『お待たせしました! これより、ヒーローTV特番……ファンミーティングの会場から生中継でお送りします!!』

外の方からマリオがアナウンスする声と観客の歓声がバーナビーの耳に届く。
本来だったら、僕もあの会場に今頃立っていた筈なのに……。
そう考えながらバーナビーは、溜め息をついた。
このまま、ずっとこうしているわけにもいかない。

「……気に入らないかもしれませんが、元はと言えば貴方のせいなんですからね。犯人を知っているのに、黙っているなんて」
「…………」

バーナビーが説得するようにトイレの扉に向かって話しかけてもその相手は無口のまま答えなかった。
まったく、この人はどこまで頑固なんだ……。

「聞いてます?」

それに少し腹が立ちつつもバーナビーは、再び声をかけたがそれにも反応がなかった。
流石におかしいと感じたバーナビーは、トイレの扉に手を掛けた。
そして、その扉を開き、トイレの中へと入る。

「……おじさん?」
「…………」

あの男は、どうやら個室トイレに籠っているらしく、個室トイレの扉が一つだけ閉まっていた。
そこに向かってバーナビーは、呼びかけるが相変わらず反応は返ってこない。
バーナビーは、そのドアの隙間から中を覗き込んだ。
そして、そこから見えた光景はあり得ないものだった。
そこにいる筈のあの男の姿は、何処にもなかったからだった。






~神様ゲーム~








「はぁ……はぁ……」

ハンドレッドパワーとクロノスの力を駆使して見事にトイレの密室から何も壊すことなく脱出した虎徹だったが、建物の屋上へとやってきたところで、能力切れとなった。
その瞬間、虎徹は激しい頭痛に襲われ、その場に膝をついた。
いつも来る痛みからある程度は想定していたつもりではいたが、これはそれ以上にきつい。
けど、いつまでもこうしているわけにはいかねぇ。
早く、カルテをあの倉庫へと誘き出さねぇと……。

『馬鹿! 無理して身体を動かすなっ!!』

そんな身体に鞭を打って足を動かそうしても膝から崩れ落ちそうになる。
だが、それを誰かが力強く虎徹の腕を掴んで引き寄せる。
その途端、虎徹は何だか暖かい光に包まれたような気がした。
いや、それは決して気のせいではなかった。
虎徹を優しく包んだ光は、不思議と虎徹の身体を楽にした。
その光が現れる方向へと虎徹が視線を向けると、そこにはこっちを心配そうに見つめる藍色と金色のオッドアイだった。

「…………トキ。お前……?」
『安心しろ。私は、あくまでもお前の体力を回復させたまでだ。……その傷までは、治していない』
「えっ? ……いててて!」

クロノスの言葉に虎徹は、慌てて右肩を触ると確かに痛みを感じた。

『だから! そこは治してないといてるだろ! そんなに思いっ切り触る奴があるか!!』
「だっ、だって、つい……;」

先ほどまで感じていた頭痛や倦怠感が嘘のように無くなったのだ。
だから、つい触らずにはいられなかった。
だが、トキの言う通り、少し触る際の加減は調整すべきだったと反省はする。

「……けど、何でだよ?」

何で、トキは俺の事を助けてくれたんだ?
これは、俺が勝手にやった事なのに……。
こうなる事は、自業自得だった筈なのに……。

『お前に止められたのは、お前が力を使う事を邪魔する事だけだ。その後の事は、お前は何も言わなかった。……と言うか、使った後の事、何も考えていなかっただろう?』
「そっ、それは……そうだけど……;」
『これは、私なりのけじめだ』

クロノスの言葉を聞いても困惑の表情を浮かべる虎徹に対して、そうクロノスは静かに言葉を続ける。

『……私は、お前の記憶を弄った事については、決して間違った行動だとは思っていない。だが……お前にこんな無茶な力の使い方をさせてしまった事には…………後悔している』
「!!」

そのクロノスの言葉に虎徹は、瞠目した。

(あぁ、そっか……)

少しだけ、トキが言った事の意味がわかったような気がした。

「…………俺もさぁ……今日、変な夢、見ちまったんだよ」
「…………」

虎徹がそう話し始めてもクロノスは、ただ黙って聞いている。
その夢は、いつも見る夢とは、違っていた。
アンドロイドが暴走するあの夢ではなかった。

「…………楓がさぁ……バニー達に復讐しようとする夢だった。……俺の事を……殺した……バニー達を……」
――――どうして、お父さんの事、信じてくれなかったの! ……お父さんは、バニー達の事、最期まで信じていたのにっ!! 絶対に私は……許さないっ!!

バニーの事が好きだと言って目を輝かせていたあの楓の姿は何処にもなく、バニー達に憎悪の目を向けていた。
違うんだ、楓……。バニー達は、何も悪くないんだ……。
悪いのは、記憶を操ったマーベリックなんだ。
必死にそう楓に呼びかけても、俺の声は楓には聞こえていないらしく、何処かで見たあの青い炎を操り、それをバニー達に向かって放った夢だった。

「そんな夢、見ちまったせいかなぁ? 今回の事件の事を思い出しちまったら、頭がいっぱいいっぱいになっちまってたわ……」

その夢の楓と今回の事件の犯人であるカルテの娘――ラーニョが重なって見えてしまった。
俺なんかの為に罪を犯して欲しくないと心から思った。
そして、トキに腹が立ったのも同じ理由だった。
マーベリックと同じように記憶を弄った事が許せなかったから……。
でも、それは違ってた。
俺もトキも同じだった。
お互い見た夢に影響されて動いた結果、こうなってしまったんだ。

『…………虎徹。お前――』
「んじゃ、この話はこれで終わりだ! もう怒ってねぇけど、次同じ事やったら承知しねぇからな!」
『あ、あぁ……だが――』
「大丈夫だよ。ちゃんと治ってもらった分については、チャーハン作ってやるからさぁ」
『いや、そういう事をではなく――』

明らかに虎徹の話を聞いてからトキは、困惑した表情を浮かべている。
それは、俺がトキに初めて夢の話をしたからかもしれない。

「だあっ! だから、この話はもう終わりだって言ってるだろ!! 今は、カルテを誘き出す方が先だ!! 邪魔すんなよ!!」
『おっ、おい! 虎徹!!』

何か言いたげなクロノスに対して虎徹は、そう言って話を切り上げるとワイヤーを伸ばして、カルテを誘き出すべく行動を開始した。
これ以上、トキと話をしている時間が惜しかった事もあるが、これ以上トキとこの話をするのが正直怖かった。
それが、何故なのかはよくわからなかったが……。
けど、この時トキからちゃんと話を聞いていれば、また違った行動が起こせたかもしれなかったのに……。





















「……もう、今夜で終わりにしよう」

必要最小限の損害だけで虎徹は、何とか例の倉庫まで辿り着くとそう言い放った。
その背後には、カルテの姿があった。

「カルテ。十年前のケリをつけるぞ」
「…………」

そんな虎徹の言葉に対してカルテは、無言のままNEXT能力を発動させ、カードを虎徹目掛けて投げつける事でそれに応えた。

「どわあっ!! 相変わらず、容赦ねぇな!!」

カルテの攻撃を避けながら、虎徹は倉庫の上へと目指そうとワイヤーを伸ばす。
だが、その行為は虎徹の右肩に酷使させる事に繋がった。

「つっ……! だあっ!!」

ズキンッと走った右肩の痛みに気を取られた虎徹は、それによりワイヤーの操作を誤り、倉庫の屋根から落下した。

『虎徹! 大丈夫かっ!?』
「あっ……あぁ……。何とかなぁ; あんがとな!」

その瞬間、何処からともなく現れたクロノスに虎徹は抱きかかえられ、ゆっくりと高く積み上げられた荷物の上に降ろされた。
そのおかげで今回は身体の何処も傷めずに済んだ。
そして、何よりあの時と同じようにこの倉庫の中に設置されているスプリンクラーの近くに行けたのだ。
今、カルテの攻撃を無効化に出来る唯一の方法であるスプリンクラーに……。
だから、虎徹は素直にクロノスにお礼を言った。

「……! トキ! 悪いけど、今すぐ隠れろ!!」
『仕方ない……か。無理はするなよ』

次にの瞬間、虎徹の耳に飛び込んできたのは、一つの足音だった。
それを聞いた虎徹は、そうクロノスに言うとクロノスもそれに仕方なくその言葉に応じて姿を晦ました。
カルテが倉庫内に姿を現したのは、それとほぼ同時だった。
何とか、トキの姿を見られずに済んだと、内心ホッとしつつ虎徹は、カルテの方へと向き直した。

「もう隠れんぼは、止めだ。止め。……随分、老け込んだなぁ、カルテ」
「…………」

そう言いながら両手を上げた虎徹に対して、カルテは無言のままカードを取り出し、NEXT能力を用いてカードを発火させる。

「……お喋りは、したくないか」

それに対して虎徹が残念そうにそう言った途端、カルテは虎徹目掛けてカードを放った。
カルテの手から離れたカードは爆発し、虎徹に襲い掛かる。

「おじさん……!!」

そして、その直後、遠くの方から何処か慌てたようなバニーの声が聞こえた。
ある程度ここまでの軌跡は、ちゃんと残して移動してきたつもりではいたが、それを頼りにちゃんとここまで辿り着いたバニーは、流石だと虎徹は思った。
しかも、現れるタイミングも完璧だった。
爆発を目撃し、慌ててバニーはNEXT能力を発動させたが、虎徹は何一つ動じることはなかった。
倉庫に設置されていたスプリンクラーは、あの時同じように正常に作動した。
それにより、辺りは水浸しになり、爆炎も無事に鎮火された。

「……スプリンクラー!?」
「マネキン工場のみたいに壊れてなくて助かったわ。……これで、お得意のカードも全部水浸しだな」

驚くバーナビーに対して虎徹はそう言うと荷物の上から飛び降りた。
そして、水浸しになったおかげでカルテを操っていた糸を目視することもできるようになっていた。

「…………よし、見えた! バニー! "糸"だ! 糸を辿れ!!」
「糸? ……! これか!!」

虎徹の言葉にバーナビーもすぐに糸の存在に気付き、その糸の先を辿りだす。
そして、その先で一つの人影を捉えた。

「止まれ!!」
「!?」

バーナビーは、すぐさまその人影へと駆け寄り、手を伸ばした。
その手は、人影――ラーニョの左腕を見事に掴むことに成功する。
そして、その瞬間、カルテの動きは止まり、その場に倒れ込んで漸くラーニョから解放されるのだった。

「離せよ! ワイルドタイガー! てめぇ!!」
「大人しくしてください」

今にも虎徹に飛びかかっていきそうなラーニョをバーナビーが彼女の左腕をしっかり掴んでそれを阻止する。
そんな光景を見て、虎徹は少し哀しそうな表情を浮かべた。

「…………でっかくなったなぁ。お前が父ちゃんを操ってたんだろ?」
「! ……カルテの娘!?」

虎徹のその言葉を聞いたバーナビーは、漸く彼女の正体を知り、ただただ驚く事しかできなかったのだった。
























神様シリーズ第4章第12話でした!!
なんだかんだ言って助けてくれるのがトキのいい所だったりします。
そして、それを許す虎徹さんも素敵ですよね♪
ちょっと、虎徹さんの夢の話は重いものになってしまいました。
楓ちゃんが闇落ちしないようにしたいですねぇ。。。


R.3 4/12



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