「もう! なんで、タイガーが結婚してたこと、教えてくれなかったのよ!!」 そうアントニオに対して声を上げたのは、他でもないカリーナだった。 漸く正気を取り戻したカリーナは、キース達と共にトレーニングセンターの後片付けをしているところだ。 そこに虎徹とバーナビー、そして、パオリンの姿はない。 「なっ、何でって言われてもなぁ……; 別に今まで聞かれなかったろ……; それに、そんなに重要な事でもないだろう?」 「これ、すっごく重要な事に決まってるじゃない!」 そんなカリーナの様子に少し困惑しつつもアントニオは、そう答えると更にカリーナは、声を上げた。 この話が重要でない筈がない。 この話を聞かされるまでは、カリーナは、ずっとタイガーは独身だと思い込んでいたのだ。 あんなヒーロー馬鹿と結婚できる人物などいる筈がないと……。 だが、実際に蓋を開けてみれば、タイガーは結婚していて、しかも、子供までいるのだ。 こんな事を聞かされたら、うかうかしている場合ではないと改めて自覚する。 「まぁまぁ、いいじゃないのよ。今は、フリーだって事は、わかったんだし」 「まぁ、それは……そうなんだけど……」 それを見兼ねたネイサンがそう言って仲裁に入った。 その言葉にカリーナは、少しだけ落ち着きを取り戻した。 そうだ。タイガーは、今は独身なのだ。 なら、まだ、チャンスはいくらでもある。 「……けど、今回は、あの子に美味しいとこ、全部持って行かれちゃったわね;」 「えっ? あの子って……?」 「ドラゴンキッドよ」 「それって……どういうことですか?」 そのネイサンの言葉に意味がわからず、カリーナやイワンは、首を傾げた。 「だって、これ、よくよく考えたら、サム君に気に入られてたら、タイガーと一緒にあの子の子守りが出来たかもって事じゃない? あのハンサムさえ、上手く退ければ、それも二人っきりで」 「そうだとも……。だから、私も……頑張ってみたのに……」 「!!」 ネイサンとキースのその言葉にカリーナは、事の重大さに漸く気付かされた。 今、ここにタイガーとバーナビー、そして、パオリンの姿がないのは、市長夫妻の息子サムの子守りをする為にバーナビーの自宅に向かったからだった。 私がタイガーの結婚事情を聴いて放心状態になっていた間にそう決まってしまっていた。 もし、私があの時、放心状態に陥っていなかったら、私がサムの事をあやして、気に入られていたかもしれないのに……。 そして、タイガーと二人で子守りが出来たかもと考えると、私は何て勿体ないことをしてしまったのだろうと……。 もし、時間が巻き戻せるなら、絶対にサムの事をあやしにいくのに……。 (……何て……。そんなこと、出来るわけないわよね……) そう諦めたカリーナは、黙々と散らかったトレーニングセンターの後片付けに取り組むのだった。 ~神様ゲーム~ 「……悪いなぁ、面倒な事に付き合わせちまって」 「別に仕方ないよ。ボクかタイガーが傍にいないとすぐにこの子泣き出すし」 ここは、バーナビーの自宅。 その段差のある床に座って寝ているサムを抱っこしているパオリンに虎徹がそう言うと、パオリンは仕方なさそうにそう言葉を返した。 あれからいくらか試した結果、やはり、サムは、虎徹かパオリンのどちらかが抱っこしていれば、ほぼ泣き出す事はなかった。 その為、あの時と同じようにパオリンにサムの子守りを手伝ってもらう事を虎徹は頼んだのだった。 その頼みにパオリンは嫌がることもなく、すんなりと承諾してくれた事に少し驚いたものの、虎徹は素直に感謝した。 そして、もう一つ、虎徹には嬉しい事があった。 それは……。 「バニーもありがとうな!」 「別に……。一応、僕は、おじさんとは、コンビですから……」 虎徹が笑みを浮かべてそう言ったのに対して、バーナビーは素っ気なく返事をした。 虎徹は、自宅にサムを連れて行きたくなかった為、バーナビーに断られるとは思いつつも、バーナビーの家に行けないかを頼み込んだ。 だが、こちらも何故かあっさりと承諾してくれた事に虎徹は、驚いたのだった。 前の時は、半ば強引にバニーの家に行ったのにだ。 バニーの家の中は、あの時と同じくだだっ広い部屋にポツンとテーブルがあり、その上にはパソコンと写真立て、そして、ブリキのロボットのおもちゃが置いてあるのが見えた。 物が少ないこの部屋は、何度来ても殺風景に感じてしまうが、ここでバニーと酒を飲むのは、好きだった。 「本当に助かったよ! おかげで、うちの物、壊されずに済んだし♪」 「…………もしかして、それが理由で僕の家に?」 「あ゛っ; いや……半分はな;」 虎徹が自宅に来た本当の理由を察したのか、バーナビーは怪訝そうに虎徹を見つめた。 それに対して、虎徹は、苦笑いを浮かべるしかなかった。 「えっ……え~っと……。うち、今、めっちゃ散らかっててさぁ……。あいつらが、うちに遊びに来るまでには、片付けないとは、思ってたんだけどなぁ;」 「? ……あいつらって誰のこと?」 「誰って……? 折紙とブルーローズだけど?」 「「!!」」 虎徹の言葉に不思議そうに首を傾げたパオリンがそう虎徹に問いかけた。 それに対して、虎徹も少し不思議そうに答えると、バーナビーとパオリンは、驚きの表情を浮かべた。 「え~~っ!? なんで!?」 「いっ、いやさぁ、この前の事件の前に折紙の奴が俺のカード買えなかったって聞いたから、『そんなに欲しいなら、うちに来るか?』って誘ったら、ブルーローズも来たいって言われてさぁ……」 「!!」 「え~~っ! ボク、そんな話、知らなかったよ!!」 「あー……。あん時、確かバニーもお前もトレーニングセンターにはいなかったかなぁ?」 大声を上げるパオリンに対して、虎徹は若干その声で寝ているサムが起きないか冷や冷やしつつ、そう答えた。 そして、何故だかわからないが、バーナビーはその話を聞いても固まったままだった。 「ふ~ん。……あっ! じゃぁ、ボクもタイガーの家に遊びに行ってもいい?」 「えっ? あー……。別にいいけ――」 「では、僕もお邪魔してもいいですか?」 「へぇっ!?」 そして、突然のバーナビーの言葉に虎徹は、思わず間の抜けた声を上げてしまった。 その反応にバーナビーは、眉を顰めた。 「何ですか、その反応は?」 「いっ、いや、だって! バニーもうちに来るのかよ!?」 「折紙先輩達は良くて、僕が貴方に家に行くのは、ダメなんですか?」 「いっ、いや……そう……じゃないけど……;」 バニーが俺の家に来るのは、決して嫌じゃない。 寧ろ、嬉しいくらいで、トキに手伝ってもらってでも部屋を片付けなければという想いになるくらいだった。 けど、それをどう表現したら今のバニーにうまく伝わるのかがわからず、言葉が上手く出てこない。 「だったら何なんですか! 嫌なら、そうはっきり言ってくださいっ!!」 「! ……うえええぇぇぇ!!」 「「「!!」」」 そんな虎徹の気持ちなど知らないバーナビーは、苛立ちから思わず大声をそう言ってしまった。 その声に驚いたサムは、目を覚ますと大声で泣き出し、NEXT能力が発動する。 その途端、テーブルの上にあったブリキのロボットやパソコン、テレビのリモコン、そして、写真立てが宙を舞った。 「こら、バニー! 赤ちゃんの前でそんな大声出すなよ! ……あぁ、ごめんなぁ。もう、怖くねぇからなぁ」 サムのその様子を見た虎徹は、バーナビーにそう言うとすぐさまサムの許へと近づき、優しくあやしだした。 虎徹があやすと、サムはすぐにご機嫌が戻り、泣き止んだ。 それと同時にNEXT能力も解除され、浮遊していたものが次々と落下していく。 パソコンやリモコンは、テーブルの上に落ち、それに続くかのようにブリキのロボットも落下する。 それにいち早く反応したバーナビーだったが、ブリキのロボットとの距離があの時より若干遠かったのか、キャッチし損ねてしまった。 「どりゃぁ!!」 「!!」 だが、ブリキのロボットが床に落ちる事はなかった。 バーナビーの行動を見ていた虎徹が素早く動き、キャッチしたのだ。 だが、飛び込んだ勢いが強すぎたせいか、虎徹は床の段差がある部分に思いっきり頭をぶつけてしまう。 それも、かなり鈍い音がしたのをバーナビーとパオリンは聞いていた。 「いってぇ……」 「タイガー! 大丈夫!?」 「おっ、おう……。ちょっと、頭ぶつけただけだよ!」 「けど……」 「大丈夫だって! それより……ほらよ」 心配そうなパオリンを余所に虎徹は、バーナビーにブリキのロボットを手渡した。 虎徹が見事にキャッチしたおかげもあって、それはどこも壊れていなかった。 「よかったな! どこも壊れてなくて!」 「……どうしてですか?」 笑みを浮かべてそう言った虎徹に対して、バーナビーは静かな口調で言葉を紡いだ。 バーナビーには、虎徹の取った行動が理解できなかったから。 「なんで、貴方がそこまでしてこれを取ってくれたんですか?」 「なんでって……; それ、壊されたくなかったんだろ? 落下した時、パソコンとかに目もくれずにそれだけに反応してたからさぁ」 「!!」 バーナビーの問いに少し困ったような表情を浮かべつつも、そうあっさりと言った虎徹の言葉にバーナビーは、心底驚いた。 この男は、一体何処まで人の動きを観察しているのだろうか……。 「えっ? そうだったの? なんか、イメージと違う!!」 「だよなぁ! バニーは案外、お子ちゃまなんだよ♪」 「…………これは……親からもらった物なんです」 二人の言葉のやり取りにパオリンが驚いたようにそう言ったので、それに虎徹も同意してやる。 すると、バーナビーは、虎徹から手渡されたブリキのロボットをジッと見つめながら答える。 その意外な答えにパオリンは、目を丸くして驚く。 「これは……僕が四歳の誕生日の時にプレゼントされた物なんです」 「そうだったんだ……」 「…………」 バーナビーのその言葉を聞いた虎徹は、何も言うことなくただ静かに聞いていた。 そう。これは、まだ幼いバニーが両親からもらった大切な物だ。 それを知っていたからこそ、バニーがキャッチし損ねたあの時、咄嗟に身体が動いてしまっていた。 本当に壊れなくてよかったと思っている。 あれには、バニーの大切な両親との思い出も詰まっているのだから……。 それも含めて守れたのなら、多少の頭の痛みなど、虎徹にはどうって事なかった。 「……だぁだ!」 「ん? ……なんか、それ、欲しがってるみたいだぞ?」 「う゛っ……;」 すると、ブリキのロボットを見たサムは、バーナビーへと手を伸ばし、笑顔であの時と同じように両手をばたつかせ始めた。 それを見た虎徹は、少し申し訳なさそうにバーナビーにそう言うと、バーナビーは顔を引き攣らせた。 だが、どこか諦めたかのように溜め息をつくとサムへと近づき、手にしていたブリキのロボットを渡してやった。 その途端、サムは嬉しそうな表情を見せた。 「だぁだ!」 「大事に扱ってくださいよ」 「赤ちゃんに言うなよ; …………ん?」 バーナビーの言葉に虎徹は少し呆れたが、その瞬間、サムの帽子のデザインが目に留まり、思わず笑みを浮かべてしまう。 サムの帽子には、黄色いマリーゴールドがデザインされていたから……。 「この花は、ママのセレクトかなぁ? 可愛いねぇ♪」 「え~~っ、そぉ?」 そう言った虎徹の言葉に対して、パオリンは怪訝そうに眉を顰めた。 「お前もこういうの似合うんじゃねぇか?」 「絶対ヤダ!!」 「いやいや。絶対に可愛いって!」 それだけは虎徹にも断言できた。 彼女の親からプレゼントされたという紫苑の花の髪飾りを実際に着けたところを虎徹は見たことがあるからだ。 それを正直に似合っていると褒めた時に見せた嬉しそうな彼女の表情もよく憶えている。 「……別に、可愛いなんて、思われたくないもん!」 だが、この時のパオリンは、それに対して異常なまでに拒否反応を示していた事を虎徹は、彼女のこの言葉で聞いて漸く思い出した。 「親からこういうのもらったけど、全然嬉しくないし……」 「あのなぁ……; 親がどんな気持ちでプレゼントしてるかわかってんのか? 遠く離れてるお前の為を思ってだなぁ……」 「全然、ボクの気持ちわかってないよ!」 ――――わかってないのは、お父さんの方でしょ! 大っ嫌い、お父さんなんか!! 「!!」 だからだろうか。 虎徹が、いくらそう言ってもパオリンの気持ちが頑ななのは……。 そして、そのパオリンの姿が、ふと楓の姿と重なって、虎徹の胸が締め付けられるような思いを感じてしまったのは……。 「……まぁまぁ、この人の言う事も一理あります。親からもらった物は、大事にした方がいいですよ?」 そんな二人のやり取りを見て、バーナビーはパオリンに諭すようにそう言いながら、さり気なくブリキのロボットをサムから取り上げた。 その大人げないバーナビーの行動を見て、虎徹はクスリと笑ってしまい、少しだけ心が軽くなった気がした。 「……ったく、バニーちゃんは大人げねぇな; ……んじゃぁ、そろそろ飯の準備するから、こっちは頼むな」 「……はーい」 「…………」 そう言いながら虎徹は、まだズキズキと痛む頭を擦りながら、ゆっくりと立ち上がるとサムや自分達の夕飯の準備をするべく、キッチンへと向かった。 そんな虎徹の言葉にパオリンは、生返事を返す。 だが、バーナビーはそんな虎徹に対して何か言いたげな表情を浮かべつつも、何も言葉を発することなくそれを見送るのだった。 神様シリーズ第4章第16話でした!! 今回は、虎徹さんたちがトレセンを去った後のやり取りとバニーちゃんの家に来た直後のお話を書きました。 虎徹さんたちがトレセンでこんな話をしてたら面白いだろうなぁ、と思って書いてみましたwww そして、口の軽い虎徹さんのせいで、折紙先輩とブルーローズの計画が台無しにwww 虎徹さん、めっちゃ頭ぶつけてますけど、本当に大丈夫だろうか; R.3 10/31 次へ |