「シンク、いるか?」 任務が終わったついでに、アッシュはコーラル城へと訪れた。 扉を開けると、そこに萌え立つ緑のような髪を瞳が見えた。 〜Shining Rain〜 「アレ? シンク髪切った?」 この前ここを訪れたときには、まだイオンと同じ髪型だったが、 今のシンクは髪を短く切り、自分がよく知っているシンクの姿になっていた。 「邪魔だったから、切ったんだよ。……変か?」 「ううん。前よりもそっちのほうが似合っているよ」 このほうがシンクらしいとアッシュは思い素直にそう言った。 シンクは、その言葉に照れたのか少し顔が赤くなった。 「あれ? シンク、どうかしたのか? 顔赤いけど?」 「なっ、なんでもないよ///」 そうとは気付かないアッシュが言ったことにますますシンクの顔は赤くなった。 「……ところで、アッシュに相談したいことがあったんだ」 話を切り替えたシンクの緑の瞳が真剣なものへと変わった。 「何? 相談って?」 「僕、ダアトに行こうと思うんだ」 「えっ?」 シンクの思いのよらない言葉にアッシュは目を丸くした。 いつかはシンクはダアトに行くと思っていたが、こんなに早くとは思っていなかったからだ。 「別に弟に会いたいからじゃないよ。ずっとここにいるのも悪い気がするから」 シンクの言う弟とは、おそらく七番目のレプリカイオンのことだろう。 今は、違うけど俺にとって彼は大切な親友だ。 「……それに、僕はアッシュの役に立ちたいんだ」 「俺の?」 「うん」 シンクは頷くと視線を下へと移した。 そこにあるのは、アッシュがここに来るときにはいつも持っている黒い袋。 その中に何が入っているのかシンクは知っていた。 袋の中に入っているものは、金色の仮面と血で赤く染まったアッシュの白い服。 自分が不快な思いをしないようにアッシュはいつも着替えてここに来るのだ。 シンクは、その服を誤って見てしまったとき、別に不快には感じなかった。 それ以上に、アッシュのことが心配になった。 自分の知らないところで、アッシュは危険な目にあっているのに、何も出来ない自分がいる。 アッシュの役に立ちたい。 そして、アッシュの傍にいたいそう思う自分がここいる。 「別に、いいよ」 「えっ?」 アッシュがあっさりと賛成してくれたので、逆にシンクは驚いた。 少しは反対すると思っていたからだ。 「でも、少し条件がある」 「条件? 何だよ、それ?」 「それは…………」 「それって、つまり……」 「簡単に言えば、シンクにはこの世界を憎むフリをして欲しいんだ」 そうしないとヴァンはシンクを六神将にしないだろう。 ヴァンはこの世界と預言を憎む者を必要としているのだから。 「……わかった。それくらいだったら、僕にだって出来る」 もう、世界なんて憎んでなんかいないが、そのときのことを思い出せばきっとうまく演じられるはずだ。 「じゃあ、さっさと行こうか」 アッシュはそう言うとシンクに手を差し伸べた。 シンクもその手を躊躇うことなく取った。 アッシュの手はとても暖かかった。 そして、二人はダアトへと向かった。 「僕のこと忘れたとでも言うの?」 ヴァンの部屋にヴァンと二人きりで話すシンク。 シンクは、ヴァンの目の前で顔を覆っていた布を外した。 「おまえは……!」 ヴァンはシンクの顔を見て驚いた顔をした。 「やっぱり、顔を見たらわかるんだね。残念だけど、僕だけが生き残ったんだ」 シンクはそんなヴァンを見て不敵に微笑んだ。 「でも、どこに行ってもこの世界に僕の居場所なんかなかった。だから、アンタが僕を殺してよ。僕を作ったけじめをつけてよ!」 シンクは、この世の全てを憎むような目でヴァンに言った。 「おまえはこの世界が憎いか?」 「この世界が憎いかだって? 当たり前だよ! 望んでもいないのに僕という存在を作っておいて、必要なくなったらゴミみたい僕たちを捨てた。憎まないほうがおかしいだろ!!」 ヴァンの問いにシンクは声を張り上げていった。 それは、何時かのアッシュに言ったようなものだった。 それを聞いたヴァンは口元に笑みを浮かべた。 「ならば、私に協力しないか? 私と共にこの歪んだ世界を壊そう」 「世界を壊す。……面白そうじゃん。協力してやるよ」 シンクがそう言ったと同時に扉をノックする音が聞こえてきた。 「誰だ?」 「……アッシュです」 「アッシュか。入りなさい」 ノックしたのがアッシュだとわかると、ヴァンはそう言った。 「失礼します」 ヴァンの返事を聞いて、アッシュは部屋に入ってきた。 シンクは入ってきたアッシュを見て驚いた。 仮面を付けているせいなのか、自分が知っている彼とは別人に思えた。 それは、まるで心を持たない人形のようだ。 「たった今、任務から戻りました」 「そうか、ご苦労だったな。……そうだ、アッシュ。彼の世話をしてくれないか?」 「? 彼の世話ですか?」 その時初めて、アッシュはシンクの顔を見た。 「ああ、彼もおまえと同じレプリカだ。名前は……」 「僕の名前はシンクだ」 シンクは、はっきりとそう言った。 「……そうか、『シンク』か。では、アッシュ。シンクのことを頼んだぞ」 「わかりました。……いくぞ」 アッシュはそう言うと、ヴァンに一礼をしてから部屋から出て行った。 シンクはその後を慌てて追った。 すると、アッシュは外で待っていてくれていた。 「……じゃあ、俺の部屋に行こうか」 さっきとは、全然違う優しい声でそう言うと、アッシュは歩き出した。 シンクもアッシュと並んで歩いた。 「シンク、意外と演技うまいな」 「アッシュほどじゃないよ。本当に別人かと思ったよ」 「そうか、それはどうも……」 アッシュは途中で言葉を切ったかと思うと、シンクに布を被せた。 「何するんだよ! いきなり!!」 「誰かがこっちに来るから顔を隠しとけ」 アッシュの言うとおり、人の足音が聞こえてきたのでシンクは慌てて顔を隠した。 「兄さま!」 現れたのは、桃色の長い髪の少女だった。 「アリエッタ。どうしたんだ、こんなところにいるなんて?」 アッシュが呼ぶ名が彼女の名前だろう。 「今から、兄さまのお部屋に行こうとしてたんです」 アリエッタは笑顔でそう言った。 「……ところで、兄さまこの人は誰ですか?」 このとき、初めてアリエッタはアッシュ以外の人物がいることに気付いたようだ。 「彼はシンクだ。今日からここで暮らすことになったんだ」 「そうなんですか。よろしくです、シンクさん」 「……よろしく」 アリエッタの笑顔に少し照れたようにシンクは言った。 「アリエッタ。俺はまだ少し用事があるから、アリエッタの部屋で待っててくれないか?」 「……わかりました。すぐに来てくださいね」 アリエッタは少し寂しそうにそう言うと、自分の部屋へと走って戻っていった。 「何で、あの子アッシュのこと『兄さま』って呼ぶんだよ?」 「わかんない。俺は好きに呼んだらいいって言ったら、そう呼ぶようになった」 「なんだ、アッシュの趣味じゃないんだ」 「ばっ! 何、変なこと考えてるんだよ! さっさと行くぞ!!」 シンクの言葉にアッシュは怒ったのか、少し歩く速度を速めた。 シンクはそれに置いていかれないように着いていく。 「アッシュ」 「なんだ?」 シンクが声をかけるとアッシュはまだ怒っているようだった。 少しからかっただけなのに。 「改めて言うけど、これからよろしく」 「…………ああ」 シンクの言葉にアッシュは優しく返した。 これで、全ての駒が揃った。 あのときとは、違う形だがきっと大丈夫だ。 後は、時が流れるのを待つだけだ。 世界の運命。 そして、俺と『ルーク』の運命が動き出す、あの日まで…………。 Rainシリーズ第1章第8譜でした!! 思ったい所に長くなりました。 これで一応、第一章は完結になります。 H.19 3/9 第二章へ |