『おい! どうする気だ、虎徹?』

無我夢中で教会へと一直線へと走る虎徹にそうロックバイソンから通信が入った。

「んなもん決まってるだろうが!」

そうだ。
迷う事なんて何もなかったんだ。

――――……お前、本当は何がしたいんだ?

俺がしたい事、やらなければいけない事。
それは……。

「人命救助だよっ!!」

そう言って虎徹は、遠くで青く燃え上がる教会へ向かって必死に走るのだった。






~神様ゲーム~








『ヒーロー諸君。私の声が聞こえるか?』
「!!」

教会で人命救助をしようと動く中、突如虎徹が身に着けているインカムから声が聞こえてきた。
それは、間違いなく、ルナティックの声だった。

「おい、何だよ。今の声……」
「構うな! 今は、こっちに集中しろ!」

その声に驚きを隠せないロックバイソン達に虎徹はそう言い放つ。
すると、虎徹は銃声が止んでいることに気付き、すぐさまセンサーの映像で教会の中の状況を確認する。
そこに映っていたのは、犯罪達が次々と倒れていく姿だった。

(まずい……! 早くしねぇと!!)
『君たちの語る正義は、実に弱く脆い』

そのルナティックの言葉を聞きながら、虎徹は犯罪者達を救うべく、燃え盛る教会の中へと駆け出した。
そして、一人、また一人と教会の外へと運び出し、彼らの息を確認する。
彼らが息をしていないことを確認するや否や、何の躊躇いもなく心臓マッサージを開始する。

『救う事も裁く事も出来ない、哀れなヒーロー達よ』

ルナティックの声を耳にしながら、ヒーロー達はみな懸命に人命救助を続ける。
それは、虎徹も同じで必死に心臓マッサージを続ける。

『まだ、己の愚かさに気付かないというのか?』
(……うるせぇよ)

そんな虎徹達を嘲笑うかのようにルナティックは尚も言葉を続ける。
ダメだ。ルナティックの言葉なんかに惑わされている場合じゃねぇ。
今は、彼らを救う事だけを考えろ。
ただ、それだけを……。

『そんな諸君らに本当の正義を教えてあげようじゃないか』
「!!」

そうルナティックが言葉を発した時、ロックバイソンがそっと虎徹の手に手を置いて心臓マッサージを止めさせた。
それに驚いた虎徹は顔を上げるとロックバイソンが首を左右に振ったのを見て漸く理解した。
この男は助けられないのだと……。
「うおああぁぁっ!!」

虎徹は、声にならない叫び声をあげる。
まただ。また、救えなかった……。
なら、次にやるべきことは……。

――――こっ、虎徹……。大丈夫、か? ……っ!?

虎徹の叫び声を聞いたクロノスは、虎徹に呼び掛けたが、思わず息を呑んだ。
これまでの出来事でついに虎徹の心が折れてしまったかと思ったクロノスだったが、それは違っていた。
寧ろ、逆だ。
その美しい琥珀の瞳は強い意志を宿し、光が帯びていたのだった。

「……悪ぃ。こっちは後は任せるわ!」
「おっ、おい! 虎徹!?」
「後、絶対救助は諦めんなよ! 一人は必ず息を吹き返すと思うから! それ、わかったらまた連絡くれ!!」

そうロックバイソンに言い残すと、虎徹は走り出し、一気に加速させる。
目指す場所は、唯一つ。
バニーとルナティックが対峙しているあの場所だ。
そこで、ルナティックの奴を絶対捕まえる。

『……おい、虎徹! お前が言ってた通り、犯罪者の一人が息を吹き返したぞ!』

すると、暫くしてからロックバイソンからそう通信が入ってきた。

『けど、お前何でこのことがわかったんだ?』
「わかった。これ、片づけたら、俺もすぐそっちに行く! じゃ!!」
『おい! 虎徹!! こっちの質問に――』

ロックバイソンの問いには一切答えず、虎徹はそう伝えるとさっさと通信を切って走ることだけに集中する。
前は二人を捜すのに多少時間がかかったが、今回は迷うことなく進んでいく。

「安心したまえ。君に限らずヒーローの正義など所詮その程度……偽りの正義だ」

そして、その声がインカムからではなく、直接聞こえてくるのにそう時間はかからなかった。
ルナティックはあの時と同じ場所で、ジャスティスタワーを背にして立っていた。
その姿を捉えた虎徹は、すぐさまワイヤーを伸ばすと隣のビルへと移動する。

「私の名は、ルナティック。私は私の正義で動く」
「!!」
(させるかよっ!!)

ルナティックの目から青い炎が揺らめき、ボウガンがバーナビーへと向けられる。
その瞬間、虎徹は何の迷いもなくルナティックへとワイヤーを放つ。
ワイヤーは見事にルナティックの右手首を捕らえ、巻き付けることに成功する。
そして、その反動からルナティックが握っていたボウガンが地面へと突き刺さった。

「捕まえたぞ、このサイコ野郎!」

虎徹の言葉にルナティックがゆっくりと虎徹へと視線を向ける。

「お前のやっていることは、正義でも何でもねぇ! ただの人殺しだっ!!」
そう言って虎徹はワイヤーを一気に引っ張った。
ハンドレッドパワーを発動させていることもあり、ルナティックとの距離が一気に近づく。
今回は逃がさぬよう、ルナティックの腕をガッチリと掴んで離さないようにする。

「ただの人殺し? 面白いことを言うね、君は」
「面白いのは、お前の顔の方だろ。……グローブ、付いてるぞ?」
「!!」

虎徹に捕らえられても余裕たっぷりだったルナティックに対して虎徹はあの時と同様そう挑発した。
すると、ルナティックの雰囲気が一変した。

「……君がワイルドタイガーか。覚えておこう」
「だあっ! あっつ!!」

ルナティックは、そう言うと何の躊躇いもなく青い炎を出現させるとワイヤーを焼き払った。
それに驚いた虎徹はルナティックを掴んでいた手を思わず放してしまった。
このままでは、また逃げられる。
そう思った虎徹は必死にルナティックへと手を伸ばし直した。

「――――」
「!!」

だが、ルナティックはその手をすり抜けて、闇夜に消えていく。
そのすれ違いざまに虎徹にしか聞こえない言葉を残して……。

「おっ、おい、待てよ! あっ……」

ルナティックの言葉に驚きのあまり虎徹の反応が遅れる。
そして、再びルナティックを追いかけようとした直後にNEXT能力が切れてしまった。

『案ずるな。この世の闇を切り裂く為に私はまた現れる』
「…………」

そうルナティックの声は聞こえたが、それはインカムから聞こえてくるもので彼の姿はもう何処にもなかった。

(…………何なんだよ、一体……)

何でだ?
前にはあんなこと言われなかったのに……。
何で、ルナティックは俺にあんな言葉を去り際に言ったんだよ。
くっそぅ、全然意味わかんねぇ……。

「……くそっ! ……また、あいつに!!」

だが、その思考を遮るかのようにバーナビーの声と壁を殴りつける音が虎徹の耳に届いた。
いつの間にかフェイスシールドを上げていたバーナビーの表情は本当に悔しそうで苦しそうに見えた。
今は、自分の疑問については後回しにしよう。
そう思った虎徹は、バーナビーへと近づく。

「……諦めるのは、まだ早いぞ。手がかりは残っている」
「えっ!」

虎徹の言葉にバーナビーは驚いたように虎徹を見た。
虎徹は、PDAを操作してモニターに一人の犯罪者の手配書を映し出した。

「ロックバイソンから連絡があった。アジトの男が一人、息を吹き返したそうだ」
「…………」

虎徹の言葉を聞きながら、バーナビーは静かに手配写真を見つめていた。
その瞳には、微かな希望の光が宿っていた。

(……ごめんな、バニー)

本当は、この犯罪組織がウロボロスじゃないことを俺は知っているのに、それを今言わなかった。
その方がバニーが早く立ち直ることをわかっていたからだ。
けど、バニーにまた嘘をついちまったことには変わりなかった。
そのことに少し罪悪感を感じつつも、虎徹はバーナビーと共に警察病院へと向かうのだった。
























神様シリーズ第3章第17話でした!!
ヤバい。虎徹さんの心が信じられないほど強くなってる!
ちょっと、バイソンへの扱いが雑な虎徹さんも素敵ですね♪(おいww)
それにしても、ルナティックは去り際に虎徹さんに何を言ったのかなぁ?


H.30 9/30



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