――――放せよっ! くそっ! ……イワン! 助けてくれよ!! おい、イワン!! あの時、強盗犯たちと揉み合うエドワードは必死に僕に助けを求めていた。 それなのに、僕は怖くて、震えてしまって動けなかった。 そのせいで、あの悲劇が生まれてしまった。 あの時、僕が動いてさえしていれば、あの場で銃口が火を噴くこともなかった。 友達を、エドワードを犯罪者にしてしまうこともなかったのだ。 そんな僕にヒーローを名乗る資格なんてないんだ……。 ~神様ゲーム~ 「いやぁ、君が学生の頃は何をやらせても素晴らしかった! 何せ、全校生徒が憧れていたぐらいだからねぇ」 「いえ……」 「…………」 虎徹がヒーローアカデミーの控室に戻るとマッシーニとバーナビーが昔話をしていた。 その会話を何処か上の空の状態で聞き流しながら、虎徹は椅子に座った。 結局、俺は悩んていた折紙に何も言ってやることが出来なかった。 あの時と同じことを言ってもあの場では、折紙を唯追い詰めるだけだってわかっていたのに……。 やっぱり、あの後を追いかけて話をするべきだっただろうか……。 そんな後悔ばかりが、虎徹の頭の中で過っていく。 「君のファンクラブまであったもんなぁ。全員で君と同じ眼鏡掛けたりして」 「恥ずかしいから、やめてください」 「あぁ……。すまん、すまん」 マッシーニに対してバーナビーはそう言っていたが、その表情は満更でもないようにも見えた。 「…………あのぉ、どんな生徒だったんですか?」 「もういいですから」 「あっ、いや、バニーじゃなくて……折紙の事」 「あっ……」 虎徹の言葉に何処か照れ臭そうにそう言ったバーナビーだったが、その後の虎徹の言葉で表情が変わる。 その表情は、勘違いからくる恥ずかしさ。 そして、もう一つの表情は……。 「あぁ……。イワン君はねぇ……」 虎徹の言葉を聞いたマッシーニは少し考えてから学生時代のイワンのことを語り始める。 その間が若干長かったので、イワンの事をちゃんと覚えているのか、不安になったが……。 「……大人しい子でしたよ。仲のいい生徒がいまして、その子の影にいつも隠れてました」 「それって……学年一のNEXTだっていう?」 「えぇ、とても優秀な生徒でした。しかし、在学中に……ある事件を起こしてしまって……」 「事件?」 そのマッシーニの言葉に虎徹だけではなく、バーナビーもマッシーニへと視線を向けた。 「……これは……我が校としても苦しい記憶なのですが……」 そして、マッシーニの口からイワンとエドワードの過去が語られる。 とある銀行の前で発生した強盗事件。 その現場に偶々居合わせた学生時代のイワンとエドワード。 現場にヒーローたちが登場する気配はまるでなく、誰も手出しできる状況ではなかった。 その光景を見たエドワードは、自分たちでこの事件を解決しようとイワンに話を持ち掛けたのだったが、外でのNEXT能力の仕様は校則違反だと言ってイワンはそれを断った。 そして、ヒーローたちがが来るまで大人しく待つべきだとエドワードを説得しようとするのだったが、エドワードはその話に耳を貸すことはなく、イワンを残して現場へと駆け出してしまったのだ。 それが、この事件の悲劇の始まりだった。 エドワードは「砂を操る」NEXT能力を巧みに使い、強盗犯から銃を奪い取ることに成功した。 だが、エドワードはすぐに強盗犯たちに囲まれ、揉み合いとなってしまう。 その時エドワードは必死にイワンに助けを求めた。 だが、イワンは校則と目の間に広がっている光景が怖くて動けなかった。 そして、あの銃声が辺りに響き渡った。 人質となっていた女性銀行員が胸を押さえて倒れる。 拳銃を握り締めているエドワードは、驚愕の表情を浮かべたままその場で立ちすくんだまま、強盗犯たちと共に連行された。 「その件なら、聞いたことがあります。事故とはいえ、ここから殺人者が出たって」 「その後、エドワードは実刑を受け、ヒーローになる資格も失いました」 「…………」 マッシーニの話を聞いたバーナビーは少し胸を痛めたような表情でそう言った。 そんなバーナビーの言葉を聞き、マッシーニはその後エドワードがどうなったかまでを話してくれた。 それが、イワンが今までヒーローを続ける上でずっと悩んできたことのすべてだった。 「……その彼は、今も刑務所に?」 「……それがぁ……数日前に連絡があったのですが、彼は……脱獄しているようなのです」 「「!!」」 虎徹の言葉に何故か歯切れ悪くそう言ったマッシーニの言葉は、決していい内容のものではなかった。 そして、その言葉を聞いた瞬間、虎徹は何かを思い出したかのように、すぐさま控室を後にした。 「ちょっ、ちょっと、おじ――」 「ああああぁぁぁ!」 「「!!」」 それをバーナビーが止めよとしたその時、辺りにイワンの叫び声が響いた。 それに驚いたバーナビーは虎徹を引き止める事を止め、彼の後を追いかける事にしたのだった。 「……お前に、俺の苦しみがわかるか? え? 俺は、後少しでヒーローになれたんだよ! それなのに、お前がっ!!」 「ぐあっ! はあっ、はあっ、はぁっ……」 ヒーローアカデミーの中庭。 そこで、イワンはエドワードの「砂を操る」NEXT能力によって砂の中に沈められていた。 そんなイワンの顔をさらに砂に押し込めようと、エドワードはイワンの頭を乱暴に掴んで押さえつける。 それから何とか逃れようとイワンはエドワードの手を掴んで必死に抵抗する。 「何であの時、何もしなかった? 何で助けに行った俺が犯罪者で、お前がヒーローなんだよっ!!」 「!!」 エドワードから浴びせられるその罵声にイワンの抵抗の手が一瞬弱まる。 その一瞬の隙をエドワードは見逃さなかった。 「全部お前が悪いんだよ。俺は、お前のせいで何もかも失ったんだっ!!」 「ぐふっ、うぅっ、うぐっ……」 「折紙!!」 「!?」 そして、エドワードが再びイワンの顔を地面の中に沈めようとしたその時、一つの声がそれを遮った。 「…………タイガー……さん……?」 その声が聞こえた方向にイワンは何とか視線を向けると、そこにいたのは、息を荒げている虎徹の姿だった。 そして、彼に続くかのようにバーナビーとマッシーニが駆けつける。 「エドワード!」 「ちっ!」 二人のヒーローと校長の登場にこのままイワンへの復讐を続けるのは無理だと判断したのか、エドワードがイワンを押さえていた腕の力が弱まる。 そして、その場から逃げるべく、エドワードはゆっくりと地面の中に消えていく。 「待て! この野郎!!」 それを阻止すべく、虎徹はエドワードに向けて両手を伸ばすが、間一髪のところで届かず、彼を取り逃してしまうのだった。 「っだぁ! また!!」 「大丈夫ですか?」 「悪い、折紙。助けに来るのが遅くなっちまって……」 「…………何で邪魔したんですか」 「えっ?」 イワンを地面から引き摺り出したバーナビーに対してそう言ったイワンの言葉の意味がバーナビーには理解できなかった。 「あいつの気が済むなら、僕は殺されてもよかったんだ」 「……お前、何言ってんだよ?」 イワンの言葉に虎徹はあの時と同じように眉を顰めてそう言った。 「だって、僕があいつの人生を滅茶苦茶にしたから」 「エドワードは逆恨みしているだけです」 「……えっ?」 バーナビーの言葉にイワンは驚いた表情を見せる。 「話を聞く限り、折紙先輩に非はないですよ」 「……うん」 バーナビーの言葉に同意するかのようにマッシーニも頷く。 だが、それでもイワンは頑なだった。 「……違う。あの時、あいつは僕に助けを求めてたんだ!だけど、僕は……もし、あの時僕が動いてたら、あいつはヒーローになってたのに……。僕よりヒーローになってたのに……。僕が悪いんです……。僕が……!」 「「…………」」 そう言って自分を責め続けるイワンの姿にバーナビーとマッシーニは黙って聞いていた。 いや、何てイワンに声を掛けていいのかわからず、困惑していると言った方がいいだろう。 ――――……やめておけ、虎徹。 そんな中、イワンを励まそうと虎徹が口を開きかけたその時、それを遮るかのようにそうクロノスが言った。 ――――今のこいつに何を言っても無駄だ。人の根本はそう変わらないんだ。こいつは……ヒーローには向ていない。 (うるせぇよ!) お前に、トキに、折紙の何がわかるって言うんだよ。 俺は、知っているんだ。 言葉には力がある事を……。 俺が、Mr.レジェンドの一言で変われたように折紙だって、きっかけさえあれば変われるんだよ。 だから、俺は絶対諦めねぇ。 「…………だからこそ、お前が止めてやれよ」 「えっ!?」 その静かな虎徹の言葉にイワンは驚いたように顔を上げて虎徹の顔を見つめた。 「お前のせいであいつは罪を背負ったんだろ? これ以上、罪を背負わせていいのかよ?」 「でっ、でも、僕じゃ何も――」 「また、同じ失敗を繰り返すつもりか?」 「!?」 虎徹の言葉を聞いたイワンは瞠目した。 ――――……イワン! 助けてくれよ!! おい、イワン!! それと同時にあの光景が頭の中でフラッシュバックされる。 エドワードが救いを求める声にあの時は、怖くて動くことが出来なかった。 けど、今だったら……。 「……お前はもう、ヒーローなんだぞ、折紙」 その虎徹の言葉がイワンの背中を優しく押す。 そうだ。 僕は、もうあの時と同じ僕ではないんだ。 僕は、もうヒーローなんだ。 誰にどう思われようが関係ない。 僕は、僕が救いたい人を救うんだ! 意を決して立ち上がったイワンの瞳にはもう迷いなどはなかった。 そして、イワンはエドワードを追いかけるべく、走り出した。 それを虎徹、バーナビー、マッシーニの三人は静かに見送った。 「……今、いい事言ったなぁ、俺♪」 「うわぁ、自分で言った;」 「えっ?」 「やめてくださいよ、カッコ悪い」 ――――自分で言わなきゃ、カッコよかったのに……。本当、残念な奴だなぁ、お前; 「べっ、別にいいだろっ/// ほら、俺たちも行くぞっ!」 そう言った虎徹の言葉にバーナビーとクロノスは共に呆れたように言った。 それに対して、虎徹は照れ臭そうにそう言葉を返すと、さっさとイワンを追いかけ始めた。 「いいパートナーを持ったようだね、バーナビー」 「……どこがですか」 そう言ったマッシーニに対して、バーナビーは悪態をつく。 だが、その言葉とは裏腹にバーナビーの声と表情はとても穏やかなものだった。 だから、それを見たマッシーニは、嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。 神様シリーズ第4章第5話でした!! ついに、折紙先輩が虎徹さんの言葉で覚醒(?)しました! 「お前はもう、ヒーローなんだぞ」と虎徹さんに言われて表情が変わる折紙先輩が堪らなく好きだったりします♪ そして、何気に自分の事を聞きたいと思っていたバニーちゃんが勘違いしてしまうの頃も何気に可愛いですよね。 あそこは、間違いなく先輩に嫉妬してると思ってます! R.1 10/31 次へ |