アッシュはひたすら走る。
まだ間に合う。
彼らを助け出せる。
目指すは、ザレッホ火山。






〜Shining Rain〜  ―Side Asch―








イオンが亡くなって数日が経った。
イオンが死んでも、何も変わらない日常。
当たり前だ。
ここにいる奴はほとんどがイオンが死んだことを知らないのだから。
すると、アッシュは白衣を着た男たちとすれ違った。

(彼らは……)

間違いない。
あのときの研究者たちだ。

「何とか、出来てよかったな」
「ああ、あれだけ失敗作が出来ると駄目かと思ったよ」

男たちは笑いながら話す。

「で、今日だっけ失敗作を捨てに行く日は?」
「そうそう、さっきそれらをつれてザレッホ火山に行った筈だ」
「ああ、被験者(オリジナル)に一番近いレプリカが出来たしな」
「!!」

今日だったのか。
レプリカイオンがザレッホ火山に捨てられた日は。
助けたい。
でも、そうしたら運命が大幅に変わってしまう恐れがある。

(そんなことどうでもいい!)

人の命がかかっているのだから。
アッシュはザレッホ火山へと向かって走り出した。

















ザレッホ火山はとても暑かったが、それでもアッシュは走り続けた。
早く行かなければみんな死んでしまう。
それだけは、どうしても避けたかった。
アッシュはザレッホ火山を隅々まで見て彼らを探した。
そして、やっと彼らを見つけた。
白衣を着た男たちを。
そして、白い服を着たレプリカイオンを……。
だが、そこにいたのはたった一人だけだった。

(遅かったか……)

そして、最後の一人も抵抗することなく、マグマに向かって落ちていった。
それは、まるで人形のようだった。

(危ない!!)

アッシュは、躊躇うことなくマグマに向かって飛び込んだ。
そして、レプリカイオンを抱え込むと、崖を蹴って向こう岸へ移った。
その反動で、顔に付けていた仮面が落ち、マグマの中へと消えていった。
その光景を男たちに見られなかったのか、男たちはその場をさっさと立ち去っていった。
アッシュは彼を見た。
彼の顔や身体のあちこちに火傷が出来ていた。
アッシュは瞳から涙が溢れ出し、頬を伝って彼へと流れ落ちた。
彼は自分の頬に冷たいものを感じて瞳を開けた。
そして、アッシュの顔を見て驚いたような顔をした。

「……ごめん。……君しか助けられなかったっ!」

彼らも助けたかったのに……。
それが出来なかったことが悔しかった。

















それからアッシュは彼を抱えて、コーラル城に訪れた。
ここなら、誰にも見つかることがないと、思ったからだ。
アッシュは彼をベッドに寝かせると、お粥をつくりに厨房へと向かった。
長年、使われていなかった厨房だったが、何とかお粥を作ることには成功した。
それを持ってアッシュは彼がいる部屋へと向かった。
扉を開けると彼はベッドから身を起こしていた。

「起きていたのか?」
「…………」

彼に声をかけたが彼は返事をしなかった。

「お粥作ってきたんだ。……食べるか?」

アッシュは近くにあったテーブルにそれを置いた。

「…………でだよ」
「えっ?」

彼が何か言ったのをアッシュは聞き取ることが出来ず聞き返す。

「なんで、僕なんか助けたんだよ!!」

それに対して彼は声を張り上げていった。

「僕は死にたかったのに……」
「どんな命であっても、命を粗末にしてはいけない」

アッシュの言葉に彼はアッシュの胸倉を掴んだ。

「どんな命であってもだって? お前なんかに、僕の……レプリカの気持ちなんかわかってたまるか!!」

自分がよく知っている、憎しみがこもった瞳が自分へと向けられる。

「わかるよ」
「えっ?」

アッシュの言葉に彼は驚いたような顔をした。

「俺も……レプリカだから」

アッシュは彼に微笑みかけた。

「な、なんでだよ。だったら、どうしてそんな風に笑っていられるんだよ! ……世界が憎くないのかよ!!」
「俺は……生まれてきてよかったと思っている」
「どうしてそう思えるんだよ」
「俺にはやらなくちゃいけないことがある」
「やらなくちゃいけないこと?」

彼はアッシュから手を離した。

「うん、それにどんな形であっても生まれてきたからには、一生懸命生きないといけないと思うんだ」
「でも、僕は……」
「おまえはおまえだろ」
「!!」

俺がルークと違うように、彼もイオンとは違う。
一人の人間なんだ。

「僕は僕……?」
「うん」

アッシュは頷いた。
その途端、アッシュは眩暈に襲われて膝をついた。

「お、おい!」

心配そうに彼がアッシュに声をかけた。

「大……丈夫だ。……ちょっと……力を使いすぎただけだ」
「力? 僕の火傷が治っているのもその力を使ったからか?」

彼の火傷は思った以上にひどかった。
アッシュは勉強して治癒譜術(ちゆふじゅつ)を習得したが、あまり使いすぎると倒れてしまう。
アッシュは呼吸を整えると立ち上がった。

「もう、大丈夫だから」
「……ごめん」
「べつに謝らなくてもいい。俺が勝手にやったことだし」

暗い表情になってしまった彼にアッシュは笑って答えた。
それを見た彼も少しだけ明るい表情になった。

「あっ! そういえば、おまえの名前、何がいいかな?」

アッシュは考え込んだ。

「………シンク」
「えっ?」

彼が聞き覚えのある名前を呟いた。

「シンクでいい」

シンク。
やっぱり、彼がそうだったんだ。

「……そっか、よろしくなシンク。俺はアッシュだ」

アッシュは、シンクに生きる希望を持って欲しいと思った。
生まれてきたことを憎んでいた、あのときと同じにならないように……。
























Rainシリーズ第1章第5譜でした!!
今回はアッシュの視点とシンクの視点に分けて書いてみようと思いました。
結構、アッシュは無茶なことしてますね〜


H.19 2/12



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