通路を歩くアッシュの目に映ったものは、綺麗な桃色の髪だった。 〜Shining Rain〜 「何してるんだ」 アッシュは、その人物の背中に話しかけた。 すると、小さな肩がビクッと震えた。 恐る恐るといった感じで彼女は振り返った。 目は泣いていたのか赤くなっていた。 「何かあったのか?」 怖がらせないように、アッシュは出来るだけ優しく言った。 前から、アリエッタが自分を怖がっていたのがなんとなくわかっていたからだ。 すると、彼女の瞳から涙が溢れ出してきた。 「!!」 アッシュはどうしたらいいのかわからず、少し戸惑った。 「……イオン様が……イオン様がっ……」 泣きながら、アリエッタは話し始めた。 「イオン様が何処にもいないです。……何処を探しても見つからないんです」 (あのバカ導師が!!) いつも、暇さえあれば、ふらふらとどっかに行ってしまう彼。 それにいつも振りまわさせるのは、導師守護役のアリエッタだ。 「わかった。導師イオンを探すのを手伝ってやるよ」 「えっ?」 アッシュの思いがけない言葉にアリエッタは驚いた顔をした。 「一人で探すより、二人で探す方が効率がいいだろ」 「で、でも、任務があったんじゃないですか?」 不安そうな顔でアリエッタは言った。 「大丈夫だ。今日の任務は終わらせてきた」 それを取り除いてやるかのようにアッシュは優しく言った。 その言葉を聞いて、アリエッタは明るい表情になった。 「あっ、ありがとうございます。えっと……」 アリエッタはアッシュをなんて呼んだらいいのかわからず戸惑った。 (そういえば、名前を教えてなかったなぁ……) 自分は、アリエッタの名前を知っていたから、アリエッタも知っていると勘違いしていた。 「俺の名前は『アッシュ』だ」 「アッシュ?」 「うん。呼び捨てでも何でも、好きに呼んだらいい」 アッシュの言葉を聞いて、何故かアリエッタは考え込んだ。 「……じゃぁ、『兄さま』って呼んでもいいですか?」 「? …別にいいけど?」 「嬉しいです。アリエッタ、ずっと兄さまが欲しかったんです♪」 本当に嬉しそうに笑ってアリエッタは言った。 アッシュはこのとき初めて彼女の笑顔を見た。 自分が知っている彼女は、いつも泣きそうな顔と、自分たちに向けられる怒りの顔だけだった。 「私の名前は、『アリエッタ』って言います」 「知ってるよ」 「えっ?」 アリエッタは驚いた顔をした。 (しまった!!) まだ、知らないはずだったのに。 つい、口が滑ってしまった。 「イオンがいつも君の話をしていくんだ。『アリエッタは可愛い』って」 「えっ? そ、そんな///」 アリエッタの顔は見る見るうちに赤くなった。 とっさに言ったことだが、決して嘘ではない。 毎日、俺の部屋に来るイオンは必ずアリエッタの話をする。 何十回も、何百回も話を聞いた。 イオンではないが、今のアリエッタは可愛いと思った。 「さぁ、イオンを探しに行こうか」 アリエッタにアッシュは手を差し伸べた。 「うん!」 アリエッタは元気よく頷くと、アッシュの手を取った。 「何処から探すんですか?」 歩き始めて、少し経ってからアリエッタはアッシュに聞いた。 「大方、イオンが行きそうな場所はわかる」 「? 何処ですか?」 「行けばわかるよ」 アッシュは優しく言った。 そして、そのままある場所を目指して歩く。 アリエッタはアッシュの手を放さないように強く握って歩いた。 暫く歩くと、その部屋に着いた。 「? ここですか?」 「ああ」 アッシュは扉のドアノブに手をかけ、扉を開けようとした。 すると、扉はゆっくりと開いた。 (当たりか……) そして、アッシュはそのまま勢いよく扉を開けた。 すると、案の定イオンが椅子に座っているのが見えた。 「やぁ、アッシュ。……って、何でアリエッタと手繋いでるの!!」 アッシュを見たイオンは初めは笑顔だったが、アッシュとアリエッタが手を繋いでいるのを見て驚いたような顔をした。 「そこで、あったからイオンを探すのを手伝っていたんだ。な、アリエッタ」 アリエッタに同意を求めると彼女は頷いた。 「はい。兄さまにイオン様を探すのを手伝ってもらいました」 「にっ、兄さまだって!?」 アリエッタの言葉にさらにイオンは驚いたような顔をした。 「アッシュだけずるい!! 僕もアリエッタに『兄さま』って呼ばれたいのに!!」 「無理だろ。イオンはアリエッタより年下なんだから」 「うっ、うるさいな!!」 いつも以上にほえるイオンを見て、アッシュはただただ呆れていた。 「……ところで、部屋にどうやって入った。俺はちゃんと鍵をかけたはずだが?」 そう、この部屋はアッシュの部屋だ。 任務で部屋を出て行くとき、確かに鍵を閉めていった。 「ああ。それは、この部屋の合鍵を作ったから、それを使って入ったよ♪」 イオンはその質問に対して、ニッコリ微笑んで答えた。 「何、勝手に人の部屋の合鍵作ってるんだ!!」 「だって、アッシュ最近居留守使うから」 イオンのその言葉にアッシュは呆れるしかなかった。 「あっ、でも今日はちゃんと用事があって来たんだよ」 「何だよ。その用事は」 アッシュの問いにイオンは不敵な笑みを浮かべた。 なんだか、とても嫌な予感がする。 「明日、公務でグランコクマに行くんだけど、護衛としてついてきて」 「断る」 イオンの頼みをキッパリとアッシュは断った。 「なっ、なんでだよ! 明日は、任務はないはずだよ!」 「そうだとしても、ヴァンが許さないだろ」 「ふふ、残念でした。さっきヴァンに言って許可もらったよ♪」 「!!」 まさかの展開にアッシュは驚いた。 あのヴァンを一体どうやって説得したのだろうか。 「アリエッタもアッシュに来て欲しいよね♪」 「はい! 一緒に来て欲しいです」 アリエッタの純粋な言葉にアッシュはついに折れた。 「……わかったよ。明日、護衛としてついてやるよ」 「本当? やった!!」 イオンは本当に嬉しそうに笑った。 それから、イオンがアリエッタを利用して度々アッシュを公務に同行させたのは言うまでもない。 Rainシリーズ第1章第3譜でした!! アッシュとアリエッタが仲良くなしました!! なんとなく、アリエッタにアッシュのこと『兄さま』って呼ばしてみたく、呼ばしてみました!! イオン様は相変わらず、黒い(?)です。 H.19 2/3 次へ |