自分と同じ顔の彼が白衣の男たちに呼ばれてここを出て行った。
それから彼は、戻ってくることはなかった。
そして、あの日……。
僕たちは初めてあの部屋から出た。






〜Shining Rain〜  ―Side Synch―








ここは、何でこんなに暑いのだろうか。
そう思いながら、彼は列の一番後ろで彼らに付いていった。
隣にいる白衣の男は、なんとも涼しそうな顔で歩いていた。

「……この辺でいいだろう」

先頭のほうで歩いていた男が突然止まった。
そして、自分のほうに振り返り言った。

「イオン様の代わりはもう出来た。だから、お前たちはもう必要ない」
「!!」

あの時、部屋から出て行った彼が、被験者(オリジナル)の代わりになったのか。
男は、そう言うと一番近くにいたレプリカをマグマの中へと突き落とした。
彼は抵抗することなくマグマの中へと消えていった。
そして、レプリカが次々とマグマの中へと消えていった。
ついに、自分の番が来た。

「こいつで最後か」
「さっさと、終わらせるぞ」

そう言って、ずっと隣にいた男が自分の身体を押した。
自分も彼らと同じようにマグマへと吸い込まれようとしていた。
もうどうでもいいと、思い瞳を閉じた。
だが、いくらたってもマグマの中に入った気がしなかった。
すると、自分の頬に何か冷たいものが当たった。
瞳を開けると、目に入ってきたのは、マグマの色と思わせるような朱の長髪に翡翠の瞳。
瞳からはなぜか涙が流れ出していた。

(なんでだ……?)

何で彼は泣いているんだ。
訳がわからなかった。

「……ごめん。……君しか助けられなかったっ!」

彼は哀しそうに言った。
その声を聞きながら、自分は意識を手放した。

















(ここは……?)

目を覚ました自分は、全く知らないところで寝ていた。

(あれ……?)

身体のあちこちを見たがさっきまであったはずの火傷はどこにもなかった。

「起きていたのか?」

すると、誰かが部屋に入ってきた。
それは、さっき見たマグマを思わせる朱の長髪の彼だった。
手にはなにやら容器を持っている。

「…………」
「お粥作ってきたんだ。……食べるか?」

彼は近くにあったテーブルにそれを置いた。

「…………でだよ」
「えっ?」

不思議そうに彼は自分の顔を見る。

「なんで、僕なんか助けたんだよ!!」

何かが弾けたように自分は叫んだ。

「僕は死にたかったのに……」
「どんな命であっても、命を粗末にしてはいけない」

その言葉が妙に気に触り、自分は彼の胸倉を掴んだ。

「どんな命であってもだって? おまえなんかに、僕の……レプリカの気持ちなんかわかってたまるか!!」

わかるはずがない。
オリジナルである彼にレプリカの気持ちなんか……。

「わかるよ」
「えっ?」

予想外の言葉が返ってきて自分は驚いた。

「俺も……レプリカだから」

彼は自分に微笑んで言った。

「な、なんでだよ。だったら、どうしてそんな風に笑っていられるんだよ! ……世界が憎くないのかよ!!」

わからなかった。
どうしてだ。
どうして、そんな風に笑えるんだ。
自分はこの世界が憎くてたまらないのに……。

「俺は……生まれてきてよかったと思っている」
「どうしてそう思えるんだよ」
「俺にはやらなくちゃいけないことがある」
「やらなくちゃいけないこと?」

いつの間にか自分は彼から手を離していた。

「うん、それにどんな形であっても生まれてきたからには、一生懸命生きないといけないと思うんだ」
「でも、僕は……」

レプリカイオンの出来の損ない。失敗作だ。

「おまえはおまえだろ」
「!!」

初めてだ。
こんなことを言われたのは……。
あそこにいたときには、誰も自分のことは認めてはくれなかった。
でも、彼は自分は自分だと言ってくれた。

「僕は僕……?」
「うん」

彼は笑って頷いてくれた。
すると、彼は突然膝をついた。

「お、おい!」
「大……丈夫だ。……ちょっと……力を使いすぎただけだ」
「力? 僕の火傷が治っているのもその力を使ったからか?」

自分の火傷が治っているのは彼がその力を使ったからだ。
そのせいで、彼は苦しそうにしている。
彼は呼吸を整えると立ち上がった。

「もう、大丈夫だから」
「……ごめん」
「べつに謝らなくてもいい。俺が勝手にやったことだし」

申し訳なさそうにしている自分に彼は笑って答えた。
自分も、それに少し笑って返した。

「あっ! そういえば、おまえの名前、何がいいかな?」

彼は真剣に考え込んでいるようだった。

「…………シンク」
「えっ?」

彼は驚いたような顔をした。

「シンクでいい」
「……そっか、よろしくなシンク。俺はアッシュだ」

アッシュ。
その意味は『聖なる焔の燃えかす』。
でも、自分には彼が太陽のように思えた。
彼は傍にいたい。
彼の役に立ちたいと、そう思った。
























Rainシリーズ第1章第5譜シンク視点でした!!
アッシュに助けられたシンクは少しは世界を憎まなくなると思います。
そして、何よりもアッシュを大切に思うと思います。
オリジナルイオンはアッシュのことを月と例えたけど、シンクは太陽ですからねwww


H.19 2/14



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