(くそっ! 何でなんだよっ!!)

何で、俺は、こんな大事なことを今の今まで忘れていたんだよ。
あんな出来事、そう簡単に忘れるはずない筈なのに……。

「……くそっ! 今、行くから、待ってろよっ!!」

そう言って虎徹は、すぐさまアイパッチを装着すると前回同様、カルテと出くわしたシュテルンメダイユ地区の大通りを目指して走るのだった。






~神様ゲーム~








(よし! 間に合ったぞ!!)

慌ててアポロンメディアのオフィスから走ってきた甲斐もあり、虎徹はあの時よりも少し早く目的地の大通りへと辿り着いた。
後は、少しでも被害を減らすべく、一刻もカルテの娘――ラーニョに操られているカルテの姿を見つけ出さなければ……。

――――おい、虎徹! いくら何でも、これは無謀だ。お前の相棒が来るまで大人……。
「…………うるせぇよ」
――――!!

虎徹の無茶な行動を止めようとしたクロノスに対して、虎徹はそう静かに言い放った。
その声だけで虎徹がどれだけ怒っているのかわかる。

「……トキ。お前には後で訊きたいことがある。それまでは……喋るな」
――――…………。

虎徹にそう言われたクロノスは、返す言葉が見つからなかった。
いや、そうじゃない。
声が出なかったと言った方が正しかった。
そして、程無くして虎徹の腕に嵌められているPDAが鳴り始めた。
おそらくそれは、アニエスからの通信で、現場に焼け焦げた紙片の正体が判明したことの連絡だろう。
だったら、そろそろ……。

「どわあっ!!」

虎徹が予想していた通り、虎徹の足元が爆発し、虎徹はそれを躱した。

(やっと、でやがったな!!)

そのカルテの攻撃を確認した虎徹は、カルテを誘き出す為に敢えて標的になりやすいように人気のない路地へと駆け出した。
彼らを誘き出すことも目的ではあるが、関係のない市民を巻き添えにするわけにもいかなかったからだ。
だから、敢えてPDAからの呼び出し音は切らず、そのままにしておく。
狭い路地へと逃げ込んだことは効果覿面で、カルテの攻撃が立て続けに虎徹を襲った。
だが、あの時同様、カルテは一向に姿を現さない。

「コソコソしてねぇで出てこいっ!!」

だから、虎徹は敢えて彼らを刺激するような言葉をぶつける。
その虎徹の言葉に乗るかのようにカルテの攻撃は更に激しくなっていく。

(……あ゛っ、やば;)

その攻撃を躱すことに専念していた虎徹だったが、彼の背後を狙う炎に対しての反応が遅れた。
だが、その炎が虎徹に直撃することはなかった。

「貴方は! 相手を挑発してどうするんですか!」

何故なら、その声と共に誰かにジャケットの上襟を掴まれて、身体が宙に浮いたのを感じたからだ。
それは、あの時と全く同じ感覚だったので、それをやったのが誰なのか、虎徹にはすぐに理解できた。

「バニー! ……悪い! 説教は、後で聞くからよ!!」
「ちょっ……話は、まだ、終わって――!」

自分のことを助けてくれたバーナビーの言葉を遮って虎徹は、ワイヤーを伸ばすとすぐさまビルの上へと移動する。
ビルからビルへと移動する虎徹に対しての攻撃は、一向に止む気配はない。
そして、なかなか二人の姿を捉えることが出来ず、次第に虎徹は焦りだす。

「……くそっ! さっさと姿、現せっての……んなっ!?」

そして、その焦りからが虎徹は、ビルの縁から足を踏み外し、落ちそうになったので咄嗟に右手を伸ばした。

「い゛っ!! ……あ゛っ;」
――――虎徹!?

だが、その途端右肩にズキンと痛みが走り、虎徹は思わず手を離してしまい、そのまま地面へと落下した。
その光景を見たクロノスは思わず声を上げる。
ビルの高さはさほど高くなかったことと、うまく受け身を取ることが出来た為、大事には至らず、虎徹はすぐさま立ち上がる。
突然のヒーロー・ワイルドタイガーの出現にその場に居合わせた市民たちは驚きの声を上げる。

――――大丈夫か、虎徹!?
「逃げろ!! ここにいると危ねぇ……!!」

虎徹の身を案じるクロノスの声を完全に無視して虎徹は、周囲の市民を気遣うようにそう呼びかける。
本当に今の虎徹は、クロノスと口をきく気はないらしい。
そして、その呼びかけは途中で途切れた。
虎徹の視線の先には、一人のロングヘアーの男が立っていたから……。
間違いねぇ。その男は、カルテだ。
なら、カルテを操っているラーニョも近くにいるはずだ。
そう思って虎徹は、周囲を確認するが、ラーニョの姿を捉えることが出来なかった。
なら、どうにかして、カルテを操っている糸を確認して、カルテの動きを封じなければ……。
けど、まずはその前にやるべきことが……。

「……うおっと!!」

虎徹がそんなことを考えている中、カルテはコートから複数枚のワイルドタイガーのブロマイドカードを取り出し、それを発火させると虎徹目掛けて投げる。
それを虎徹は、間一髪のところで躱す。

「…………そうだ。俺だけを狙えよ……」

一応、お前には俺を一発殴る権利はあるんだからな。
そして、虎徹は一気にカルテとの距離を詰め、殴りかかろうとする。
勿論、それはフリだ。
実際はカルテに殴られることと、糸の場所を確認し、カルテの動きを封じることだ。
そして、目的通り、カルテの拳は見事に虎徹の左頬を捉えた。
これで、一つ目の目的は達成できた。
後は、糸だ。
虎徹は、カルテに殴られながらも微かに煌めく糸を目に捉えることができた。
それに手を伸ばそうとしたが、思っていた以上にカルテのパンチ力が強く、虎徹は糸に触れることなく、あの時同様吹っ飛ばされてしまった。

「ぐあっ!!」
「おじさん!!」

すると、何処からともなくバーナビーが駆けつけ、虎徹の身を起こした。

「また、無茶して……」
「…………」

それをカルテは無言で見つめると、まるで興味がなくなったかのようにその場から立ち去ろうと二人に背を向けた。
それにバーナビーは、いち早く気が付く。

「待て!!」

だが、バーナビーがカルテを止めるより早く、カルテは発火させたカードを真上に投げる。
カードは、その上に設置されていた広告看板に命中し、爆発した。
そして、それは市民たちは目掛けて落下し、皆悲鳴を上げる。

「っ! くそっ……!」

それを目にしたバーナビーは、カルテを追いかける事を断念し、看板目掛けて跳躍する。
そして、看板へと蹴りを食らわし、市民たちの身を守った。
バーナビーのその活躍に市民たちから歓声が上がる。

「…………」

だが、それを見つめていた虎徹の表情は曇ったままだった。
ここで、カルテとラーニョたちを止めるつもりだったのに……。
それが、出来なかったことを虎徹は、後悔した。
だが、悔やんではいられない。
次こそは、絶対に止めなければいけない。
その方法について虎徹は、必死に思考を巡らせるのだった。
























神様シリーズ第4章第10話でした!!
事件の真相を思い出した虎徹さんは、原作通りカルテを誘き出す為に単身独りで迎え撃ちました。
が、やっぱり、ここでのカルテの捕獲に失敗してしまう虎徹さんでした。
それにしても、虎徹さんはトキに対して激おこのようです。
それの理由については、また次回以降にでも書いていきます。


R.3 1/31



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