「何故、エドワードを狙う! あいつは、ウロボロスと関係ないはずだ!」
「ふっ……」

イワンとエドワードたちと別れた虎徹は、すぐさま屋上へと向かった。
そこで、ルナティックと対峙するバーナビーの姿を確認した。
バーナビーの問いにルナティックは、鼻で笑った。
そのルナティックの行為は、バーナビーから冷静さを奪っていく。

「組織の口封じで動いているんじゃないのか?」
「私は悪人に罪を償わせる為、舞い降りた」
「じゃぁ、お前はウロボロスじゃないのか!」
「諄い」
(頼む。もう少し、落ち着いてくれ、バニー……)

バーナビーとルナティックのやり取りを虎徹は、静かに見つめた。
今、ここで俺が変に口を挟んでバニーを刺激させるわけにはいかない。
だが、当の本人であるバーナビーは、そんな虎徹の想いなど、知る由もない。

「お前のせいで、ウロボロスの手掛かりが途絶えたんだ!」
「それは、残念だったなぁ」
「……っ! このっ!!」
「おい! 無茶すんな、バニー!!」

ルナティックの挑発に怒りで我を忘れたバーナビーがルナティックへと攻撃を仕掛けていく。
そんなバーナビーに虎徹は、声を掛け止めるが、その忠告などバーナビーの耳に届くはずもなかった。
そして、ルナティックもそんなバーナビーの攻撃などあっさりと躱すと、空へと舞い上がる。

「愚かな。……憎しみで我を忘れたか」
「!!」

ルナティックの声にバーナビーは、振り向くが動けなかった。
己の背後にいるルナティックの手にはボウガンが握られており、バーナビーはその射程範囲内にいた。

「タナトスの声を聞けっ!」
「バニーーー!!」

そう虎徹が叫んだのと、ルナティックがバーナビーへと矢を放ったのは、ほぼ同時だった。






~神様ゲーム~








「……えっ?」

その時、バーナビーは息を呑んだ。
一瞬、自分の身に何が起こったのか、わからなかった。
だが、バーナビーの目に映ったのは、青ではなく、漆黒だ。
虎徹は、何の躊躇いもなく、あの時と同じようにバーナビーの前へと飛び出した。
そして、ボウガンから放たれた青い炎が虎徹の右肩を掠める。
衝撃と熱で虎徹の肩に掛けられていたタスキが燃え、宙へと舞い、虎徹は屋上の床に物凄い勢いで叩きつけられる。

「ぐぅっ!」
「!?」
――――虎徹! 大丈夫か!?
(あぁ……なんとか……な……。トキ、お前は動くなよ)

そんな虎徹の姿を見たバーナビーは絶句し、トキが声を上げるのに対して虎徹はそう答えた。
そう答えなければ、トキがルナティックに何をしでかすか、わからなかったから。
そして、ゆっくりと虎徹は起き上がると、力強く地面を蹴ってルナティックへと向かう。

「うらああああぁぁっ!!」

それを見たルナティックは虎徹から逃げることなどはせず、左手に青い炎を宿すと虎徹目掛けて飛んでいく。

「!!」
「うおおおぉぉぉっ!」

空中で交錯する二人。
ルナティックの青い炎の左拳が虎徹の右頬を抉る。
だが、それは虎徹だって負けてはいない。
虎徹の右拳がルナティックの仮面に当たっている。
そして、着地したルナティックの仮面には小さな罅が入っていた。

「…………」
「大丈夫ですか!」
「大丈夫……だと思う;」

ルナティックは仮面に入った罅を気にしつつ、己と拳を交えた人物――虎徹へと視線を送る。
無事に着地した虎徹の許に駆け寄ったバーナビーは、虎徹の肩に手を乗せ、そう言って虎徹を気遣った。
正直、滅茶苦茶痛いけど、虎徹はチラッとだけバーナビーを見てそう言った。
その虎徹の反応からバーナビーは、虎徹の言葉が嘘であることを見抜く。
基本的、この人は嘘つきなのだ。
そして、それと同時にバーナビーの中に何か靄のような感情が沸き上がってくる。
この人の事を傷付けたあいつが、何故か無性に許せなくなった。
だが、それに気付いているのかいないのかわからないが、虎徹が自分の肩に置かれているバーナビーの手を掴む。

「だから! 少しは、落ち着けって!」
「ですが!」
「大丈夫だって……な?」
「…………」

そう言ったこの人の琥珀の瞳は、僕のことを心配そうに見つめていた。
どうして、この人は……。

「貴様らヒーローとの争いは本意ではない」
「何?」

そんな二人に対して、ルナティックはそう語り始める。

「私は、人を殺めた者に、同等の償いを科しているだけだ」
「……だからって……人を……殺すのか?」
「それが、私の正義……」

誰が何と言われようとその正義を曲げることなどはしない。
その選択で自分自身がどういう結末を辿ったとしても、すべて受け入れる。
そう、ルナティックが言っているように虎徹には聞こえた。
それは、この前のルナティックの事件であんな事を言われたせいかもしれないが……。
だからこそ……。

「……その考え……やっぱ、何度聞いても、俺とは……合わねぇわ……」
「おじさん……?」

そう静かに呟いた虎徹の言葉にバーナビーは、虎徹を見た。
そこにあったのは、強い意志を宿した琥珀の瞳だった。
その瞳を見ているだけで、吸い込まれそうになる。

「じゃぁ……俺の正義はな…………」

バーナビーがそんな風に自分のことを見つめている事など知らない虎徹は、右肩から感じる痛みを堪えながら、ルナティックへと向き合った。
こいつにだけは、絶対に言わないといけないことがあるから……。

「お前みたいな馬鹿を捕まえる事だっ!!」

こいつは、諦めてしまっている。
人がやり直せるという事を。
だからこそ、それが間違っているという事を俺自身で証明してやるよ……。

「!!」

その時、先ほどの虎徹の攻撃の影響からかルナティックの仮面に入った罅があの時と同じように更に広がっていく。
それをルナティックは、手で押さえて素顔が見えないように隠す。

「……貴様の言う正義の行く末、しかと見届けさせてもらおう」
「! 待て!!」

ルナティックは、虎徹のそう言い残すとその場から飛び去ってしまった。
それをバーナビーは追いかけようとしたが、その直後にNEXT能力が切れてしまう。

「……あいつ!」

だから、バーナビーは仕方なくルナティックを追いかける事を諦めるしかなかったのだった。





















ヒーローアカデミーの上空にはヘリが飛び、校門には警察車両や消防車両、更には野次馬たちが集まって来ていて大変な状況になっている。
そんな中、イワンは警察官に引き渡されるエドワードの立会いをしていた。

「一緒にやり直そうよ」

恐る恐るといった様子でそう言ったイワンをエドワードは、ジッと見つめている。

「僕の失敗も、エドワードの失敗も……」
「……うるせぇ」
「…………」

イワンの言葉にそう呟き、視線を逸らすとエドワードは、自ら護送車に乗り込んでいく。
そんなエドワードの姿をイワンは寂しそうに俯いた。
だが、その時、エドワードがふと足を止めた。

「…………助けてくれて、ありがとうな」
「……えっ?」

そのエドワードの言葉に反応し、イワンは顔を上げる。
ドアが閉められて、発車する護送車をイワンは見送った。

「…………ずっと、待ってるから」

ずっと、待ってる。
誰に何と言われようとも、僕が大事だと思うものを守れるようなヒーローになってみせるから……。
だから、必ず戻って来て、エドワード。





















「……なぁ、バニー」
「…………はい?」

ストレッチャーに乗せられて運ばれている虎徹は、そう口を開いた。
その傍らには、バーナビーが虎徹に付き添っていた。

「……手形野郎がウロボロスじゃないってハッキリして、よかったな」
「!!」
「あっ、いや……よくねぇか……。ごめんな」
「…………」

虎徹の言葉からバーナビーが困惑した表情を浮かべているのが見えた為、虎徹は苦笑混じりでそう言った。
その言葉にバーナビーは、何も言葉を返すことができなかった。

(どうして……)

どうして、貴方が謝るんですか?
謝らないといけないのは、僕の方なのに……。
僕が、ルナティックの挑発に乗らなければ、この人はこんな怪我をする事なんてなかったというのに……。
救急車の中に運ばれていく虎徹をバーナビーはその場で見送った。
救急車のサイレンがどんどん遠のいていくのがよくわかる。
ふと、バーナビーは地面に落ちていたあの人が肩に掛けていたタスキの燃え残りを見つけた。
そして、そのタスキを自然と手に取ってしまっていた。

「……あの、バーナビーさん!」
「!!」

すると、突然背後から声を掛けられたバーナビーは、振り返るとそこには、先ほどまでインタビューを受けていたはずの折紙サイクロンの姿があった。
それにを目にしたバーナビーは、咄嗟に拾ったタスキを折紙サイクロンから見えないように隠した。

「あっ、あの……タイガーさんは……大丈夫なんですか?」
「今、病院に搬送されたので、大丈夫だと思いますよ」
「そう……ですか。……よかった」

マスクを付けているからか表情が見えないが、その声から彼は心底安堵しているようだった。

「………あの……バーナビーさん」
「? 何ですか、先輩?」
「……僕……今日の事でよくわかったんです。ただ、見切れてるだけじゃダメだって。……ヒーローは、殺させない。目の前の犯罪を止めることが大事なんだって」
「…………」

その折紙サイクロンの言葉にバーナビーは、ただ黙って聞いていた。
だが、何故彼が僕にこんな話をしているのか、わからなかった。

「……そう思えたからからこそ、僕は……バーナビーさんには、ちゃんと伝えておかないといけないと思ったんです」
「僕に……ですか?」

バーナビーの言葉に折紙サイクロンは力強く頷いた。

「僕、これからもっともっと頑張って、タイガーさんの隣に自信を持って隣に立てるようになりたいんです! だから……」

そこまで一気に言った折紙サイクロンは、深く息を吐いてから言葉を続ける。

「……バーナビーさんがいらないって言うんだったら、僕は本気でタイガーさんの事、貰いに来ますからっ!」
「!!」

その折紙サイクロンの言葉にバーナビーは、瞠目した。
僕が知っている彼は、いつも何処か頼りない青年の姿だけだったが、今はその面影は何処にもなかった。

「……あっ! きょっ、今日はこの事だけ言いたかっただけですので、この辺で失礼しますっ!!」

そして、折紙サイクロンは、今自分が言ったことが少し恥ずかしくなったのか、そう照れ臭そうに言うとバーナビーの許からすぐさま離れていった。

(……一体、今のは何だったんだ?)

そもそも、僕があの人とバディを組んでいるのは、会社命令であって、個人的な意見などない。
大体、僕は、あの人とバディを組んでいいと思ったことなど一つも――。

――――! ……正解だ、バニーちゃん!!
――――バニー! 危ねぇっ!!
――――お前が欲しいのはポイントだろ? ハッピーバースデー♪
――――…………バニー……ちゃん?

ふと、頭に浮かんだのは、あの人の様々な表情。
笑ったり、怒ったり、驚いたような様々な表情を思い出す。
それを考えると、あの人とバディを組んでいい事もあったかもしれないと、少しだけ思い直した。
そのおかげで、こんなにもあの人の表情を見ることができたのだから……。

「…………負けませんから」

そして、バーナビーは無意識のうちにそう呟いていた。
相手が誰だろうと、ここだけはまだ誰にも譲る気はありませんから……。
そう無意識のうちに思ってしまうバーナビーであった。
























神様シリーズ第4章第7話でした!!
おおっ!イワン君がバニーちゃんに宣戦布告を!!
これから、イワン君も虎徹さん争奪戦に参戦するのが楽しみな、私www
そして、これにてイワン君の回は終了となります。次は、キッドちゃん!っといいたいところですが、ちょっと番外編を書いていきます♪
なんとなくわかる人もいると思いますが、お楽しみに♪


R.2 9/22



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