「アッシュ、遊ぼう♪」

毎日、飽きもせず俺の部屋に来る彼。
萌え立つ緑を思わせる濃い髪と、同じ色の瞳が目に入った。






〜Shining Rain〜








「また抜け出してきたのですか、イオン様」

呆れながらアッシュは目の前にある書類を片付けながら言った。

「だって、暇なんだもん。……それと誰もいないときは呼び捨てでいいって言ったよね?」

アッシュは初めて彼に会ったとき、正直驚いた。
彼はとても子供っぽく、人を困らせるのが楽しいのだ。
話を聞いたところ暇さえあれば、部屋から抜け出す。
ひどいときには、ダアトの外にまで言ってしまうことがあるそうだ。
とても、イオンの被験者(オリジナル)が彼だと思えなかったが、時々見せる凛とした姿は神々しく、やはりイオンにそっくりだった。

「あの子はどうした?」
「あの子?」

アッシュの言葉にイオンは首を傾げた。

導師守護役(フォンマスターガーディアン)のあの子だよ」
「ああ、アリエッタのこと? 途中までは一緒だったけど、撒いてきちゃった♪」
「…………」

イオンの言葉にアッシュはまた呆れた。
このダアトで一番苦労しているのは、たぶん彼女ではないかとアッシュは思った。

「それより、アッシュ。その仮面を外してよ」

イオンは、アッシュの仮面を指差して言った。

「……これを外すと、ヴァン謡将に叱られる」

ダアトに来てからアッシュは、この金色の仮面を付けている。
ヴァンに命令されたこともあるが、自分自身それを望んだ。
これを付けていると、表情を隠せるので、人形を演じやすいからだ。
だが、イオンは他に人がいないときにはそれを外させようといつもする。

「いいじゃんか、別に。ここには僕しかいないし。それに、ヴァンは僕の部下だよ」
「だが――」
「外して」

戸惑うアッシュにイオンはキッパリと言う。
こうなったら、彼は決して自分の意見を曲げない。
アッシュは諦めたかのように溜息をついた。

「……わかったよ。ったく…………」

アッシュは仮面を外した。
そこから現れたのは、美しい翡翠の瞳。

「綺麗…………」

イオンは思わず、呟いた。本当に綺麗だ。
夕焼けのように赤い長髪によく映えている。
まるで、芸術品のようだ。
イオンは、彼の被験者(オリジナル)を見たことはないが、きっと彼の方が綺麗だと思っている。
もうずっと、仮面を付けないで欲しいと、思った。
すると、コンコンとノックする音が聞こえてきた。
その音を聞いた途端、アッシュはすぐに仮面を取り付けた。
もっと、彼の顔を見ていたかったのに………。
イオンは、今ノックした人物を恨みたくなった。

「どうぞ」

アッシュが返事をすると、ゆっくりと扉が動いた。
そこから、腰まで届く長い桃色の髪の少女が現れた。

「あの……ここにイオン様、来てませんか?」

恐る恐る、少女は言った。

「やぁ、アリエッタ。見つかっちゃったね♪」

入ってきたのがアリエッタだとわかったら、イオンは笑顔で言った。
それを見たアリエッタの表情は少し柔らかくなったのがわかる。

「イオン様、探しましたよ。もうすぐ公務の時間です」
「え〜〜〜っ! もう、そんな時間なの! もっと、アッシュと遊びたいのに!!」

不満そうにイオンは言った。

「仕方ないだろ。さっさと、行って来いよ」

そんなイオンを宥めるように、アッシュは言った。

「じゃぁ、アッシュも一緒に公務に行こうよ♪」
「悪いけど、これから任務があるからな」

イオンの誘いをあっさりとアッシュはかわした。

「ちぇ、なんだよ〜」
「あの……イオン様そろそろ……」
「あ、うん。わかったよ」

アリエッタに言われてイオンはしぶしぶ部屋の外へと歩き出す。

「じゃぁね、アッシュ。また遊びに来るから」

笑顔でそう言うと、イオンは部屋を出た。
その途端、アッシュの部屋は静かになった。
ふと、アッシュはさっきのイオンの顔を思い出した。

(……やっぱり、似てるなぁ)

あの笑顔を見ると、いつもイオンを思い出してしまう。
あのイオンの優しい笑顔を……。
アッシュは目の前の書類を全て片付け終わると、立ち上がり壁に立て掛けてあった剣を取った。
ヴァンに命令された任務をこなす為、アッシュは部屋を出た。
これから人を殺す。
まるで、心のない操り人形のように……。
























Rainシリーズ第1章第2譜でした!!
今回はオリジナルイオン様とアリエッタが登場しました。
なんだか、イオンが子供っぽいなと、思いながら描きました。
これから、任務で人を殺しに行くアッシュ。
きっと、夜中には1人でうなされていると思います。


H.19 2/2



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