どうして世界は、こんなにも酷く残酷なんだろう……。


~Speculation Of Each~

「冗談じゃないですよっ! どうして僕が貴方以外の人とコンビなんか……」

バーナビーの自宅。
そう声を荒げて、バーナビーは一気に酒を喉へと流し込んでいく。
こんなにもバーナビーが荒れているのは、今日新アポロンメディアのCEOから出された辞令のせいだ。

――――辞令。バーナビー・ブルックスJr.をヒーローTVの二部リーグから一部リーグへ昇格とする……。

それを聞いた時バーナビーは心の底から喜んだ。
また、前の仲間たちと、そして虎徹さんとあの舞台で活躍できるのだと……。

――――そして、ライアン・ゴールドスミスと新たなコンビを組むことを命じる。

だが、その後に続いた言葉は、バーナビーが望んだものとは真逆の内容だった。
ワイルドタイガーとのコンビを解消し、新人ヒーローとコンビを結成しての一部リーグへの復帰だなんて……。

――――あっ、あの! 虎徹さんは……?
――――彼には、引き続き二部リーグで頑張ってもらうよ。能力が一分しか持たないのだから、当然の判断だと思うが?
――――ですがっ!?
――――バーナビー。これはもう決定事項だ。一般社員である君はそれに従うしかない。……もう、マーベリックはいないのだから。

バーナビーが反論しようと口を開いた時、新CEOそう告げた。
今まで僕の意見が会社に通ったのは、マーベリックの存在があったからに過ぎないと事を彼は僕に言いたかったのだろう。
その言葉にバーナビーは何も言い返せなかった。
それが何より悔しかった。

「まぁまぁ、そう落ち込むなよ、バニーちゃん」

そんなにバーナビーの心情を察してか、虎徹はいつもと変わらない笑顔を浮かべてそう言った。

「虎徹さんは悔しくないんですかっ! この街だって、虎徹さんが守ったようなものなのに、こんな仕打ちはあんまりですよっ!!」

あのマーベリック事件からこの街を守ったのは、他でもない虎徹さんなのだ。
虎徹さんがいなければ、今の僕は存在などしていない。
虎徹さんがいたから、僕は再びヒーローとして輝けたのだ。
だから、一部リーグに戻る時は、虎徹さんと一緒でなければ意味がないのだ。

「会社なんてそんなもんさ。自分の意見が通る方が稀なんだぜ? 俺は、二部リーグでやっていくさ。ヒーローに事件の大きいも小さいもねぇからな」
「……虎徹さんは、僕が貴方以外の人とコンビを組んでも何とも思わないんですか?」

虎徹の言葉を聞いたバーナビーは思わずそう言葉を溢した。

「それは……」
「僕が逆の立場だったら、絶対に嫌ですっ! 虎徹さんの隣に僕以外の……あんな金獅子がいると考えるだけで、頭がおかしくなりそうですっ!!」
「おいおい。新しい相棒に対してひっでぇ言いようだなぁ;おじさんだったら、泣いちゃうぞ;」
「僕はあんな奴、相棒だなんて認めてませんっ! 僕の相棒は虎徹さん、貴方だけですっ!! ……虎徹さんもそうじゃないんですか?」
「…………」

バーナビーの言葉に虎徹は口を閉ざした。

「虎徹さん……」
「…………そんなの当たり前じゃねぇか」

それでも尚、バーナビーが返事を待っていると、虎徹がそう小さく呟いた。
その声はとても弱弱しかった。

「……俺だって、嫌に決まってるだろ。俺の相棒はバニーだけだ。他の奴なんて考えられねぇよ。…………ごめんな、バニー」
「どうして虎徹さんが謝るんですか?」
「……俺が……能力減退なんて……しなかったら……」

能力減退なんてしていなければ、ずっとバニーの相棒でいられたかもしれない。
能力減退なんてしていなければ、バニーにこんな思いをさせずに済んだはずなんだ。
本当にごめんな、バニー……。

「…………貴方のせいじゃない」

虎徹が何を言おうとしたのか、わかったのかバーナビーはそう言って遮った。

「貴方のせいなんかじゃない。いつもそうだ。貴方は、すぐ何もかも自分のせいにする」
「けどさぁ……」
「悪いのは、世界そのものですよっ!!」

どうして、こんなにも世界は彼に対して残酷なんだ。
彼から、最愛の人を奪い、能力減退までもさせた。
それを全て乗り越えて、尚もヒーローとしてあり続けようと彼を見て、僕は彼を支える為にヒーローとしてこの街に戻って来たのだ。
そして、ずっと内に秘めていた思いを打ち明けて、やっと公私ともに彼を支えられると思っていたのに……。
それなのに、世界はそれをも彼から奪おうとする。
一体、世界は彼を何処まで苦しめれば気が済むのだろうか。
誰が、この苦しみから彼を救い出せるのだろうか……。

「……バニーちゃんは、やっぱ優しいなぇ。そんな事言ってくれるの、バニーちゃんくらいだよ」
「……っ! 虎徹さんっ!!」

そう言って笑みを浮かべる虎徹見たバーナビーは思わず虎徹を抱き締めた。
その笑みがあまりにも哀しくて、儚くて、抱き締めていないと彼という存在が消えて無くなってしまうのではないかという衝動に駆られたからだ。
抱き締めてみると、彼から熱を確かかに感じる事ができ、少しだけその気持ちが落ち着いた。
好きです。貴方の事を愛しているんです。
ずっと内に秘めたこの気持ちを伝えてやっと二人の想いが通じ合ったというのに……。
これからもずっと二人で歩いて行けると思っていたのに……。

「バニー……」

バーナビーの気持ちに応えるように虎徹もバーナビーの身体を抱き締め返す。
それが、自分の気持ちをなかなか表に表わさない虎徹ができる精一杯の表現だった。

「虎徹さん。僕は、諦めませんから……」

すると、虎徹の耳元でバーナビーはそう囁いた。
その声は何処までも静かで、優しかった。

「今シーズン、僕は必ずキング・オブ・ヒーローに返り咲いて見せます。そして、あの表彰台で、貴方の一部リーグ復帰とコンビ再結成を宣言してやりますから」
「おいおい。そんな事言って大丈夫かよ;つーか、そんなこと本当にできんのか?」
「キング・オブ・ヒーローになってしまえば、会社だって文句は言わないでしょう? それに、僕は言った事は必ず実現させるって事、虎徹さんが一番よく知ってるでしょ? そうやって、貴方を落としたわけでもありますし♪」
「だあっ/// はっ、恥ずかしい事言うなよっ////」

自信満々のバーナビーの言葉を聞いた虎徹は赤面した。
それを見たバーナビーは優しく微笑んだ。
もう誓ったんです。
もう二度とこの手を放さないと……。
貴方をこの苦しみから救い出せるのは、僕以外あり得ないのだから。
必ず、この苦しみから貴方を救い出してみせます。

「……だから必ず、今シーズンはキング・オブ・ヒーローになってみせますよ」
「それはいいけど、あんまポイントばっかに拘るんじゃねぇぞ;」
「わかってますよ。『俺たちの能力は人を助ける為にある』でしょ? 何年、貴方の傍にいると思っているんですか?」

虎徹の言葉にそうバーナビーは優しく言葉を返した。

「……必ず、貴方を迎えに行きます。だから、僕の事待っていてください」
「……そうかよ。だったら、期待して待ってるよ、バニーちゃん」
「虎徹さん……」

そう言葉を交わすと、二人は誓いとばかりに優しい口づけを交わすのだった。





* * *





「……なぁ、何で俺とあいつをコンビニ組ませたんだよ?」

アポロメディアの社長室でそう不満そうに言ったのは、バーナビーとコンビを組んだライアン・ゴールドスミスだった。

「……先輩ヒーローに対して、あいつ呼ばわりとはあまり感心しないぞ。ライアン」
「あんなのあいつ呼ばわりで十分ですよ。勝手に突っ走って行動するわ、俺との連携プレーもあったもんじゃない」

あいつは、俺の事を認めていないのだ。
だから、出動するときはいつも単独行動をとり、そして着実にポイントを獲得していく。
それは、全て俺がとる筈だったポイントだっただろうに……。
その事を考えると腹が立って仕方ないのだ。

「文句を言うな。全ては会社の方針だ」
「ですけど……」
「あと、もう少しの辛抱ではないか」

それでも尚、文句を言うライアンに対して、新アポロンメディアのCEOであるマーク・シュナイダーそう言葉を遮った。

「審判の日は近い。お前はやるべき事さえやっていればそれでいいんだ。その為に私はお前を雇ったのだからな」
「………はぁ~。わかりましたよ。あ~、めんどくせぇ」

マークの言葉にライアンは、溜息をつくとそう言った。

「けど、あの約束はちゃんと守ってくださいよ。全てが終わったら、俺のやりたいようにさせてもらいますから」
「好きにしろ」
「了解しました♪ では、失礼します」

そう言うとライアンはさっさと社長室を後にした。
あの男は自分の事をただの駒だとしか思っていないのだ。
すべては、女神伝説の審判の日が訪れるまでだ。
全てが無に還るあの日まで辛抱すればいいのだ。
それまでは、自分も利用できるものは全て利用してやればいいだけの事だ。

(ん? あれは……)

ふと目に飛び込んできた人影にライアンの目は奪われた。
褐色の肌に漆黒の髪の男の姿をライアンが見間違えるはずもなかった。

「セーンパイ♪ 何やってるんですか?」
「…………」

ライアンはその人影に近づくと人懐っこくニコッと笑ってそう言った。
それに対して、人影――虎徹は、無言で歩き続ける。
その虎徹の手には、段ボール箱があった。

「…………もしかして、それをどっかに持っていくんですか? なら、俺が代わりに持ちますよ! 何処に持っていくんですか?」
「……いいよ。これは俺の仕事なの。今を時めくヒーロー様がするような仕事じゃねぇよ。ライヤン」
「…………先輩、俺の名前は『ライアン』ですよ;」
「だあっ!」

カッコよく虎徹は決めてそう言ったつもりだったが、ライアンにそう指摘され、虎徹は恥ずかしさから赤面した。

(やっぱ、この人は可愛いなぁ♪)

とてもこの人が自分より一回り以上年が離れているだなんて思えないくらいだ。
この人と話していると心が癒される。

「つーか、お前。あれはねぇだろ; 『世界は俺の足元に平伏すっ!』だなんてよ;」
「先輩、モノマネ下手ですねぇ;」
「だああっ! うっせぇなぁ、お前っ!!」
(本当、弄るの楽しいなぁ……)

自分の声真似をしてそう言った虎徹に対してライアンはそう言ってやるとまた虎徹は吠えた。
それがライアンには、楽しくて仕方なかった。

「……てか、先輩はあの人とよくコンビが組めましたよねぇ」
「…………はぁ?」

そう呟いたライアンの言葉に虎徹は眉を顰めた。

「いちいち小言はうるさいわ、人の事放っといて勝手に動いてポイントとりにいくわ。おかげで、俺が全然活躍できないんですけど」

そう言うとライアンは次々とバーナビーに対する文句を並べだしていく。

「かと思えば、カメラが回ってないところでも平気で能力使って人助けするし……。『僕の能力は人助けの為に使うんですから』なんて言っちゃってさぁ。本当、何考えているんですかねぇ、あの人は;」
「!!」
――――……だから必ず、今シーズンはキング・オブ・ヒーローになってみせますよ。
――――それはいいけど、あんまポイントばっかに拘るんじゃねぇぞ;


――――わかってますよ。『俺たちの能力は人を助ける為にある』でしょ? 何年、貴方の傍にいると思っているんですか?

ライアンの言葉を聞いてふと頭に浮かんだのは、バーナビーとの会話だった。
あの時交わした約束をバニーは自分なりに守ろうとしているんだという事が虎徹にはわかった。
その事が無性に嬉しくて無意識に虎徹の顔が綻んだ。
だが、それを見たライアンからしてみれば面白くなかった。

「…………まぁ、顔がいいから、会社の人気取りには役に立っているだろうけど。その為に、俺とコンビを組んでいるわけだしなぁ」
「! ……今、なんて言った?」

そのライアンの言葉に虎徹の表情が一変する。

「だーかーら、あいつが俺とコンビを組んでいるのは、ただの会社の人気取りのた――」
「ふざけんじぇねぇよっ!!!」
「!!」

虎徹は声を荒げてそう言いながら、ライアンの胸ぐらを掴んだ。
その為、虎徹が持っていた段ボール箱が勢いよく床へと落下し、中に入っていた書類が宙を舞った。

「あんま、バ……バーナビーの悪口言ってんぞ俺が許さねぇぞ。坊ちゃん?」
「…………へぇ。許さないって……何してくれるのかなぁ? ……先輩は♪」
「…………っ!!」

虎徹の琥珀の瞳から鋭い光が放たれる。
だが、ライアンはそれに臆することなく、ニッコリ笑うと同時にライアンの瞳が青白い光を放った。
その瞬間、虎徹の身体にとてつもない重力が圧し掛かる。
それを見たライアンは歪んだ笑みを浮かべると、虎徹を一気に壁へと押し付けた。

「があっ!!」
「……へぇ。こんだけの重力掛けてんのに倒れないなんて、さすがヒーローですねぇ、先輩♪」

虎徹が呻く姿を見てそう言ってライアンは虎徹を嘲笑った。
苦しそうに顔を歪める虎徹の顔が自分にはとてもエロく見え、思わずこのまま犯してしまおうかという衝動に駆られてしまいそうになる。

「……てっ、てめぇ……ふざけたこと……してんじゃ……ねぇぞ……っ!」
「やだなぁ、先輩♪ 俺は至って真面目ですよ。……ただ、自分の欲望に忠実なだけ。欲しいものはどんなものであっても、必ず手に入れる。例えそれがキング・オブ・ヒーローの座であっても、あんたの隣であったとしてもな……」

ずっと欲しいものがあった。
初めてテレビであんたを見た時から、ずっと……。
欲しい、欲しい……。
あんたのすべてが欲しいんだ。
だから、俺はヒーローになったんだ。
あんたの全てが欲しくて、俺はヒーローになったんだよ、タイガー……。

「…………そう……かよ。……だが、残念……だったなぁ。……それは……両方とも……あいつが……予約済み……だからなぁ。……坊ちゃんに……やるもんなんて……ねぇよ」
「あぁ、そんなんだ。けど、俺にはそんなの事どうでもいいよ。……全てが無に還る日は、もうすぐそこまで来てるしな」

途切れ途切れに言葉を紡ぐ虎徹に対してライアンは笑みを浮かべるとそう口にした。
それを聞いた虎徹の表情が凍り付く。

「! それ……そういう……意味だよっ!!」
「さぁ? どういう意味だろうねぇ……。知ったところで、あんたには何もできないさ」

そう言うとライアンはNEXT能力を解くとさっさとその場から離れようとする。

「あんたは、そこで指を咥えて見てろよ。俺があんたを俺のものにするまでをよ」
「おっ、おい! 待てよ! ……ごぼっ、ごぼっ……」

虎徹はライアンの後を追いかけようとしたが、長時間重力を掛けられ続けていた為、上手く身体を動かす事ができなかった。
そして、一気に大量の空気を吸い込んだ為か、虎徹は咽返った。

「あ~あ、あんま無理しない方がいいよ。もう若くないんだし。それじゃ、また遊ぼうねぇ、先輩♪」
「おっ、おいっ!!」

虎徹の制止も聞かず、ライアンはその場からさっさと離れていった。
結局、彼の瞳には俺は映っていなかった。
今でも、彼の瞳にはあいつしか映っていない事を思い知らされて、その事が無性に悔しかった。

(けど、もうすぐさぁ……)

もうすぐ、彼は俺のものになる。
それまで、精々二人で足掻けばいいさ。
あの審判が訪れるあの日まで………。
運命のあの日、女神は一体誰に微笑むのだろうか……。
それが、自分である事をライアンは願わずにはいられなかった。







Fin...


劇場版-The Rising-のIF小説でした!
公式サイトの更新により衝撃を受けて思わず書き上げた作品となっています。
公式は虎徹さんを何処まで苛めれは気が済むんだろう。
虎徹さんを救えるのはバニーちゃんしかいないっ!頑張れ、バニー!!


H.25 7/21