『マネキン工場に勤める全員の無事が確認されたわ。みんな、よくやってくれたわね』
「ホント、よくやってくれたよ」
「うるせぇ!!」

トレーニングルームのモニターからそう言ったアニエスの言葉にアントニオがからかう様にそう言った。
それにムッとした表情を浮かべて虎徹は応えた。

「それより何? 急に全員集合させるなんて?」
『ちょっと、気になることがあってね……。まずは、これを見てちょうだい』

ネイサンの問いにアニエスは、そう言うとモニターの画面を切り替えた。
そこに映し出されたのは、首がないマネキンだった。






~神様ゲーム~








『工場裏で発見されたの。何者かがこのマネキンに火を着けたのは、間違いない』
「!!」
「うわぁ、キモッ;」
「火事じゃなくて……放火事件ってことですか?」

アニエスの言葉を聞いてブルーローズは、本当に心の底から声が漏れ出ていた。
そして、バーナビーはアニエスの発言からそう推測を始めた。

『あそこまで、火災が広がったのは、火災報知機とスプリンクラーの故障が原因みたいだけど』
「ここのところ、不審火事件が多発していると聞いたのだが……」
「まさか、同一犯の可能性、ですか……?」
『充分、考えられるわ……。近いうちにまた、事件が起こるかもね』

アニエスの言葉にキースは、そう推測し、それに乗っかるようにイワンも話し出した。
その仮定をアニエスは否定はせず、ヒーロー達に忠告する。

『とにかく、みんな気を抜かないでおいて、オヴァワール』

そして、アニエスはそう言い残すと通信が切れ、モニターが暗くなった。

「ヤダわ~。また、炎系のNEXT?」
「ルナティックに続いて二件目ですからね……」
「…………」

また、炎系のNEXTが裏で絡んでいるのではないかと思ったネイサンは、本当に嫌そうに溜め息をついた。
そんなネイサンに対して、意外にも冷静な態度でバーナビーは、会話に応じている。
そんな二人の姿を見つめながら、虎徹は一人考えにふけていた。
この事件、間違いなく俺は体験したはずのものだ。
なのに、何故だ?
何か肝心な事を忘れているきがするのに、それが何なのかがわからねぇ。
まるで、心の中に靄がかかっているような感覚に近い。
一体、これは何なんだよ……。

「わぁ! すごい!!」
「ん?」

そのドラゴンキッドの声に虎徹は、一度思考を停止させると、その方向へと目を向けた。
すると、そこにはスマートフォンを片手に何やらドラゴンキッドとキースに得意げに見せているイワンの姿があった。

「ですよね! この辺のお店、全部だったんですよ!」
「うむ。私のカードも売り切れてるいるね」
「何言ってるんですか! スカイハイさんの売り切れとタイガーさんの売り切れは、全然意味が違うんですよ!!」
「折紙……。お前、それ、さらりと俺の事、ディスってねぇか;」
「ええっ!? すっ、すみません! 僕、純粋に嬉しくて、つい……」
「いっ、いいって! ってか、何でお前が落ち込むわけ;」

白熱するイワンとキースの会話に虎徹は、ため息混じりでそう言った。
その言葉にイワンは、心底落ち込んだのか、肩を落としてそう言った。
それを見た虎徹は、慌ててフォローする。
けど、折紙はもっと大人しい奴だと思ってたんだが、急にどうしたんだよ?
好きな事には、結構熱くなることは知っていたつもりだったが、一体どこで何のスイッチが入ったんだよ?

「ほら、そんなことより、さっさと飯行くぞ」
「っ! い゛てっ!!」

すると、虎徹は、アントニオにバンッと右肩を思いっきり叩かれ、激痛が走った為、思わず声が出た。

「あっ……すまん; ケガ人だったな、お前」
「ったく、この馬鹿力……!」

虎徹のその反応を見たアントニオは、漸く彼が手負いだったことに気付き、いつも通り強く叩いてしまった右肩をポンポンと優しく撫でなおした。
それに対して、虎徹は更に文句を言ってやろうかと言葉を紡ごうとしたが、途中でやめた。
それは、何処からともなく感じる冷たい視線のせいだ。
その冷たい視線の主は、虎徹にしか見えないが、何とも言えない怖い笑みを浮かべている。

――――……なぁ、虎徹。……この牛――。
(絶対にダメだからなぁっ!!)
――――…………ちぇ、つまんないの……。

クロノスが何か言い終わるより先にそう言って虎徹は、クロノスを黙らせる。
それが、不満なのか、クロノスはそう言いながら虎徹を見つめていた。
トキは、偶に物騒なことを言うが、ちゃんと止めさえすれば、実際にそれを実行することはない。

(……あれ? でも、何でなんだ?)

暫く前だったら、俺の言葉なんかまるっきし無視してトキは、行動していたように感じたのに、今ではそれがまるで感じられなかった。
これは、トキに何かの心の変化があったという事だろうか……?

「……ねぇ、あたしが代わりに聞いてあげましょうか?」
「えっ?」

虎徹がそんな事を考えている事など露知らず、遠巻きから虎徹とアントニオのやり取りをバーナビーとネイサンは、眺めていた。
そして、ネイサンは、バーナビーが虎徹の事を見つめているのに対して、敢えて彼にそう言ってやった。
だが、それを言われた本人は、何の事なのか全然わかっていない様子でネイサンへと視線を変えた。

「『怪我の具合、どうですか?』って」
「!!」

そして、次にネイサンに言われた言葉にバーナビーの表情が固まった。

「なっ、何の話、ですか……」

そして、バーナビーはくるりとネイサンに背を向けるとそう言って逃げるようにその場から去って行ってしまった。

「もう、照屋さんなんだから。ウフ。でも、それとも……」

そんなバーナビーの姿をネイサンは、優しく見つめるのだったが……。

「それとも……これでも、まだ無自覚っていうのなら……本当に厄介なボウヤなこと」

そう静かに呟いたネイサンの言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。





















「始末書、しっかり仕上げてね」
「わかってますよ、ロイズさん;」

アントニオと昼飯を済ませてからアポロンメディアのオフィスに戻ってきた虎徹は、部屋に入るや否やそうロイズに言われたので、苦笑混じりそう答えるとデスクに着いた。
そして、ロイズに言われた通り、この前のヒーローアカデミーの時の始末書を作成すべく、パスコンを立ち上げるが、何故だがなかなかそれに集中できなかった。
と、いうのも……。

「……あのぉ……バニーちゃん? さっきから、こっちに視線感じるんだけど……; やっぱ、何か怒ってる?」
「いえ。別に見てませんし、怒ってもませんよ」
「そっ、そう……; なら、いいんだけど……;」
「…………」

先程から妙にバーナビーからの視線を感じた虎徹は、堪らずそうバーナビーに問いかけた。
それに対してバーナビーは、素っ気なくそう返すとパソコンの画面へと視線を向けた。
だが、パソコンに視線を向けるバーナビーの表情もどう見ても怖い。
そんなにパソコンの画面を睨み付ける事、ねぇだろうが……。
まさか、昼飯誘わなかった事で怒ってるのか?
あと、トキはその理由がわかっているのか、ずっと笑いを堪えているし……;

(……なぁ、バニーが不機嫌な理由わかるなら、教えろよ!)
――――やーだ。教えてやらないよ。
(何でだよ! さっきの事、根に持ってるのかよ!)
――――いや、別に。このままの方が見てて面白いからだよ。色々と♪
(だあっ! なんだよ、それ!?)

明らかに虎徹の反応を見て楽しむクロノスの言葉に虎徹は、頭を抱えた。
そして、虎徹が痛くなったのは頭だけでなく、右肩もだった。
まだ、完治していないこともあり、ちょっと動かしただけでも痛みが走ることがある。

「いててて……」
「! あっ、あの……け……」
「け?」

右肩を痛がる虎徹の姿を見たバーナビーは、思わず席を立つ。
そんなバーナビーの行動を見て虎徹は、不思議そうに首を傾げた。

「けっ……検索してみたんです。先ほどの不審火事件」
「ん? どれどれ……?」
「…………」

何とか絞り出したかのようにそう言ったバーナビーに対して、虎徹は特に何も気にすることなく、バーナビーのパソコンを覗き込んだ。
そんな虎徹の反応にバーナビーは、静かにデスクに座り直す。
そんな二人のやり取りを見たクロノスは、必死で笑いを堪えている。

(だーかーら! 何でさっきから、お前笑い堪えてるんだよっ!)
――――だって、面白すぎだろ? お前の相棒の反応♪
(はぁ? バニーは、普通だろうが?)
――――虎徹……。お前、本当に……鈍いなぁ;
(……? とっ、とにかく、うっせぇから、暫く静かにしろよ!!)
――――うわーん。虎徹が怒った。こわ~い♪
(……チャーハン)
――――ごめんなさい。静かにします;

さっきまでうるさかったクロノスを虎徹は、一言で黙らせると再びパソコンの画面を見つめた。
そこに映っていたのは、あの時トレーニングルームでも見た焦げた壁の写真だ。

「不審火は、全部で七件。いずれも現場は、人気のない空き地や路地裏」
「デカイ規模のは、今日が初めてか……」

バーナビーは、パソコンを操作し、画像を拡大させた。

「局部的に何度も高温で熱せられた跡があります。今日の火災も標的は、マネキン自体なのかもしれません」
「……的当てゲームでも、したのかねぇ……」
「そして、現場には、焼け焦げた紙片が見つかっているそうです」
「!!」

そう言いながらバーナビーは、パソコンを操作すると画面に焼け焦げた紙片の画像が映し出された。
それを見た途端、虎徹は、今まで胸の中にあったもやもやが一気に晴れていくのがわかった。
そして、今の俺がやらなくてはいけないことも……。

「赤い炎が飛んでいくのを見たという目撃証言も――」
「…………バニー。悪ぃ。俺、ちょっと、急ぎの用事、思い出したわ」
「えっ?」
「家のマヨネーズが切れちまっててさ……。今日こそは、買って帰らねぇと……」
「はあ?」

その虎徹の言葉にバーナビーは、呆気にとられた。

「ってなわけで、また明日な!!」
「ちょっと、タイガー! 始末書は!?」

虎徹は、そう言うとロイズの制止も無視してオフィスを後にするのだった。
























神様シリーズ第4章第9話でした!!
前回に引き続ぎ、イワンが少々暴走気味ですがお気になさらず;
そして、この話を書きたかったのは、このバーナビーと虎徹さんのやり取りが書きたかったからでした。
はい。そして、漸く虎徹さんが、今回の事件の真相を思い出したようです。
真相を知った虎徹さんは、これからどんな行動をとるのか!?(っと言っても、ほぼコミックス通りですww)


R.3 1/31



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