「この僕を騙せるとでも? 急に襲われたなんてよく言えますよ。アイパッチまで付けて犯人を誘き出しておいて」
「そんなおっかない顔すんなよ;」

そして、現在、こうして虎徹は、以前と同じようにバーナビーに問い詰められていた。
それを何とか誤魔化そうと虎徹は、苦笑しながらそう言った。

「……ネットの情報を見て見当がついたんですよね。犯人が誰なのか」
「…………」
「何故、能力を使わなかったんです? 殴られたのもワザとでしょう」
「!!」
(……本当、そういうことは、よく見てるなぁ)

そのバーナビーの言葉に虎徹は、驚いてしまった。
今回は、なるべく気付かれないように行動していたつもりだったのだが、やっぱりダメだったみたいだ。
やっぱ、マヨネーズのくだりがダメだっただろうか?
けど、実際に家のマヨネーズが切れていたのは事実なので、嘘は言ってはいないつもりなんだけどなぁ……。

「……おじさん」
「…………あぁ。そうだよ」

いくら待っても答えを返さない虎徹に対して再びバーナビーが虎徹の事を呼ぶ。
それに観念したかのように虎徹は、溜め息混じりでそう言った。

「あいつには、俺を一発殴る権利があるんだよ。俺は……奪っちまったからなぁ……」

そして、わざと自嘲めいた笑みを虎徹は浮かべるのだった。






~神様ゲーム~








「…………おい、トキ」

バーナビーとアニエス達が今後の作戦会議をしている中、虎徹は独り、トレーニングルームの外の廊下のソファーに寝そべっていた。
その虎徹の呼びかけにクロノスは、姿を具現化させる。
ハンチング帽子を少しずらしている為、クロノスには今、虎徹がどんな表情をしているのかわからなかった。

「……お前……俺に何したんだよ?」
『何の事だ?』
「とぼけるなよ。もう、わかってるんだ。お前……俺の記憶、弄っただろ?」
『!!』

その虎徹の言葉にクロノスは、瞠目した。
それを見ただけで虎徹は、自分の考えていたことが当たっていることを確信し、息を吐いた。

「……何かおかしいと思ったんだよなぁ。今日の出勤する時、いつも以上に話しかけてくるし、バニーがあのネットの資料を見せてくれるまで、すげぇモヤモヤした感じがして気持ち悪かったし」
『…………だったら、何だ?』
「何でそんな事した? そのせいで、あの火災事故自体を未然に防げなかったじゃねぇか」
『それが理由だと言ったら?』

その静かなクロノスの声に虎徹は、ハンチング帽子をずらしてクロノスの顔を怪訝そうに見つめた。

「……それ、どういう意味だよ?」
『言葉通りの意味だ。お前があの記憶を持ってあの売店の光景を見たら、間違いなくそれを止めに向かっただろう?』
「当たり前だろ! あれがなかったら、カルテの娘に無駄に罪を背負わせる事もなかったかもしれんかっただぞ!」
『お前の命を狙おうと父親を操った時点であの娘の罪は消えない』
「けど!!」
『それに……今日に限って、私は夢を……見た』

苛立ちを隠すこともなく、勢いよくソファーから立ち上がった虎徹に対して、クロノスはあくまで平然とそう話をしだす。

『その夢でのお前は、私の忠告など一切聞かず、独りであの火災現場へと向かっていた。……結果は、お前はあの火災を未然に防ぐことも出来ず、ただ自らの命を危険に晒しただけで、独りで現場にいたお前の事をお前の相棒は酷く問い詰め、更に溝が深まってしまっていた』

だから、未然に防いだ。
虎徹があの火災現場に独りで行かぬよう。
少しの間だけ、その記憶を虎徹から抜き取った。
だから、虎徹がこの事件に関して違和感を感じてしまっても仕方なかった。
あの火災さえ、問題なく起こってしまえば、その後は虎徹に記憶が戻ってもいいように細工もしておいたのだから……。
だが、虎徹は、まだ納得していないようなのか、クロノスの顔を見て首を傾げた。

「……それ、ただの夢だろ? たかが夢でそこまで――」
『今のお前にとっては、たかが夢だが、私にとっては、違うのだよ。虎徹』
「?」
『…………いずれ、お前に嫌でもわかる時が来る。私の力を与えたお前には、な』
「トキ……?」

何だろう……。
トキは、いつもと変わらないようにそう言っているはずなのに……。
何でだ? 何で。お前は、そんな表情を浮かべてるんだよ?
こんな哀しそうなトキの表情をこの時虎徹は、初めて見たような気がした。





















――――……で? これから、どうするつもりだ?

カルテを誘き出す為の囮となり、ファンミーティング会場に移動した虎徹にそうクロノスは問いかけた。
以前同様、この作戦について反対した虎徹だったが、それをアニエスは聞き入れることはなかった。
この作戦は、市民を危険な目に遭わすかもしれないのにだ。
ましてや、ヒーローがヒーローに守られるなんて、御免だった。

――――そう言う割には、お前めっちゃ守られてないか?
(だあっ! うっせぇなぁ!!)

人が気にしている事をわざとそう言ったクロノスに虎徹は、思わず声を出しそうになりつつも、何とか抑えて心の中でそう叫んだ。
そうだよ。
そんなの俺が一番自覚している事だ。
だが、そもそもその原因を作ったのは、トキだという事は、あいつは分かっているのだろうか?
トキの力のせいで、無駄にこっちは狙われているという事に……。
その事は、ひとまず置いといたとしても、前回の経験からして、カルテはまた今夜再び俺の目の前に現れることは、明白なのだ。
だから、今回も何としてでもこの場から抜け出す必要が虎徹にはあった。

――――また、トイレから脱走するのか? あの窓をぶち壊して。
(……トイレから抜け出しはするけど、今回はあの窓を壊すつもりはねぇよ)

前回、トイレの窓を壊して抜け出した結果、その他諸々の賠償金の請求まで支払う事になったのだ。
それを考えると出来るだけあの窓を壊すことなく、なるべくバニーたちに気付かれずに外に出なくてはならないのだ。

「……ちょっと、何処行くのよ!!」
「便所くらい好きに行かせろよ;」

何はともあれ、まずはトイレに辿り着かなければ、意味はない。
そう思いつつ、虎徹は独りトイレに向かうべく、踵を返すと、それにすかさずブルーローズが反応した。
それは、心配しての反応だという事は分かるのだが、敢えて虎徹は、不機嫌そうに溜め息をついてそう答えてさっさとトイレへと入り、勢いよくトイレの入り口のドアを閉めた。
そうすれば、暫く誰も入って来ない事は、前回の事で証明済みだったからだ。

――――……? あの窓を壊さないで一体どうやってここからでるつもりだ? それにこの通気口、どう見ても人が通れるほどの大きさじゃないぞ?
(だったら、方法は一つしかねぇだろ?)
――――一つだと……? まさか、お前!?

虎徹の言葉を聞いたクロノスは驚愕し、思わず姿を現した。

『虎徹! お前、まさか、その身体で私の力を使うつもりなのか!?』
「だあっ! お前、ちょっ、声がデカい!! バニー達に聞こえたらどうするんだよ!!」

それに驚いた虎徹は、慌ててクロノスの口を押さえて、そのまま洋式トイレへと押し込む形で中に入った。

「それに、お前が言ったんだろ? 少しでも力を使って身体を慣らしておけって」
『そっ、それは、そう言ったが、何も今使うことはないだろ!? そんな身体で体力が持つとでも思っているのか!?』
「だからだよ」

そう言った虎徹の声は、とても静かだった。

「……俺が本当にこの力を使いたい時――ジェイクの奴と戦う時は、もっとボロボロの状態だと思うから。今は、そのシミュレーションにもってこいなんだよ」
『だっ、だが――』
「言っとくけど、今回トキにこれを止める資格はねぇからな」

尚も食い下がらないクロノスにそう虎徹は、冷たく言い放った。
クロノスの事を見つめる琥珀の瞳も何処かしら冷たい光を帯びている。

「お前は、俺が本当にやりたかった事を邪魔したんだ。だから……黙って見てろ」
『…………』

虎徹の言葉にクロノスは、何も言い返せなくなった。
勝手に虎徹からこの事件の記憶を抜き取った事には変わりはしないのだ。
だから、虎徹の言う通り、クロノスにこれ以上、虎徹がやろうとしている事を止める資格はないかもしれない。
それは、わかっているのだが、それでもやはり虎徹の身体の事が心配で堪らないのだ。
まだ、己の力を使った経験の少ない虎徹が今、力を使えばどうなるか、目に見えてわかるから……。
わかっているのに、これ以上言葉が出てこない。
また、虎徹は無意識のうちに"言霊"で我を縛っているのかもしれない。

「わかったらなら、少し集中したいから、ちょっと静かにしてろよ?」

それ以上、クロノスの反応がない事に虎徹は、クロノスが折れたと考えてそう言うと被っていた帽子をあの時同様トイレに置くとNEXT能力を発動させる。
そして、そのまま意識を集中させ、クロノスの力を使う。
その瞬間、虎徹の世界は一変する。
目に映る景色から色が消え、モノクロになる。
そして、虎徹が身に着けていた腕時計の秒針が止まっていることを確認した。
何とか、トキの力を使って時間を制止させることに成功したようだ。
虎徹は、洋式トイレを囲む塀をあっさりと飛び越えると、恐る恐る外へと繋がるドアを開けた。
ドアを開けた途端、虎徹の目に飛び込んできたのは、バーナビーの姿だった。
何故、バーナビーがここにいるのかが分からず、虎徹は驚きを隠せなかった。
前回の時も同じように俺がトイレから抜け出した時もこうして待っていたのだろうか?
時間が止まっている事もあり、不機嫌そうな表情を浮かべたまま、バーナビーはビクとも動かない。
綺麗な顔立ちなのに、眉間に皺が寄ってしまっているのが物凄く勿体ないと思ってしまった。
また、いつか、バニーのあの優しい笑みと共に「虎徹さん」と呼んでもらえる日はくるのだろうか……。

(……ごめんな、バニー)

そんなバーナビーに対して少し申し訳ない気持ちになりながらも虎徹は、カルテ達を誘き出す為、ファンミーティングの会場から誰にも気付かれることなく抜け出すのだった。
























神様シリーズ第4章第11話でした!!
はい。皆さんがご想像していた通り(?)、虎徹さんの違和感の正体はクロノスがマベったせいでした!
いつもより、ちょっとだけシリアスなクロノスを書けて満足した私。
そして、そして、今回の虎徹さんは、クロノスの力を使っての脱出に試みてみました。
せっかくの力なんだから、使わないと勿体ないよねwww


R.3 4/12



次へ