この世界は、苦い。
みんな僕に色んなモノをくれたけど、それはどれも苦くて、苦くて堪らなかった。
そんな僕が漸く見つけたモノ。
あの子を抱きしめると甘い持ちになる。
あぁ、これがきっと"愛"なんだ。
だから、僕は、この"愛"を守ってみせる。
たとえ、どんな手を使ったとしても……。
僕らの"愛"を邪魔する奴は、誰だって許さない……。


~ハッピーシュガーバニーライフ~

「あっ、あの……バーナビーさん! 私と付き合ってくださいっ!」
「ごめんなさい。僕にはもう心に決めている人がいるんです。すみませんが、これからバイトなので失礼します」
「えっ? えっ? あっ、あの……!?」

金髪の髪に翡翠の瞳を持つ彼――バーナビーは、見知らぬ少女にいきなり告白された。
そして、考える間もなくバーナビーはそう笑顔で返事を返すと、さっさとその場から去っていった。
そのあまりに早さに一瞬何が起こったのかわからぬ様子で少女は困惑し、バーナビーを引き止めるもそれも無視して歩みを進めていく。

「あ~ぁ。フラれちゃったね」
「ちょっ、ちょっと! はっ、話と全然違うじゃないっ!」
「ええっ? でも、前だったら、誰とでもすぐに付き合ってくれたんだけどなぁ……」

取り残された少女たちは、口々とそう喋る。
つい、最近までのバーナビーは、告白されれば男女問わず、誰とでもすぐに付き合っていた。
そんな、彼があんな行動を取るなんて…。
一体、彼の身に何があったのだろうか……。





* * *





「見てたぞ、ジュニア君。また、女子に告白されてたなぁ♪」

バイト先のロッカールームでそう言って話しかけてきたのは、バイト先の同僚でもあるライアンだった。

「けど、何でフッちまったんだよ? プレイボーイなジュニア君らしく無いじゃん?」
「なんですか、それ」

そんなライアンとの会話をしつつ、バーナビーはバイトの制服に着替え始める。

「別に僕は、プレイボーイだと思ってませんよ。ただ今までは、断るのが面倒だっただけです」
「うわぁ、その発言がプレイボーイだわ;」
「それに、もう僕には、心に決めた人がいるので」
「はいはい。そうですか……えっ! マジかよっ!?」

そうさらりと発言したバーナビーの言葉にライアンは瞠目した。

「はい。あと、もう同棲もしています」
「しかも、同棲まで!? 俺様、何も聞いてないんですけど!」
「えぇ。この事を話したのは、今日が初めてですから」

驚くライアンを尻目にバーナビーは淡々と話を続ける。

「なので、ここだけだと厳しいので、バイト先を増やそうと思っています」
「えっ? ジュニア君、そんなに金困ってないじゃん。親の遺産があるんだし?」
「あのお金は、なるべく手をつけたくないんです」

バーナビーは、幼い頃に両親が亡くなっている。
その時、バーナビーは普通に暮らす分なら、困らないくらいの額を両親の遺産として相続したのだが、それに手をつける気はまったくなかった。
なるべく自分独りの力で生きていきたいと思ったから、だからこうして執事カフェでバイトをしているのである。

「まぁ、俺は別にいいけど、ちゃんとこっちにも顔出せよ? お前目当ての客だって多いんだし、俺様も寂しいからな♪」
「わかりました。ですが、最後の言葉は聞かなかったことにしておきます」
「うわぁ、ジュニア君、ひどい;」

そうライアンの冗談をいつも通りバーナビーは軽く受け流した。
「……けど、一体どんな子なんだよ? ジュニア君がそんだけ尽くすんだから、きっとすげぇ可愛い子なんだろうな」
「えぇ。とっても可愛いですよ。今すぐ、帰って逢いたいくらい」
「それは、こっちが困るから、ちゃんとバイトして;」

ライアンの言葉に若干不満を感じつつも、バーナビーはロッカーを閉め、バイトへと向かうのだった。





* * *





「……はぁ、疲れたぁ」

バイトが終わり、バーナビーは家路を急いだ。
今日は色々と疲れてしまった。
だから、早く家に帰りたい。
家に帰れば、あの子が待っている。
早く、彼に逢いたい……。
けど、もう結構帰るのが遅くなってしまったので、今日はもう寝ているかもしれない。
そう思ったバーナビーは、自宅のマンションに着くとすぐさま扉を開けた。

「あっ! ばにちゃん!! おかえり!!」

その途端、バーナビーの目に飛び込んできたのは、一人の幼い少年の姿だった。
艶のある漆黒の髪に褐色の肌。
そして、何よりも光加減によって金色へと変わる琥珀の瞳がとても印象的な少年だ。

「こっ、虎徹さん!? まだ、起きていたんですか? しかも、こんなところで待っていたんですか!?」
「うん! だって、ばにちゃんが俺のためにがんばってくれてるんだもん♪」
「っ! 虎徹さん、可愛いですっ!!」

少年――虎徹の姿に驚いたバーナビーが驚いてそう言うと虎徹は、ニッと笑みを浮かべた。
それが嬉しくてバーナビーは、虎徹のことを優しく抱きしめた。
その瞬間、バーナビーは甘くて優しい香りに包まれた。

(あぁ……甘くて優しい。なんていい匂いなんだろう……)

幼い彼は、うまく発音がまだできないのか、僕の事を「ばにちゃん」と呼ぶ。
それがまた一層、愛おしく感じてしまう。
彼に名前を呼ばれる瞬間。
彼に触れる瞬間、バーナビーはとてもいい気分になる。
僕の心の瓶が、甘いモノで満たされていくのを感じる。

「あの、虎徹さん。すみません。明日から、バイトの数が増える事になりました」
「えっ? そうなのか?」
「はい……。なので、また帰りが遅くなってしまうかもしれません……」
「いいよ! 俺のためなんだろ? 俺もがんばって、ばにちゃんの帰り待ってるから!! からだ、こわさないように気をつけてな!!」
「っ! 虎徹さん!!」

バーナビーの言葉にそう笑顔で虎徹の言葉が嬉しくて、バーナビーは再び虎徹のことをギュッと抱きしめた。
本当は、僕を待っている間は寂しいはずなのに、それを我慢していてくれる。
その虎徹の優しさがバーナビーは嬉しかった。
そして、さらに甘いモノが欲しくなっていく。

「……あぁ、甘いモノが欲しいなぁ」
「? ばにちゃん、甘いモノが欲しいの? じゃぁ、俺があげる!」
「えっ?」

思わずバーナビーが呟いた言葉に虎徹が反応する。
そして、虎徹はそのまま、バーナビーの唇にチュッと優しく唇を落とした。

「甘い……」
「うん! 俺、さっき、チョコレート食べたから! ばにちゃんにおっそわけ♪」
(かっ、可愛い!!)

何気ない虎徹の行動の全てがバーナビーを癒していく。
そして、バーナビーの心の瓶はどんどん甘いモノで埋まっていく。
彼な何も知らないのだ。
無知で純粋で可愛い虎徹さん。
そんな彼といつまでも、こうしていたい。
彼と一緒にこうして暮らしていたい。
だから、その為にバーナビーは、どんな事でもすると誓ったのだ。





* * *





「あっ、バーナビーさん」

新しく始めることにしたバイト先「キングインペリアル」で挨拶を済ませた後、そう誰かが声を掛けてきた。
その声にバーナビーは振り返ると、そこに立っていたのは、プラチナブロンドの癖のある髪に紫の瞳が印象的な少年があり、何やら機械を手にしている。

「あっ、あの……。僕でよければ、オーダーの取り方を教えますけど……?」
「あっ、これ使い方わかります」
「えっ? 本当ですか!? じゃぁ、すぐにフロアに出れたりしますか?」
「はい。何か間違ったところがありましたら、言っていただければ」
「あっ、はい!」
「あっ、いらっしゃいませ」
「…………」

彼――イワンが手にしていた注文を取る機械の使い方を知っていたバーナビーがそう言うとイワンは少し驚いた表情を浮かべてそう言った。
それに対してバーナビーはそう言うと、早速お客さんが入って来たので、フロントへと向かった。
そして、手際よく接客応対をこなしていく。
バーナビーとしては、このバイト先は店長も同僚のバイトの人たちも皆優しく働きやすい環境だと感じた。
時給もよく、残業もしなくていいという好条件なこのバイトは、バーナビーにとっては何よりも嬉しかった。
その事をライアンにも電話で伝えると、「そっちのバイトばっか行ったら、承知しねぇぞ!」と何故か釘を刺されてしまった。
それに対してバーナビーは、軽く受け流して電話を切った。
このまま何事も面倒なことに巻き込まれずにバイトしてお金さえ手に入れば、バーナビーとしてはそれでよかった。
虎徹さんとの甘い生活が続けられるなら、それだけで充分だった。
だが、その期待は、数日後のイワンの一言によって、崩れ始めていく。

「すっ、好きです! 僕と付き合ってくれませんか!」

それは、まさかのイワンの告白だった。
同性からも告白されることには慣れていたバーナビーだったが、正直彼からの告白には驚いた。

「あっ、あの……。返事は、バイトが終わってからでいいので……」
「あっ、いえ。ごめんなさい。僕には、もう決めた人がいるので」

返事も聞かずにその場を立ち去ろうとしたイワンを引き止めてバーナビーはそう返事を返した。
そして、そのまま何事もなかったかのようにバイトへと戻っていった。

「ねぇねぇ、バーナビーさん! バーナビーさんの彼女さんって美人なんですか?」
「えっ? どうしてですか?」

仕事を続けていると同僚から突如そのような質問をされてバーナビーは、困惑した。

「だって、イワンさんを振ってるところ見たから」
「イワンさんのルックスなら、俺も男でもありだと思うんですけど、バーナビーさんが心に決めた人って相当美人なんだろうなぁ」
「そうですね……。美人ではないと思いますが……」

彼らの問いに戸惑いつつもバーナビーはそう答えた。
虎徹さんは、美人というより、可愛い分類だろう。
けど、大きくなれば、間違いなく美人になるかもしれない……。
それを想像するだけでも楽しい気持ちになる。

「またまたぁ、そんなこと言っちゃって」
「あ~ぁ、俺も、バーナビーさんくらいイケメンだったらなぁ」
「もっと、女にモテたはずなんだろうけどなぁ;」
「そんなことないですよ。僕は、皆さんの笑顔はとても魅力的だと思いますよ。だから、もっと笑ってください♪」
「うあー! バーナビーさんのこと好きだ!!」

自信なさげにする彼らに対して、そうバーナビーは言って笑顔を見せた。
その笑顔に男女問わず、同僚たちが魅了される。

「あたし、バーナビーさんがモテるの何だかわかる気がするわ。男子も女子もみんな、バーナビーさんに気に入ってるし」
「前まではみんな、店長に釘付けだったのにね」

そして、そんなやり取りを見て、別の同僚たちが楽しそうに会話をしていた。
それを、陰で店長が聞いている事など知りもせずに……。





* * *





「お疲れ様です。お先に失礼します」

その日、いつも通りにバイトを終えて、バーナビーは急いで帰宅する。
早く帰って、虎徹さんに逢いたい。
その想いからバーナビーは、家路を急いでいた。

(……あれ? あれは……イワンさんと……店長?)

その時、ふとバーナビーの目に留まったのは、イワンと店長の姿だった。
二人は、そのまま店長室へと姿を消した。
そして、その翌日から、イワンがバイトに来なくなってしまったのだ。

「バーナビー君。君には今日から残業をお願いするよ」
「えっ? 残業は基本ないって話では……?」
「人手が足りないんだ。イワン君はあのまま連絡も取らないし……。っていうか、君のせいで来なくなったんだよね?」
「えっ?」

突然の店長の言葉にバーナビーは耳を疑ってそう言った。
一体、何のことを言われているのか、さっぱりわからなかった。

「イワン君、泣いてたぞ。君に笑い者にされたって。だから、君が責任を取るのは同然だろ? よろしく頼むよ、バーナビー君」
「…………」

正直、店長のその主張は正直、訳が分からなかったが、ここは大人しく従うことにした。
だから、店長の言葉に従って、汚いトイレや休憩室の掃除も独りでやった。
そんな日が暫く続いた。
バイトから急いで帰り、マンションの扉を開けると、いつも虎徹さんは玄関で毛布に包まって寝ていた。
僕の帰りをずっと待って……。
何日も何日も……。
僕は、虎徹さんの寝顔しか見られない日々が続く。

(このままじゃ、ダメだ……)

そう思いながら、今日も息を切らしながら扉を開けると、同じように虎徹さんは寝ていた。
そんな彼にバーナビーはゆっくりと近づくと、彼に触れた。

「……ん。……ばにちゃん……」
「………ダメだ」

その時、虎徹さんは寝言でバーナビーの名前を呼んだ。
それを聞いたバーナビーは、静かに呟いた。
僕の中の瓶が壊れていく……。
そこに詰め込んでいた甘い欠片がどんどん壊れていくのがわかる。
行かないで。それは、僕の"愛"の粒なんです。
僕の心……。
このままじゃ、ダメだ。ダメになる……。
その時、バーナビーは、はっきりと心の瓶に罅が入る音を聞いたのだった。





* * *





「はい。みんな今日もお疲れ様! お給料の明細書は、ちゃんと確認してください」
「は~い」

そして、その日がついにやってきた。
このバイトの給料日がやってきたのだ。
それぞれが、店長から給料明細書が入った封筒を手渡される。
そして、バーナビーもそれをもらって中身を確認した。

「!!」

そして、その内容を確認したバーナビーは、愕然とした。
バーナビーに支払われた給料の金額は、残業代が計上されていなかったのだった。
あんなに残業したのに……。
虎徹さんとの時間を割いてまでバイトをしたのに……。
この仕打ちにバーナビーは、納得できることが出来なかった。

「あの……。店長。ちょっといいですか」

だから、バーナビーは、バイト終わりに店長と二人で話し合いをすることにした。
店長もそれに応じて、バーナビーを店長室へと招いた。
店長室へと入ったバーナビーは早速、給料についての間違いを指摘した。

「間違い?」
「はい。お給料が働いた分と合っていないです。間違っています」
「いや。それで合ってるよ」
「えっ?」

平然とそう言った店長の言葉にバーナビーは耳を疑った。
そして、店長は、バーナビーへと向き直してこう言い放った。

「バーナビー君。君、心当たりはあるだろう?」
「ありません。僕はちゃんと働きました」
「おや? それはおかしいなぁ……」

バーナビーがそう答えると、店長は黒い笑みを浮かべてバーナビーへと歩み寄ってくる。
そして、バーナビーの顔を掴んで顔を近づける。

「本当……ちょっと、顔がいいからって、調子に乗ってるんじゃねぇよ。あのな、顔がいいからって馬鹿でも許されて、チヤホヤされてきたんだろうが、社会はそんなに甘くねぇんだよ。君はここで迷惑を掛けた。だから、給料も減った。わかるだろ?」
「…………勝手に減給することが許されるんですか?」
「そうだよ。ここは、僕の愛の王国なんだ。マスターである僕が愛せない子は、いらないんだ。どんな子であろうとね!」

そう言って、店長はバーナビーの事を思いっきり突き飛ばした。
だが、バーナビーの身体は少しよろけた程度で済んだが、それと同時に何かのスイッチが入った。
だから、バーナビーは再び店長に問いかけた。

「……"愛"?」
「そうだ。バーナビー君。僕は、君も愛してあげているんだよ」
「!!」

その言葉にバーナビーは瞠目し、顔を覆った。
かつて聞いたあの言葉を思い出してしまったから……。

――――どんな欲望でもぜんぶ飲み込んであげる。だって……バーナビー。それが、"愛"だから。

あぁ、苦い。
苦くて、苦くて、堪らなくて、吐きそうになる……。

「……やっ、やっぱり、納得できません。だって……ダメですよ、店長」

だから、バーナビーは、もう妥協することをやめた。
そして、徹底的な言葉を店長にぶつける。

「未成年に手を出しては」
「はっ?」

手の指と指の間から瞳だけを出してそう言ったバーナビーの言葉に店長は、意味が解らずそう言った。
そこから見えるバーナビーの翡翠の瞳はいつもと違って酷く冷たいものへと変わっていることには気づきもせずに……。

「僕見たんです。店長、ここへイワンさんを連れ込んでいましたよね?」
「だっ、だから、何だ? 言いがかりをつけるのはやめろ」
「言いがかりじゃありませんよ」

店長の言葉を聞いたバーナビーは、顔から手を放して部屋中を見渡した。

「だって、ここに充満しています。店長とイワンさんがそういう事をした臭いが……」
「!!」

その言葉に店長の顔色が漸く変わった。

「ジトジトしていて、気持ち悪い店長の臭いがイワンさんを呑み込むような感じ」
「はぁっ!?」
「何でしたら、イワンさんの口から直接聞けばいいんです」
「ふん! そんなこと出来るわけないだろっ!」
「どうしてですか?」
「ん?」

バーナビーの言葉に店長は、不思議そうにバーナビーを見つめた。
そこには、本当に不思議そうな表情を浮かべて、手を後ろに組んだバーナビーの姿があった。

「出来ますよ?」
「えっ!?」
「だから、出来ますって」
「!!」

そう言ってバーナビーは、とある方向へと視線を変えた。
そこにあったのは、大きなクローゼット。
人一人くらい簡単に入れるほどの大きさだ。
バーナビーのその視線に気が付いた店長は息を呑んだ。

「そうしたら、どうなるんでしょうね? 格好良くて、優しいって評判の店長が実は淫行条例に引っかかるような男だなんて……。王様の貴方が周囲から向けられる白い目に耐えられますか?」

バーナビーの言葉を聞きながら、店長はじりじりと後ろへと下がっていく。
そして、最後には、後ろにあった机にぶつかり、その怒りからかその机を思いっきり叩いた。

「君は、何なんだ! ガキの癖に大人に対する態度がなっていないじゃないかっ!」
「そのガキに対して、どうして我慢できなかったんですか?」
「あぁ?」
「そんなに嫌でしたか? 自分より、こんな子供がみんなに注目されることが?」
「!!」

バーナビーに図星をつかれ、店長は怒りを露わにした。

「当たり前だろ! 君たちは僕を愛する義務がある! なのに、イワン君は、君を好きだと言ったんだぞっ! だから、僕の愛を教え込んであげたんだ!! それはもう、身体にじっくりとね!! ……っ!!」

バーナビーの言葉に開き直った店長はべらべらとしゃべり始める。
だが、ここまで喋って店長は、漸く気が付いた。
バーナビーが手を後ろに組んだ先にあったものに……。
それは、携帯電話だったことに……。
バーナビーはそれを何事もなかったかのように携帯を操作しだす。
すると、そこから、先ほど話した声と映像が辺りに流れ出す。

「……凄い顔ですね。そして、よく撮れている」
「っ! 貸せっ!!」

その動画を消そうとバーナビーから携帯電話を奪おうとしたが、あっさりとバーナビーからは避けられてしまった。

「これ、何処かにアップしちゃいますよ」
「なっ、何なんだい? 君は……? 僕を脅すのか? 僕の王国を壊そうって言うのか!!」
「……僕は、貴方の王国なんてどうだっていいんです」

まるで、人生が終わったような表情を浮かべる店長に対して、バーナビーは冷徹なまでにそう言い放った。

「貴方がここで何をしようが、どう振舞おうが……本当にどうでもよかったのに……」
「だっ、だったら、何なんだい?」
「どうして、我慢してくれなかったんですか? 僕は、我慢したのに……。仕事だと思って、残業も掃除も……」

そして、何よりも……。

「虎徹さんとの時間が減ってしまうけど、全部我慢してきたのにっ!!」
「はあっ? なっ、何の事だ?」

突然、携帯電話を握り締め涙を浮かべるバーナビーの言動に店長は困惑の表情を浮かべるしかなかった。

「だから……店長も我慢してくれればよかったんです。そしたら、お互いこんな不快な思いをする事なんてなかったのに」
「っ!!」

その狂気に満ちたバーナビーの翡翠の瞳を見て店長は瞠目した。

「なっ、何なんだ、君は!? 何なんだ!?」
「店長……。貴方のは、"愛"じゃないと思います。だって、"愛"は……きっと心が勝手に感じてしまう事ですから♪」

甘くて、キラキラしてて……。
誰かに教えてもらったわけでもないのに、これが僕の幸せだってわかってしまう事なのだから……。

「教えないと伝わらない"愛"なんて、見返りを求める前提の"愛"なんて、そんな不味くて苦いモノ、僕は"愛"とは思えません」
「!!」
「ねぇ、店長……」

バーナビーはそう言って店長に笑いかけた。
その笑顔が店長にとっては、もう恐怖でしかなかった。

「興味がなくても、目障りだったら壊したくなる。……よくわかりますよね?」
「あっ、あああっ!」

そして、足をガクガクさせながら、店長はその場に座り込んでしまった。
自分は、とんでもない相手を怒らせてしまったのだという事に漸く気が付いて……。

「大丈夫ですよ。ちゃんと、お給料払ってくださいね」

もうバーナビーのその言葉に抵抗する気力は、店長には残っていなかった。
そして、バーナビーはそのままクローゼットの方へと向かうと何事もなかったかのように、その扉を開けた。
そこにあったのは、全裸で両手両足を縛られ、声が出ないように口まで塞がれて、涙目になっているイワンの姿だった。

「大丈夫ですか? イワンさん?」

その光景を見てもバーナビーは顔色一つ変えることなく、イワンにそう問いかけた。

「気をつけてくださいね。男の人でも独占欲が強い人はいますから」
「っ……」

そのバーナビーの言葉にイワンは、唯声なく泣く事しかできなかった。





* * *





(あぁ……苦い。苦い……!)

店長との話し合いにより、これまでの残業代もきっちりともらい、今後の残業からも解放されたバーナビーは家へと向かっていた。
というより、このバイトは今日で終わらせたといった方が正しいかもしれない。
その間中、ずっと店長とのやり取りを思い出していた。

(苦い。苦い。苦い。苦い……! 苦すぎて吐きそうだ!!)

心の中にあるムカムカが消えない。
今日も、店長の話し合いのせいで帰りが遅くなってしまった。
きっと、今日も虎徹さんは寝てしまっているだろう……。
そう思いながらバーナビーは、マンションの扉を開けた。

「ばにちゃん! おかえりなさい!!」

だが、そこにあったのは彼の寝顔ではなく、あの可愛らしい笑顔があった。
久しぶり見た寝顔ではない、虎徹さんの表情。
それを見ただけで、バーナビーの表情が変わっていく。

「虎徹さん! ただいま!!」

そして、その嬉しさから、彼を思いっきり抱きしめた。
その瞬間、バーナビーは甘い香りに包まれた。

「遅くなったんですが、起きていたんですか?」
「うん! だって、さいきん、ばにちゃん帰ってくる前に寝ちゃって、『おかえり』って言えねぇのが、俺、くやしかったんだもん!」
「! ……虎徹さん」

彼のその言葉を聞いてバーナビーは優しく彼を抱きしめた。
心の中にあったムカムカ一気に消えていく。
こんなは、初めてだった……。
あぁ、なんて、幸せなんだろう……。

「……愛しています。虎徹さん。なので……久しぶりに、アレをしませんか?」
「うん! いいよ!!」

バーナビーの言葉を聞いた彼は、元気よく頷くと部屋の奥へと消えていった。
バーナビーもその後に続いて部屋に入ると、彼は大きなバスタオルを手にしていた。
それを見たバーナビーは慣れたようにいつもの場所に正座をすると、彼はバスタオルを広げ、バーナビーに被せた。
それは、まるで、結婚式のときに花嫁が被るベールのようだった。

「ちかいの言葉」

そして、彼はゆっくりと語り始める。

「やめるときも、すこなかなるときも

よろこびのときも、かなしみのときも

とめるときも、まずしいときも

しがふたりがわかつまで

俺は、ばにちゃんが大好きなことをちかいます」

そして、誓いの言葉を言い終わった彼は、バーナビーの額に優しくキスをした。

(あぁ、甘い……)

きっと、このキラキラとしている感情が、"愛"と呼ばれるものなんですね……。





* * *





そして、その後、彼を寝室に連れて行き、彼を寝かしつけた。
幼い彼が、こんな遅くまで起きていただけでも、よほど疲れたのだろう。
彼は、ベッドに入るとすぐにスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまった。
その表情を今日は安らかな気持ちでバーナビーは見つめることが出来た。
そして、彼が眠りについたことを確認したバーナビーは部屋を出て、とある部屋の扉へと目指した。
その部屋は、通常の鍵だけではなく、番号を入力しないと開かないように頑丈にロックされている扉だった。
その扉のロックをバーナビーは、一つ一つ解除していく。
そして、ロックを解除して、入った部屋は、明かりもついておらず、とても薄暗かった。
部屋へと入ったバーナビーは、念の為、部屋の扉を閉めた。
ここにある光景が万が一、彼の目に入ってはいけないのだから……。

(僕は、人を愛したことはなかった……)

"愛"を囁かれたことなら、何度もあった。
けど、どんな言葉をもらっても、何をしてもらっても、何も感じなかった。
でも、今は、違う。
虎徹さんが、僕に"愛"を生ませてくれた。
きっと、この先も、もっともっと"愛"を教えてくれるはずなんです。

「ねぇ、ありがとうございます。結構、住み心地はいいです。貴方の家」

それを言って、バーナビーはフッと笑みを浮かべた。
そこに広がる光景は、血に塗れた鉈が転がっており、そして、その血は壁にもついていた。
そして、三つの何かが入ったリボンで縛ったゴミ袋にも血が付着している。

(だから……僕がやるべきことは……)

この大切な感情を守る為に、"愛"をこぼさないお城を作ることだ。
虎徹さんとずっと一緒に暮らす為の……世界で一番甘いお城を……。
僕のやるべきこと……。

「うーん。邪魔ですから、ちゃんと何処かに捨てて来ないといけませんねぇ……」

そして、バーナビーは、再び笑みを浮かべた。
その笑みは、見る人にとっては酷く、どす黒く感じてしまう笑みだった。
きっとこれが"愛"なんだ。
この想いを守る為なら、どんなことも許される。











さぁ、こんにちは。ハッピーシュガーライフ。







Fin...


兎虎でハッピーシュガーライフパロ小説でした!
このアニメの一話を見た時、「この話で、ヤンバニの兎虎小説を書きたいっ!!」という衝動にかられた結果書きあげましたwww
この人の同人作品を知っている分、もう、このアニメの衝撃が強すぎて、2話以降が見られていません。
今後の展開を考えると、どう頑張っても続きは書けないので、ここまでです!
私も小さな虎徹さんで癒されたいなぁ♪(おい!)


H.30 9/24