欲しい。
初めて、あの夕焼けのような赤い光を見たときから一目で心奪われた。
誰にも渡したくない。
あの赤い光が欲しい。
たとえ、どんな手を使ってでも……。

~愛しき人形~

「暇だなぁ~」

ルークは、自分の部屋の窓から空を眺めた。
窓は開けられていたので、とても心地いい風がルークの髪を揺らす。
戻ってきたときには長かった髪は、今は前のように短く切った。
そのほうが自分に合っている気がしたからだ。

「おい」

ふと、声が聞こえルークは振り向く。
自分より濃い紅の長髪の髪。
自分の完全同位体で、一番大切な人。

「アッシュ」
「何、朝から間抜けな顔してるんだ」

アッシュはルークに近づいた。

「間抜けな顔なんてしてねぇぞ!」
「だったら、さっさと公務の準備をしたらどうだ」
「いや……。それがさぁ……」
「?」

ルークが言葉を濁らせたので、聞き返そうとしたその時、誰かが部屋に入ってきた。





* * *





「ルーク、いるか?」

部屋に入ってきたのは、幼馴染のガイだった。
ガイはルークとアッシュの側に来た。

「聞いたぞぉ。今日の公務無くなったんだってなぁ♪」

ガイは嬉しそうに言った。

「うん、なんか連絡事項の間違いがあったみたいで、今日の公務が三日後になっちゃたんだよ」
「だったら、今日暇だよな? よかったら、俺と一緒に剣の稽古しないか?」
「えっ? う――」
「なりませんわ!!」

ルークがガイに返事をしようとしたその時、勢いよくドアが開き誰かが入ってきた。

「ルークは、わたくしとお茶をするのが決まってましてよ」

それは、もう一人の幼馴染のナタリアだった。

「あのな! 俺が今ルークを誘っているのが見て判らないのか!!」
「あら、まだルークはガイに返事してませんわよ。だったら、わたくしもルークをお誘いしてもよろしいじゃなくて?」

などと、ガイとナタリアは言い争いを始めた。
そんな二人をルークは困ったような顔をして見ていた。

「ルーク♪」
「うわぁ!」

声が聞こえたと思うと、ルークは誰かに抱きつかれた。

「ビックリするだろ。離れろよアニス」
「きゃは、ごめんなさ~い♪」

アニスはルークに言われた通り離れた。

「あのね、ルーク。フローリアンがルークに会いたがってるんだ。よかったら、一緒にダアトに来てくれない?」
「えっ?」

そのことを聞いた途端、ガイもナタリアも諦めたような顔をした。
フローリアンが会いたいっと言ったのなら仕方ないと思ったのだろう。
そのことを確認できたルークはアニスとダアトに行くことを決めた。

「フローリアンなら、今朝グランコクマへご公務に向かわれたはずよ」

そう言いながら、ティアが部屋に入ってきた。

「ティア! ひどい!! バラしちゃうなんて!!」

アニスがティアに猛抗議する。

「嘘はダメよ。アニス」
「ぶ~~~~!!」

ティアの言葉にアニスはむくれた。

「おい! アニス!! フローリアンを出汁に使うなんて卑怯だぞ!!」
「そうですわ!!」
「うっさいわね! アニスちゃんは、使えるものは全部使うんだから!!」

ガイとナタリアの抗議にアニスはキレた。
それによって、ガイとナタリアとアニスはバトルが始まってしまった。

「……ルーク」

そんな三人は、お構いなしにティアがルークに話しかけた。

「あの……。もしよかったら……私の……買い物に付き合ってくれない?」
「えっ?」
他に色々考えていたはずなのに、ティアはそれしか言えなかった。

「ちょっと、ティアずるい~~~!!」
「そうだぞ! それに俺が一番最初にルークを誘ったんだぞ!」
「……いっ、いいじゃない。ルークの公務がお休みなの、滅多にないんだし……」
「それは、みんなも同じですわ! 抜け駆けは許しませんわよ!」
(困ったなぁ~)

俺は、今日誰と一緒に過ごしたらいいんだろう。
本当は、一緒に過ごしたい人は、決まっているけど……。
でも、迷惑をかけたくないから言えない。

「おやおや、ここはずいぶん賑やかですねぇ♪」

全員が一斉に扉のほうを向いた。
声の持ち主は予想していた通りジェイドであった。

「残念ですけど、今日は私がルークを預かります。今日は、診察日ですから」
「えっ? そうだっけ?」

ルークは帰ってきてから念のため、月に一回ベルケンドに診察に行っているのだ。

「そうですよ。忘れてたんですか? ダメですね~」

ジェイドが呆れたように言った。

「ところで、私がルークを預かるのに反対の人はいますか?」
「「「「…………」」」」

ジェイドが笑顔で言うと、みんな黙った。
その笑顔が怖いというものあるが、ルークが診察を受けるのが一番重要だということがわかっているからでもある。

「反対の人は、いないようですね。では、行きますかルーク♪」

微笑みながらジェイドはルークの手を差し伸べた。
まるで、レディーをエスコートするみたい。

「えっ? あっ、うん……」

ルークはジェイドの手を取ろうとしたが、その瞬、間誰かがルークの手を掴み遮った。
それは、ずっと今まで傍観をしていたアッシュだった。

「……調子に乗ってんじゃねぇぞ、このクソ眼鏡が! ルークの診察日は、来週のはずだ!!」

アッシュは、思いっきりジェイドを睨み付けた。

「おや? バレましたか」

そのジェイドは、悪びれることなく笑顔で返してきた。

「……来い! ルーク!」
「えっ? ア、アッシュ!?」

アッシュはルークの手を握ったまま部屋を出て、屋敷の外に向かった。

「ア、アッシュ様! これから公務ですよ!」

メイドたちが慌ててアッシュを呼び止める。

「うるさい! 今日は休む!!」

そう言って、メイドたちを黙らせたアッシュはルークを引き連れさっさと屋敷を出て行った。

「あ~あ、結局アッシュにルーク取られちゃった~」
「残念ですわ~」
「あんたのせいだろ。アッシュがキレたのは;」
「おや、人のせいにしてはいけないですよ。ガイ」
「……ルーク、次いつがお休みかしら……」

次の休みこそは、ルークと一緒に過ごすことを決意するティアたちであった。





* * *





何故、こうなってしまったんだ?
ガイやナタリアがルークを誘いに来たときはまだ、こんな気持ちにはなってなかった。
だが、時間が経てばなんとも言えない感情が込み上げてきた。
そして、ルークがあの眼鏡の手を取ろうとした瞬間、それが一気に弾けたのがわかった。

「アッシュ、待てよ」

屋敷を出た後すぐにルークの手を放したせいか、早足で歩くアッシュをルークが追いかける。

「何、怒ってるんだよ?」
「怒ってなどいない!!」

首を傾げるルークに対してアッシュは怒鳴った。
決して、ルークに対しては怒ってなかった。
むしろ、自分の腹が立った。
あの場で、ルークの一番近くにいたはずなのに、今日ルークの公務が休みになったのを知らなかったのは、俺だけだった。
それが、何より悔しかった。

「なんだよ。やっぱ、怒ってるんじゃんか」

ルークは笑顔で言う。

「……何、笑ってやがるんだ」
「だって、嬉しいんだよ。アッシュが俺のために公務を休んでくれて!」
「///ばっ! だっ、誰がお前なんかの為に……」

ルークの笑顔と言葉にアッシュは顔を真っ赤にした。

「……もう、いい! いくぞ!!」
「えっ? 行くって何処に?」
「何処だっていい! お前が行きたいところに行けばいいだろ。今日一日俺が付き合ってやるから」

アッシュはそう言った後、港方へ歩き出した。

(やっぱ、アッシュって優しいなぁ~)
「あっ、ちょっと待てよ!」

アッシュを追いかけようと走り出そうとしたその時、ルークは子供とぶつかった。
ルークはすぐに体勢を立て直し、ぶつかった子供を受け止めた。

「ふぅ。……大丈夫か?」

ルークは見る。
子供は、灰色のフードを頭に被せているので、顔はよく見えなかった。
ルークが問いかけるとコクリと一回頷いた。

「おい、何やってるんだ。いくぞルーク」

遠くのほうでアッシュの声が聞こえる。

「あっ、うん」

ルークは、アッシュのところへ行こうとする。
すると、子供がルークの服を引っ張った。

「? ……何?」
「…………」

何か言いたそうだが、言葉は返ってこなかった。

「ルーク!」
「うん、すぐ行く! ……ごめんね、またね」

ルークは子供のそう言うと、走り出した。
子供は、ルークが見えなくなるまでずっとルークを見つめていた。
そして、誰にも聞こえない声で呟いた。











”見つけた”と。








新シリーズ第1話でした!!
とにかく、1話が長くなってしまいました。
とても次はこんなに長くかけそうにないです。
なんか、ルークがすごくみんなに愛されていますね(^_^;)
本当に、ガイたちはどうやってルークの悩みを調べたのかなぁ?

H.18 7/25