――――ビリビリするから、パオリンとは遊びたくない! ずっと友達だと思っていたクラスメイトの子たちからそう言われ、拒絶されたことをボクは今でもよく覚えている。 当時のボクは、NEXT能力が発現したばかりで自分の身体から放出される電流をうまくコントロールすることが出来なかった。 だから、よく油断して誰かに触ってしまうと誤って感電させてしまう事もあった。 クラスメイトの子たちから距離を取られたことで次第にボクの教室での居場所はなくなり、孤立していった。 こんなことになるくらいだったら、NEXTなんかになりたくなかった、と毎日泣いて家に帰っては部屋に籠るようになっていった。 けど、そんなボクの運命を変えたのは、たまたま家にあった一冊の雑誌との出会いだった。 その雑誌の名前は、『マンスリーヒーロー』。 遠く離れた異国の地にある都市――シュテルンビルトで活躍するヒーローたちの事を特集した雑誌だった。 ヒーローと呼ばれる彼らは、ボクと同じNEXTであることを知った時は、凄く驚いた。 『マンスリーヒーロー』には、様々なヒーローが紹介されていたが、その中でもボクの目に留まったのは、≪正義の壊し屋≫ワイルドタイガーこと、タイガーだった。 ~神様ゲーム~ 『マンスリーヒーロー』に乗っていたタイガーは、本当にカッコよかった。 誰かを助ける為だったら、豪快に建物を壊すことだって躊躇しないタイガー。 タイガーのNEXT能力は、パワー系のもので、使い方を誤れば、諸刃の剣であり、その点においてはボクのNEXT能力にも通じるものがあったから引かれたのかもしれない。 けど、ボクとタイガーでは、大きな違いがあった。 それは、NEXT能力という意味じゃない。 タイガーは、その力を使うことを全然恐れていなかった。 NEXT能力を使うことで誰かの命を救えるなら、何も怖いことなどないと、そうタイガーはコメントしていた。 その言葉は、この時のボクが抱いていたものとは真逆だった。 NEXT能力をコントロールできなかったボクは、この力を使うことを何よりも恐れていた。 使えば間違いなく誰かを傷付けてしまう、そうずっと思い込んで過ごしてきた。 だから、クラスメイトもボクから離れていった。 でも、タイガーのこの言葉を見てその考えが間違っていることに気付かされた。 使うことを恐れていたら、いつまで経ってもこの力をコントロールすることなんてできないんだ。 変わりたい。この力を正しく使えるようになりたい。 タイガーのように、強くなりたい……。 そう思う様になってからのボクの行動は早かった。 学校が終わったら、真っ先に家へと帰り、独りでNEXT能力をうまくコントロールできるようにトレーニングを開始した。 それに加えて、もともと遊び感覚でしかやってこなったカンフーについても真面目に取り組むようになり、動きに磨きをかけた。 やると決めたからには徹底的にやった。 だからだろうか。どちらもメキメキと上達していったので、楽しんで取り組めた。 そして、あの日、ナターシャがボクの家までやって来て「ヒーローをやってみない?」と言ってもらえた時は、本当に嬉しかった。 ボクの力が認められたこと。 そして、ずっと憧れていたあの街に行けることが……。 けど…………。 ――――英才教育した甲斐があったアルよ! ――――あぁ、我が家の……ううん、この国の誇りアルよ! ――――…………。 CAや乗客たちが行き交う空港のロビーで旅立つボクに声を震わせてそう言った二人の言葉にボクは、あの時は心の底から喜ぶことがあの時はできなかった。 ボクが学校から泣いて帰ってもマーマは、決して慰めてはくれなかった。 バーバも特に何もしてくれなかった。 NEXTだったボクを本当に二人は、大切に想ってくれていたのかなぁ? ボクが仮にもし、ヒーローにならなかったとしたら、二人はボクのことをを今と同じ言葉をかけてくれたかなぁ? 何より、そんなことばかり考えてしまっているボク自信が一番キライになりそうだった。 ――――パオリン……。コレ、付けて人気者ヒーロー目指すアルよ! ――――あっ……うん……。 そんな考えが頭の片隅にあるせいかもしれない。 ナターシャからどんなに勧められても、マーマがボクに渡してくれた小箱の中に入っているものを付けたいと思わないのは……。 あの可愛らしく、いかにも女の子っぽい紫苑の花の髪飾りを……。 ボクに女の子らしさなんていらいないのに……。 もっと、強いヒーローにならなくちゃ……。 タイガーのようなヒーローに……。 だから、ボクからあの小箱を開けることは、きっとずっと来ないとそう思っていたんだ。 『どうだい? 私が開発したカプセルの寝心地は?』 「快調快調! …………う゛っ;」 アポロンメディアのメカニック室にある二つのカプセルの扉が音を立てて開く。 手前のカプセルからは虎徹、奥のカプセルからはバーナビーがそれぞれ入っていた。 虎徹の身体には包帯が巻かれていて、のっそりとカプセルから起き出した。 カプセルから出た二人に対してそう斎藤がマイクで呼びかけたので、虎徹はそれに肩を回して答える。 だが、シャツを着ようとしたその時、肩を回した行為が良くなかったのか右肩がチクリと痛み、思わず呻き声を上げてしまう。 「……まだ、痛みますか?」 「平気だよ」 「…………」 そう背後から声を掛けるバーナビーに対して、虎徹は笑ってそう答えたが、それでもバーナビーは心配そうにこちらを見つめていた。 いや。俺がバニーを庇って怪我させてしまった事を後悔していると、言った方がいいかもしれない表情だった。 「……顔面手形野郎の攻撃なんか、大したことねぇんだよ」 『というか、カプセルのおかげだよ。私が開発した』 そう言いながら虎徹は、斎藤の言葉を聞き流しながら着替えを済ませると、ネクタイをキュッとしめた。 「……貴方の体力だけは、脱帽します」 「だけってなんだよ? 本当、お前は、一言余計だなぁ;」 『だから! 私が開発した……』 虎徹は、溜息をつきつつ、ベストのボタンを留めていると、尚も斎藤が喋ろうとした。 だが、その時、虎徹のPDAが鳴った。 何故、俺のだけ?と、疑問を感じつつも、PDAを操作するとここから現れたのは、アニエスの姿だった。 この瞬間、虎徹には、嫌な予感しかしなかった。 『タイガー、緊急事態よ。すぐにトレーニングセンターに来て!』 「なんだよ? 子守りだったら、俺は行かねぇぞ」 『!!』 何気なくそう言った虎徹の言葉を聞いたアニエスは、心底驚いたような表情を浮かべた。 「ん? 図星だったのか?」 『うっ、うるさいわねぇ! とにかく、今すぐにトレーニングセンターに来なさい! いいわね!!』 それを見た虎徹は悪戯っぽく笑ってそう言うと、アニエスは微かに頬を赤らめる。 そして、勢いよくそう言い放つと、一方的に回線を切ってしまった。 「ん? アニエスの奴、なーに、怒ってんだ? ……仕方ねぇから行くか、バニー」 「何で、僕まで……」 「いいじゃんかよ。どうせ、この後トレーニングしに行く予定だったんだし♪」 「はいはい……」 若干迷惑そうなバーナビーを引き連れて、虎徹はトレーニングセンターへと向かう。 この件については、どうしてもバニーを巻き込む必要があった。 この後に待ち受ける事件が、マーベリックが弄ったバニーの記憶に綻びを生じさせる事を俺は知っていたから……。 そして、何より、俺の家の物を壊されたくないからだ。 ――――つーか、そっちが本音だろ? お前? と言う、トキの言葉を俺は一切無視して、トレーニングセンターに向かった。 神様シリーズ第4章第14話でした!! 前半はパオリンちゃんの過去話、後半はトレセンに行くまでのバディのお話を書かせていただきました。 公式でもパオリンちゃんは、シュテルンビルトに来る前に友達がそんなにいないという事をチラッと聞いた気がしたので、少し想像しながら書きました。 カルテ事件後にバニーちゃんは、ちゃんと虎徹さんに怪我の事を言えたみたいですね! トキに図星をつかれて無視する虎徹さんが面白過ぎましたwww最後にちゃっかりオチを付けてしまい、申し訳ないですwww 次回は、トレセンで赤ん坊サム相手にヒーローたちがあたふたします! R.3 10/31 次へ |