「……すぐに迎えが来るそうです」 「そっか……。いや、まいったぜぇ。急に襲われるんだもんなぁ」 「…………」 シュテルンメダイユ地区で火災が発生している。 その火元から少し離れたところで虎徹は、建物の柱を支えにして腰を下ろしていた。 そんな虎徹の姿をバーナビーは、無言で見つめると、虎徹にハンカチを手渡そうとした。 「おぉ、悪ぃ。……だあっ!?」 バーナビーのハンカチを受け取ろうとした虎徹だったが、バーナビーのコントロールにより、虎徹の顔目掛けてハンカチが飛ぶ。 「次は、ハンカチじゃ済みませんよ」 「…………」 「この僕を騙せるとでも?」 そう言ったバーナビーの言葉に虎徹は、返す言葉が見つからなかったのだった。 ~神様ゲーム~ 時を遡る事、約八時間前の出来事である。 そこで、バーナビーは、ジャスティスタワーにあるトレーニングルームでバーナビーは、トレーニングに勤しんでいた。 頭に浮かべていたのは、あの時の出来事。 ルナティックと対峙し、そのせいであの人が怪我を負ってしまった事。 これは、紛れもなく、僕のミスだったというのに……。 当の本人は、笑っていた。 あんな事は、もう二度とあってはならない……。 「いつにも増して熱心だな」 「えっ?」 「悩みがあるなら、相談に乗るぞ。俺達、経歴だけは上だからな!!」 「だけって……。けど、事実ですけど;」 熱心にトレーニングをしているバーナビーに対して、そう声を掛けてきたのは、アントニオからだった。 それに続くかのようにイワンも続く。 「いえ……。別にお構いなく。僕は、これで……」 この前の事もあり、バーナビーはイワンの事を見つめたが、二人の話自体は軽く受け流して、今日のトレーニングを切り上げ、トレーニングルームを後にした。 「……まぁ、あれは想定内の反応だがなぁ」 その予想通りのバーナビーの反応にアントニオの表情は、まったく焦っていなかった。 「…………あれ? バニーは?」 すると、バーナビーの姿が見えなくなったとほぼ同時にトレーニングルームに虎徹が姿を現した。 「あっ、タイガーさん! バーナビーさんなら、今入れ違いに……」 「そっか……。ありがとうな、折紙!」 「なんだよ、おっかない顔して? また、バーナビーと喧嘩か?」 「ちっ、ちげぇよ! ……なんか、バニーの奴に……変に避けられてるみたいでさぁ……」 その原因が何なのか見当もつかない虎徹は、ちゃんとバーナビーと一度話がしたいと思っていたのだが、いつもあと一歩のところで逃げられてしまっている。 俺、バニーを怒らせるような事、ここ最近しただろうか? 「あああっ! タイガーさん! 今日、僕、凄いもの見たんですよ!!」 すると、何かを思い出したかのようにイワンは、そう声を上げると自分のスマホを操作し始めた。 「ん? 凄いもの?」 「はい! これなんですけどっ!!」 そう言ってイワンが取り出したスマホの画面に映し出されていたのは、ヒーローカードを販売している売店の写真だった。 「……ん? これの何が凄いんだよ?」 「ええっ? タイガーさん、わからないんですか!? ここを、よく見てくださいよ、ここです!」 「ん……?」 その写真を見ても何が凄いのか、わからなかった虎徹が首を傾げるとイワンが写真のある一転を指差してそう言った。 「……あっ、何これ! タイガーのヒーローカードだけ売り切れてるじゃない!? でも、なんで!?」 「んん? たまたま、この売店だけ、売り切れただけだろ?」 「僕も初めは、そう思ったんですけど、どのお店に行ってもタイガーさんのカードだけ売ってなかったんですよ!」 その写真の違和感に最初に気が付いたのは、いつの間にか写真を覗き込んでいたカリーナだった。 カリーナの言う通り、何故かワイルドタイガーのヒーローカードだけ、その写真には写っていなかったのだ。 だが、それを聞いてた虎徹は、単なる偶然だと思いそう言ったが、それを否定するかのようにイワンは次々と別の売店の写真も見せてくれた。 その写真に売っている売店には、確かにワイルドタイガーのカードだけすべて売り切れとなっていた。 「……ってか、なんで、折紙が俺のカードの事見てんだ?」 「……! そっ、それは……///」 「ん?」 だが、カードの事よりも気になったのは、イワンの行動だったので、それを虎徹が何気なく質問すると、何故かイワンは赤面した。 そんなイワンの反応に虎徹は、不思議そうに首を傾げた。 「……ぼっ、僕……その……最近、タイガーさんのグッズを集めていて……それで、カードが欲しいなぁ……っと思って探し回っていたんですよ」 「ええっ!? そうなのか!?」 たどたどしくそう言ったイワンの言葉に虎徹は、心底驚いた。 そして、それと同時に嬉しさも込み上げてきた。 「そんなの、俺に一声掛けてくれたら、いくらでもやったのに……。確か、非売品のカードも何枚かあったと思うんだけどなぁ……」 「「……! 非売品!?」」 何気なくそう言った虎徹の言葉にイワンだけでなく、何故かカリーナも反応した。 「ん? ブルーローズもカード欲しいのか? だったら、今度、二人で俺の家にでも遊びに来いよ。カード探しとくからさ!」 「うんうんうん! 絶対欲しいし、絶対行きたいから!!」 タイガーの非売品カードというレアカードをゲットできることも嬉しいが、それ以上にタイガーの家に遊びに行ける口実が出来たことが何より嬉しかった。 今、この場にバーナビーがいなかった事に正直感謝したい。 ――――おい、虎徹。そのカード……。私にはくれないのか? (えっ? なっ、何でお前まで欲しがるんだよ;) ――――当たり前だろ? そんなもの、私のコレクションに値する。……まぁ、一番のコレクションは、お前そのものだがな♪ (あ~。はいはい。一応、探してみるから;) 突然、会話に割り込んでくるクロノスにそう虎徹が言った時、虎徹達が身に着けているPDAが一斉に鳴り出した。 それを冷静にボタン操作するとアニエスの顔が浮かび上がる。 『ボンジュール、ヒーロー。シュテルンメダイユ地区で火災事故発生。今すぐ現場にGOよ!!』 「「「「「はい!!」」」」」 そのアニエスの言葉を聞いて虎徹達は、現場へと向かうべく、すぐさま準備を始めるのだった。 『事故現場よりヒーローTV緊急生中継! 工場火災です! 炎の勢いは、増す一方!!』 街頭ビジョンには、ヒーローTVの生中継で、工場火災の現場が映し出されている。 『あーーっと! 入り口付近でドラゴンキッドが避難誘導!! 内部に人は残っているのでしょうか!? そして、他のヒーロー達も次々と現場へと駆けつけてくるーーー!!』 そして、カメラは次々とヒーローの登場を映し出していく。 だが、そこにタイガー&バーナビーの姿は、まだなかった。 『出遅れているのは、タイガー&バーナビー!! ここから巻き返せるのかーーー!?』 (う~ん……。なんか、妙に引っかかってるんだよなぁ;) マリオの実況を聞きながら、虎徹は妙に考え込んでいた。 この事件は、何か裏があったような気がしたんだが、それが何故だか思い出せなかった。 それが、妙に頭の中に引っかかって気持ち悪い感覚なのだ。 ふと、ダブルチェイサーを運転しているバーナビーへと目を向けると、何やら不機嫌そうな表情を浮かべている。 「…………なんか、バニーちゃん。怒ってる?」 「…………」 その言葉にバーナビーは、無言だった。 やっぱり、怒っているという事なのだろうか。 一体、俺が何をしたのだろうか? これも、さっぱり見当が付かない……。 「……あの……おじさ――」 「だあっ!? バニー! あれ……!!」 何かを言おうと意を決してバーナビーが虎徹を見たが、当の本人である虎徹は、近くで発生した爆発を目にして声を上げる。 爆風と共に黒い人影が落ちるのが虎徹には見えた。 「……人!? 俺が行く!!」 ――――待て、虎徹! それは……。 クロノスが制止する声など聞かず、虎徹は人影へと近づき、優しく受け止めた。 『あーーっと! ワイルドタイガー! 登場と同時に能力発動!! 救助ポイントゲットかーーー!?』 だが、この時になって虎徹は、漸く気が付く。 俺が今、助けたものは……。 『前代未聞です! ワイルドタイガーが救助したのは、マネキン!! もちろん、救助ポイントは、0ポイントだーー!!』 首が外れ、チェイサーの上にそれが転がった。 (…………何なんだよ?) 間違いなく、俺は、この事件に関わっていたのに……。 なんで、思い出せないんだよ? この事件を起こした犯人やその目的が……。 その事に虎徹は小さな苛立ちを募らせるのだった。 そんな虎徹の事をクロノスはただ静かに見つめていた。 神様シリーズ第4章第8話でした!! パオリンとのお話を書く前にどうしても、上田先生版のタイバニのお話が書きたかったので、盛り込んでしまいました! だって、上田先生のお話が好きだったから♪ ちょっと、寄り道する分、この賞は長くなりそうです; それにしても、何だか虎徹さんの様子がおかしいですね。それについてクロノスは何か知ってそうですが。 R.3 1/31 次へ |