るよなぁ」
「うぅっ……;」

ガイの言葉にアッシュは顔を引き攣らせると、重い溜息をつくのだった。






〜Shining Rain〜








「アッシュさん!?」

グランコクマ城の門をくぐるとアッシュたちはアスランと遭遇した。
アッシュを見たアスランは、酷く驚いたような表情をした。

「アスランさん、もう動いて大丈夫なんですか?」
「ええ……。それより、自分の身体を心配してください。大佐から連絡はもらってましたが、本当に大丈夫ですか?」
「はい。ベルケンドの研究所の検査では、何も問題ないと言われました」

心配そうにそう尋ねたアスランにアッシュは頷くとそう言った。

「そうですか。陛下も随分心配していましたよ。早くお顔を見せてあげてください」
「……はっ、はい。…………うわぁっ!」

アスランの言葉にアッシュがそう言った途端、アッシュに何かが突進してきた。
それは、一匹のブウサギだった。
アッシュがここへ来る度に、これはアッシュに飛び掛ってくるのだった。

「またですか」

いつものパターンにジェイドは、そう言うと眼鏡の位置を直した。

「もう! 出迎えてくれるのは嬉しいけど、もっと考えろよな!!」

アッシュは何とが起き上がり、ブウサギを抱き上げるとブウサギにそう言った。
それに対してブウサギは嬉しそうに鳴いた。

「本当、わかってんのか? こいつ……;」

それを聞いたアッシュは、若干呆れたように言った。

「アッシュ! 突然走り出して、どうし……!?」

すると、何処からともなくピオニーが現れ、ブウサギのアッシュを抱いているアッシュを見た途端、瞠目した。

「…………アッシュ!!」
「へっ、陛下!?」

突然のピオニーの登場にアッシュは、慌ててブウサギを下ろして立ち上がった。

「あっ、あの陛下……すっ、すみません……。あっ、あのときは、あぁ書くしか…………!?」

必死に謝ろうと言葉を紡ぐアッシュの腕をピオニーは、掴むと自分のほうへと引く。
そして、そのままアッシュを抱き締めた。

「へっ、陛下……?」

ピオニーの突然の行動にアッシュは、目をパチクリさせた。

「…………よかった。……無事で……本当によかった」

あの美しい命の輝きを見たとき、もうアッシュに会えないかと思った。
ジェイドから連絡が入っても、すぐに信じることが出来なかった。
だが、今腕の中にあるこの温かさが全てを証明してくれた。
アッシュが、生きていることを……。

「…………陛下。ご心配をお掛けして、本当にすみませんでした」

それに対してアッシュは、それしか言えなかった。

「……本当だ、馬鹿者」

アッシュの言葉にピオニーは、零すようにそう言った。

「アッシュよ。私はおまえの行動は、国を治める者としては……感謝している」
「…………」
「だが、一人の人間としては……止めたかった。世界なんかの犠牲になって欲しくなかった」

失いたくなかった。
アッシュという存在を……。

「私は……王失格だな」

軍を動かしたあのとき、私はマルクト王としてではなく、一人の人間として軍を動かしてしまった。
それは、あってはならない事態だ。
国ではなく、たった一人に少年を選んでしまった。
国を治める者としては、やってはならないことだ。

「…………いいじゃねぇか」

そう言ったのは、ずっと話を聞いていたルークだった。

「指導者だろうが何だろうが、人には感情があるんだ。それを素直に出せる奴のほうが人は、信頼してついてくると俺は思う」
「……あまり素直じゃないあなたに言われても、説得力に欠けますねぇ♪」
「うっ、うるせぇ!」

そう言ったジェイドの言葉を聞いたルークは思わず怒鳴った。
それを見たピオニーは、フッと笑みを浮かべた。

「……で、陛下。いつまでそうして、アッシュを抱き締めているつもりですか?」

すると、いつまでもアッシュを抱き締めているピオニーに対してジェイドは言った。

「う〜ん。……できれば……ずっと♪」
「怒りますよ、陛下♪」

ピオニーの言葉にジェイドは、とびっきりの笑みを浮かべてそう言った。
それを聞いたピオニーは、すぐさまアッシュから放れた。

「アッシュ! 大丈夫ですか、何処も汚れてませんか!!」
「サフィール。その言い方はないと思うが;」

すぐさまアッシュの許へと駆け寄り、アッシュの身体のあちこちを確認しながらそうディストは言った。
それを聞いたピオニーは、眉を顰めてそう言った。

「当然でしょうが! これ以上あなたに触れられていたら、私の可愛いアッシュが汚れてしまうでしょうが!!」
「それは、あなたでも言えると思いますが?」
「何ですって!!」

呆れたようにそう言ったジェイドにディストは吠えた。

「とっ、とにかく! 謁見の間へ行こうよ! 陛下に他にも報告することもあるんだし!」

そんな二人の様子を見たアッシュは、慌てたようにそう言った。

「そうですね。いつまでもこんなところで立ち話もなんですし」
「アッシュがそう言うなら、そうしましょう」

それに対してジェイドとディストはあっさりとそう言った。
アッシュはそれに対して内心溜息をついた。
皆が謁見の間へと向かうのを見てアッシュも歩き出す。

「っ!?」

突如、感じた身体の違和感にアッシュは自分の掌を見た。
若干、掌が透けているのがよくわかった。

「兄さま。……どうかしましたです?」
「なんでもないよ、アリエッタ」

足が止まったアッシュに気付いたアリエッタが、アッシュの許へと駆け寄ると心配そうにアッシュを見つめた。
それに対してアッシュは、アリエッタに優しい笑みを浮かべた。

「さぁ、行こう。アリエッタ」

そして、アッシュは透けていた手とは逆の手をアリエッタへと差し伸ばした。

「はいです!」

アリエッタはそれを素直に取ると、アッシュと共に歩き出すのだった。
























Rainシリーズ第10章第1譜でした!!
バチカルへ行く前にグランコクマへとやってきました!
ピオニーに怒られると思っていたアッシュでしたが、予想外のピオニーの行動にビックリしてます!
やっぱり、ピオニーにジェイドを絡ませるのは楽しいです!


R.5 9/23



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