「いいかっ! ヒーローにとって一番重要なのは、市民を守ることだ!」

ヒーローアカデミーの敷地にあるグランドで私服に着替え、アイパッチを装着した虎徹はそう言って講義に挑んでいた。

「その為には、ビルを壊したっていい! 賠償金なんか気にするな!」
「はい! 先生!!」

その虎徹の熱弁に純粋な生徒たちは目を輝かせながらそう言った。
この光景をあの相棒が見たら何を言っただろうか?
間違いなく「ポイントを取ること」だと言って、虎徹の講義を邪魔していただろうということがクロノスには想像ができた。

――――虎徹。……もっとマシなことを教えてやれよ; お前は、この中で第二の壊し屋が誕生したら、どうするんだ;

そして、その光景を一人眺めていたクロノスは、彼らの将来を若干心配しつつ、静かに虎徹の講義を見守るのだった。






~神様ゲーム~








「先生! どうしたら、ヒーローになれますか?」
「僕の能力、見てもらえないですか?」
「私も見て欲しいです!」

一通りの講義を終わらせた虎徹だったが、あっという間に生徒たちに囲まれるのだった。
少し興奮気味な生徒たちを虎徹は何とか宥めように言葉を続ける。

「わかった、わかったから。とりあえず、能力を見せてみろ」
「はい! まずは、僕からお願いします! ハアァァァ!」

虎徹の言葉に一人の男子生徒が手を挙げてNEXT能力を発動させる。

「ハァ!」

そして、男子生徒は思いっ切り自分の頬を引っ張るとまるでゴムのように伸びた。

「えっ、え~っと……それだけか?」
「はい! こんなに皮膚が伸ばせるんです! どうですか?」
「えっ? え~っと……そうだなぁ;」
「先生! 私のも見て下さい!」

男子生徒のNEXT能力を見て困惑する虎徹を他所に次は中の女性生徒が手を挙げた。

「私は、汗を凄く流せます」
「あっ、汗?」
「ハアァァァ、ん~~!」

中年女性生徒がNEXT能力を発動させると、その女性の顔から滝のように汗が流れ落ちていく。

「どうですか?」
「そっ、そうだなぁ……;」
「先生! 僕のも!」
「私も! どうですか? 先生!?」

何と言っていいのか、虎徹の気持ちのことはお構いなしに次から次へと生徒たちは手を挙げてはNEXT能力を発動させ、それを虎徹へ披露していく。
ある者は首が伸びる能力、ある者は足が伸びる能力、ある者は髪の毛を飛ばす能力などなど。
だが、どれもヒーロー向きの能力とは、虎徹には思えなかった。
NEXTというよりか、ビックリ人間と言った方がしっくりくるくらいだ。

「……まっ、まぁ、ヒーローにも向き不向きってのが合ってなぁ……;」
「お願いです! 先生!!」
「!!」

正直な意見を虎徹が言おうとしたその時、一人の男子生徒がそう声を上げた。

「僕たちは、どうしてもヒーローなるしかないんです! ……そうじゃないと……NEXTな僕たちは、唯気持ちの悪い存在のままなんです。……誰も認めてくれないからっ!」
「!!」

その言葉を聞いた虎徹は瞠目した。
なんで、あの時はこのことに気付けなかったのだろうか?
この時、彼らがどんな想いで俺にNEXT能力について相談していたのかを……。
あの時は、唯苦笑いを浮かべるしか出来なかったことを今は酷く後悔した。
だから、今度はちゃんと応えてやりたい。
その為にも、考えろ。
考えるんだ、鏑木虎徹。

「……あっ、そうだ! お前ら、チーム組んだらいいんじゃないか?」

そして、それぞれの能力から一つの案を虎徹は思いつく。

「俺も今コンビでやっててさぁ、最初はコンビなんてどうかと思ったけどさぁ……やってみると、足りないとこ補い合えるっつーか……。まぁ、大変なことも多いけどなぁ;」

バニーとは、初めは喧嘩ばっかりだった。
けど、少しずつ、あいつと一緒にいる時間が増えて、あいつのことを知っていくうちにどんどんバニーの良さがわっかってきた。
それによって自然と喧嘩も少なくなり、俺の背中を安心して預けられるくらいまでになったんだ。
けど、今はトキの力のせいでコンビを組む前にまで戻されて、また振り出しい戻っちまったけど、きっとまた出来るようになると俺は信じている。
俺の相棒(バディ)は、バニーだから……。

「……だから、まずはそこの君は偵察係な。首を伸ばせば、簡単に高い所も見えるだろ?」
「はい! 頑張りますっ!!」
「で、君は、その顔で犯人を驚かせて気を引く。あなたは、その隙に犯人の顔に汗を浴びせる。汗って目に入ると結構痛ぇしな」
「あの、先生! 私は、どうしたらいいですか?」
「そうだなぁ……。君は、足を自由自在に動かせるんだったら、その足を犯人の足を巻き付けて引き倒せると思うぞ」
「わかりました! 私、練習してみます!」
「後、君は髪の毛を飛ばせるんだったら、事前に麻酔かなんか薬を仕込んどいて、相手の動きを封じるのに使えるんじゃないか?」
「なるほど! ちょっと、色々と試してみます!」

そして、虎徹は先程見せてもらったNEXT能力についてそれぞれ分析をして、彼らの能力で活かせそうな役割や使用方法について助言していく。

「チームで連携すれば、君たちのNEXT能力も様々なことに活かせる。それに、現場では、他社のヒーローたちと協力して動くこともとっても重要になるんだ。俺が今言ったことは、ほんの一例だから、後は自分たちで出来ることを考えてそれを実施できるようにするんだ」

人一人の力は小さなものでも、力を合わせることで出来ることは多くなる。

「いいか! 俺らの力は、人を助ける為にあるんだ。それを忘れるな!」
「はい! ありがとうございますっ! 早速、練習してみますっ!!」
「おうっ! 頑張れよっ!!」

虎徹の言葉を聞いた生徒たちは、嬉しそうにそう言うと自主練をすべく、虎徹の許から離れていった。

――――……虎徹。お前、凄いなぁ。
(はぁ? なんだよ、急に?)

そして、彼らがいなくなったとほぼ同時にクロノスから感心したようにそう声を掛けられた。
その言葉に虎徹は、不思議そうに問いかけた。

――――よくもまぁ、あんなことを咄嗟に思いつくと思ってさぁ。……あんな、ビックリ人間みたいな能力をあぁも使えるもの生まれ変わらせるとは……。お前、ヒーロー辞めたら、ここで教師とか、やった方がいいんじゃないのか?
(ヒーローは……辞めねぇよ……)
――――ん? 確か、私の記憶では、お前は近いうちにヒーローを辞めて、娘のところに戻るんじゃなかったのか?
(…………)

クロノスの言葉に虎徹は、即答することが出来なかった。
俺がヒーローを辞めることなんてありえない。
自分のNEXT能力が減退していることを知るまでは……。
けど、人は必ず誰かのヒーローになれる。
だから、俺は楓だけのヒーローになることを最終的に選ぶつもりではいる。
それをトキに即答できなかったのは、俺の中にまだ迷いがあるからなのかもしれない……。
いつか、ちゃんとその答えも出さないといけないと解っているのに……。

「あっ、あの、タイガーさん!」
「ん? おっ、折紙? どうしたんだよ?」

すると、虎徹は誰かに呼ばれた気がしたので振り向くと、そこにいたのはイワンの姿だった。

「……あっ、あの! 僕の能力も見てもらえますか?」
「……へっ?」

イワンからその言葉を聞くのは二回目だったはずなのに、虎徹はそのことすら忘れているかのように不思議そうな声を上げるのだった。





















「おおっ! すっげぇ!」
「おおっ! すっげぇ!」

Mr.レジェンドの銅像の前でその銅像を挟むように左右に虎徹の姿があった。
その片方はNEXT能力「擬態」の力で虎徹の姿に化けているイワンである。
何度見てもイワンの「擬態」能力は完璧だと思う。
これで相手の能力までコピーできたら最強だろうに……。
あっ、けど、それまで出来てしまっていたら、折紙には俺に擬態してもらうのだけはやめてもらわないといけないかも、と一瞬考えてしまった。

「いやいや、真似しなくていいだろ」
「いやいや、真似しなくていいだろ」
「あっ、いや、マジでマジで」
「あっ、いや、マジでマジで」
「おい! いい加減にしろよ、折紙!」

イワンがなかなか自分の真似を止めないので、虎徹は思わずそう一喝した。

「あっ、ごめんなさい……」

それを聞いたイワンは虎徹の姿のままそう言って謝った。

「しっかし、すげぇ能力だよ。お前、人間にも化けれるんだな?」

イワンの能力は、触れた相手の容姿や声を完璧にコピーできること。
それは、人間だけではない。
マーベリックの事件でヒーローたちに追いかけられた時、目の前にあったポスターが折紙だと気づいた時は、マジで驚いたことを今でもよく覚えているくらいだ。

「…………でも、これ人助けには使いようがなくて……」
「そんなことねぇよ!」

落ち込む虎徹姿のイワンに対してそう虎徹は言葉を返す。

「例えばだけどさぁ、立てこもり事件が起きたとするだろ? そうなったら、俺やバニーたちはNEXT能力の特徴から考えても正面突破するしか方法がねぇけど、それを実行するには、人質のことを考えるとなかなか出来ないんだよ。けどさぁ、折紙だったら、犯人の目を欺いて中に潜入することも出来るんじゃないか?」
「! けど、それって、なんか卑怯じゃ……」
「人を助けるのに、卑怯なことなんてねぇんじゃねぇの?」
「けど……やっぱり、僕なんて……」
「そんなに思い悩むことなんてないと思うぞ。折紙の能力にしか出来ないこともたくさんあるんだからさぁ!」
「!!」

虎徹の言葉にイワンは驚きのあまり、能力を解除し、元の姿に戻った。

――――おい。諦めんのかよ?
――――だって、僕はエドワードみたいにヒーロー向きの能力でもないし……。
――――大丈夫だよ。お前にしか出来ない事があるって!
――――僕にしか出来ない事……。
――――あぁ! 絶対、俺ら二人、ヒーローになろうぜ!
――――……うん。

ふと、頭に過ったのは、あの時ここでエドワードとの会話。
一緒にヒーローになるって約束したのに……。

「……昔、同じ事を言われました。でも、その友達は、学年一のNEXTだったから、その言葉、本当に出来なくて……」
「……けど、そいつは……ヒーローに……なれなかったんだろ? ……で、お前がなってるって事は、折紙の方がヒーローに向いてたって事だよ」
「違いますよ」

イワンの言葉に虎徹は少し迷いつつも、あの時と同じ言葉をイワンに伝える。
だが、案の定、イワンはそれを否定した。

「いや、そういう事だろ」

それでも、虎徹は諦めずそう断言した。
イワンが今までどれだけ頑張ってきたかを、そして、どれだけ悩みながらヒーローを続けていたかを知っているから……。

「本当に違うんです」
「謙遜すんなよ! お前は――」
「違うって言ってるでしょ!!」
「!!」

お前は、ヒーローを続けていいんだ。
その事をなんとか伝えようと虎徹は言葉を続けたが、それを打ち消すかのようにイワンは声を荒げてまでそれを遮った。

「……彼が……ヒーローになるべきだったんです。……友達を助けられなかった僕が、ヒーローになるべきじゃなかったんですっ!!」
「おっ、おい、待てよ! 折紙!!」

悲痛な声でそう言ったイワンは、虎徹に背を向けてその場から走り去ってしまった。
そのイワンの行動を虎徹は引き止める事が出来なかったのだった。
























神様シリーズ第4章第4話でした!!
虎徹さんが、生徒たちに助言する話は、アニメではなく、榊原さんの漫画版で会った部分です。
再び生徒たちと会話したことでその時生徒たちが何を思って虎徹さんに相談していたのかを虎徹さんが気付いてくれたらいいなぁと思って書いてみました。
正直、虎徹さんがヒーローを辞めたらヒーローアカデミーで教壇に立つことは、私としては全然ありだと思っています。
けど、やっぱり虎徹さんには生涯現役でいてもらいたいですね!


R.1 5/25



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