「今度の"Let's believe HEROES"キャンペーンなんだけどね。君の担当が決まったから、今日はそれについての連絡ね」 ヘリペリデスファイナンスのCEOに呼び出されたイワンは、そう彼に言われた。 謎のNEXTルナティックの出現により、彼の思想に賛同する市民が増え始めたこと、そして、ヒーローの信頼が落ちてきたのだった。 それらについて七大企業のCEO達が考えたことがヒーローの信頼を取り戻すということ目的にしたのが、この"Let's believe HEROES"キャンペーンだ。 正直、このキャンペーンに僕が参画するべきじゃないと思った。 間違いなく、ヒーローの信頼を落としているのは、僕なのだから……。 「君の担当は、君の母校、ヒーローアカデミーでの一般ファンサービスと生徒への特別講義だよ」 「えっ? 講義……? 僕がですか?」 CEOの言葉にイワンは不思議そうにそう言うと彼は優しく頷く。 「あぁ、あとアポロンメディアのタイガー&バーナビーも一緒だ。負けないように頑張ってくれよ。折紙サイクロン」 「はっ、はい……」 彼から手渡された資料に目を落としながらそうイワンは不安そうに呟いた。 正直、あそこには行きたくなかった。 行けば、嫌でもあの時のことを思い出してしまうから……。 でも、これは仕事なのだから仕方ない。 それに今回は、何故だか大丈夫な気がした。 きっと、それは僕一人であそこに行くのではないということがわかったから……。 あの人と一緒だと知ったからだった……。 ~神様ゲーム~ 「「あぁ、帰りたい」」 「……お前ら、妙に息合ってんなぁ;」 ヒーローアカデミーの控室。 そこでフェイスシールドを外してテーブルに置いたバーナビーとイワンは、見事なまでにハモったのを聞いて思わず虎徹はそう言った。 それに対してバーナビーは、何故か不機嫌そうな表情を浮かべ、溜め息をつく。 「こんなことしている暇があるなら、ルナティックを追跡すべきですよ」 「まぁまぁ、落ち着けよ。でも、まずは信頼回復なんだと」 「こんなことで信頼が回復できるとは思えなんですけど……。寧ろ、おじさんが何も物を壊さなければ、それだけで信頼が回復できる気がしますけど?」 "Let's believe HEROES"キャンペーンの企画自体にあまり乗り気ではないバーナビーは、この企画の為だけに制作されたタスキを一瞥した。 そんなバーナビーを虎徹は何とか説得を試みるがバーナビーの視線は冷たく、さらりと酷いことを言った。 「……けどさぁ、ルナティックを追跡するつったって、お前当てがあるのかよ?」 「それは……ないですけど……」 「だろ? だったら、今は、目の前の仕事に集中するんだな。……それに、逆にこの企画が刺激になって奴の方から出て来るかもしれないだろ?」 「!!」 虎徹の思ってもみない発言にバーナビーは瞠目した。 「どうして……そう思うんですか?」 「それは……俺の勘だ♪」 「なんですか、それ」 「ひっどいなぁ、バニーちゃんは; 俺の勘って結構当たるんだよ」 「はいはい。わかりましたから」 聞いた自分が馬鹿だったと思ったのか、バニーちゃんは諦めたように溜め息をついた。 そのバーナビーの反応に虎徹はちょっと不満を感じたが、それ以上余計なことを言って逆に問い詰められるのも面倒なので、そのままにしておくことにした。 「折紙もそんなに不安がるなよ。大丈夫だって!」 「……でも、僕、いつも見切れてるだけだし、ランキングも最下位だし……。本当は、生徒に教える自信なんて……」 「んな事、気にすんなよ。俺なんか、しょっちゅう物壊してバニーに叱られてるんだぞ」 「貴方は、もう少しその辺は反省してください。……そのせいで、何度もあの人に会わないといけなるって言うのに……」 緊張から、まるで魂が抜けたようにバーナビーの隣に座るイワンを元気付けるように虎徹は明るくそう言った。 その言葉を聞いたバーナビーは、何処か不機嫌そうにそう言ったことに虎徹は不思議そうに首を傾げる。 「なんだよ? ペトロフ管理官にバニーちゃんは、会いたくないのかよ? あの人、結構いい人なのに? バニーちゃんと違って、ちゃんとお酒にも付き合ってくれるしさぁ……」 「だから、貴方の賠償は僕の印象にもひび……ちょっと待ってください。貴方、あの人と飲みに行ってるんですか!?」 虎徹の言葉を軽く受け流そうとしたバーナビーだったが、その中でどうしても聞き逃せないワードが出てきた為、虎徹に問いかける。 それに対して虎徹は、きょとんとした表情を浮かべる。 「えっ? 俺、一人で行く時は、大抵管理官の方から誘ってくれるけど? 管理官の知ってる店、結構ワインが旨いんだよなぁ♪」 「今度、あの人に資料を持って行く時は、僕も同行しますので、そのつもりで」 「え~~っ! けど、バニーちゃん。取材とかで、忙しいじゃんか! だったら、俺、一人で――」 「いいですよね♪」 「あっ、はい……;」 反論しようとする虎徹に対して、そうバーナビーは笑顔で言う。 その笑顔が全然笑っていなかったので、虎徹は諦めた。 あぁ、暫くはユーリとは飲みに行けないなぁ。 ユーリが勧めてくれるワイン、凄く旨かったのに……。 ってか、バニーちゃんが話の途中で入ってきたせいか、折紙との会話が中途半端になってるし……。 「……まぁ、何とかなるって! ……あっ、そうだ、折紙! 今日、これが終わったら、またトレーニングに付き合ってくれないか?」 「えっ? 僕でいいんですか!?」 突然の虎徹の誘いにイワンは驚きを隠せなかった。 そんなイワンの反応のことは何も気にせず虎徹はニッと笑う。 「おう! この前のトレーニングが結構よかったからさ! ……折紙が嫌じゃないなら、な?」 「ぼっ、僕は全然! よろしくお願いしますっ!!」 「じゃ、今日の仕事は、頑張ってやろうな!」 「はい!!」 「…………」 イワンの言葉を聞いた虎徹は、嬉しそうに笑ってそう言った。 それに応えるイワンの声も先程までとは違って生気が感じられるくらい明るいものになっていた。 そんな二人のやり取りを何か言いたげにバーナビーはただ見ていた。 「そろそろ、いいですかな?」 ノックの音共に扉を開けてヒーローアカデミーの校長であるマッシーニがそう言って控室に入って来た。 マッシーニの姿を見たバーナビーとイワンは椅子から立ち上がる。 「お久しぶりです。校長先生」 「おぉ、バーナビ~。すっかり、頼もしいヒーローになってしまって」 突然のバーナビーをハグするマッシーニに対してバーナビーは、少し戸惑いを隠せないでいた。 ファンに対して同様の行動をとられてもあまり動じないバーナビーにしては、珍しい反応である。 「……こっ、ここで学んだお陰です」 「そう言ってくれると嬉しいよ」 そう言ったマッシーニは、イワンの姿を捉える。 「イワ~ン! 君の活躍も見とるよ!」 「あっ、あの……。本名は……やめてください」 マッシーニは、イワンに対してもバーナビー同様ハグをする。 それに対してイワンは、慌ててマッシーニから身体を離した。 「いかん、いかん! 今は、折紙サイクロンと呼ばんとな! しかし、二人共立派になったなぁ。……あっ」 「あ゛っ;」 イワンと会話していたマッシーニと虎徹は不意に目が合ってしまった。 虎徹がまずいと思った時には既に遅く、虎徹もあの時と同様、マッシーニにハグされるのだった。 「あぁ! タイガ~さ~ん! 初めまして!」 「ん……。どうも、どうも。すみませんね。卒業生じゃないのが一人が混じっちゃって;」 マッシーニにハグされつつ、虎徹は愛想笑いでそれに応えながら、マッシーニにから放れようとするが、思っていた以上に力が強く、中々放れられなかった。 そして、そんな虎徹の様子など一切気にすることなく、マッシーニは優しい笑みを浮かべる。 「い~え。元・人気ヒーローの登場に生徒は喜ぶでしょう!」 「先生、元はいらないですよ; 人気ヒーローでお願いします」 そう言う虎徹に対して、マッシーニは完全にスルーしており、虎徹の身体も放す気はないようだった。 「…………あの。折紙先輩」 「? どっ、どうかしましたか、バーナビーさん?」 そんな虎徹の様子を遠巻きに眺めながらバーナビーはイワンに話しかけた。 それにイワンは驚いたようにバーナビーを見て答える。 他のヒーローから話しかけられてそれに反応するバーナビーの姿は何度かは見たことはあるが、彼からタイガーさん以外で話しかけていることがあまりなかったからだ。 そんなイワンの様子に少し戸惑いつつも、バーナビーは言葉を続ける。 「あの……折紙先輩はよく……あの人とトレーニングしているんですか?」 あの日、取材が一通り終わり、会社に戻ったバーナビーは、そこに虎徹の姿がないことに気が付いた。 上司であるロイズにそのことを聞いたところ、トレーニングセンターに行ったとのこと。 正直、それを聞いたバーナビーは驚いた。 あの人は、トレーニングが好きな方ではない。 寧ろ、怠けている方なのだ。 そんな彼が一人でトレーニングセンターに行ったということに疑問を感じたバーナビーは、その足でトレーニングセンターへと向かった。 ――――…………あっ、そうだ! 折紙、この後暇か? よかったら、俺と手合わせでもしないか? ――――えっ? ぼっ、僕とタイガーさんとですか!? そして、トレーニングセンターに入ろうとしたとその時、あの声が、あの人と折紙先輩をトレーニングに誘う声が聞こえてきた。 その言葉を聞いた瞬間、バーナビーはその場から動けなくなった。 ――――頼むよ、折紙~! このまま俺一人でトレーニング続けてもあれだし……な? ――――ぼっ、僕なんかでよかったら、よろしくお願いしますっ!! その二人の会話を聞いたバーナビーはトレーニングセンターの中に入ることなく、その場から逃げるように立ち去ってしまった。 もし、あれがスカイハイ、ブルーローズ、そして、ロックバイソンであったのなら、何の迷いもなく中へと入っていたかもしれない。 でも、あの時はそれができなかった。 何故かわからないけど、怒りというより悔しいという気持ちになってしまったからだった。 折紙先輩があの人にトレーニングに誘われたということに……。 そして、今日も……。 「えっ? 僕とタイガーさんとですか? この前、たまたまトレーニングセンターで会った時に誘ってもらったくらいですけど?」 「そうですか。あの人が強引に誘って先輩に迷惑を掛けていないかと思いまして……」 「迷惑なんて、とんでもないです!」 バーナビーの言葉にイワンはそれを否定するかのように首を振って答える。 「……寧ろ、嬉しいです。……こんな僕なんかの為にタイガーさんが、時間を割いてくれることが……」 「…………」 その本当に嬉しそうな表情を浮かべるイワンに対してバーナビーは、返す言葉が見つからなかった。 ただ、確かなことは、自分の中で何かモヤモヤした気持ちが拡がっていくことだけだった。 「おーい。お前ら、そろそろ時間だから、着替えろってよ」 「あっ、はい。わかりました!」 その原因でもある人物からその声を掛けられ、それに対してイワンは素直にそう言うとヒーロースーツを脱ぎ始めて着替え出す。 「……なっ、何、バニーちゃん。怖い顔して、怒ってるの?」 「別に。怒ってませんよ。貴方もさっさと着替えてください」 (やっぱ、怒ってんじゃんかよっ!!) それに対してバーナビーは明らかに不機嫌そうな表情を浮かべているのに気付いた虎徹がバーナビーに近づいてそう訊くが、バーナビーは虎徹に視線を合わせることなくそう言った。 そして、虎徹から距離を取るとさっさと着替え出す。 そのバーナビーの態度に若干納得いかない虎徹だったが、講義を始める為、自分も着替え始めるのだった。 神様シリーズ第4章第3話でした!! 今回は、ヒーローアカデミーの控室でのやり取りとなります。 虎徹さんと折紙先輩との絡みはやっぱりほのぼのしていて好きだなぁ。 はい。お気づきになった方もいたかもしれませんが、あの時トキが感じ取っていた人の気配の正体は、バニーちゃんでした! 次回は、虎徹さんの講義やイワンとの絡みがほぼメインとなります! 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