「ちょっと、本当に休んでなくても大丈夫なの?」 そう言ってネイサンの視線の先にいるのは、病室から退室する為に黙々と荷物をまとめる虎徹の姿だ。 「今日、一日くらい大事をとって休んだほうがいいんじゃないの?」 「……別に、大丈夫だよ。医者からもう問題ないって言われたし」 正直、虎徹の回復力の早さに医者は驚いてはいたが、それは陰でこっそりとトキが治してくれていたことは、触れないでおこう。 「それに……」 「それに?」 「それに今日、セントラルパークでチャリティーショーの仕事が入ってたしなぁ」 「はあっ!?」 虎徹の言葉に心底驚いたようにそうネイサンが声を上げた。 「それくらいの仕事なら、別に休んだっていいじゃないの!?」 「いや、そうはいかないだろ? 仕事に大きいも小さいもねぇし、子供たちも楽しみにしてるかもしれないだろ?」 「そりゃぁ、そうかもうしれないけど、ガワだけなら、わかんないんじゃないの?」 「いや。動きとか全然違うだろ?」 「……なんか、妙なところでプロ意識あるのねぇ ;まぁ、いいわよ。でも、もう少し、自分の身体は大事にしなさいよ」 「へいへい」 虎徹を説得するのは無理だと判断したのか、諦めたかのようにネイサンは溜息混じりでそう言った。 それに対して虎徹は、軽く受け流す。 「……ってか、お前の用ってそれだけなのか?」 「違うわよ! すっかり忘れるところだったわ。……これ、タイガーは知っておいたほうがいいんじゃないかと思って……」 そう言ってネイサンは一つの封筒を虎徹に差し出すのだった。 ~神様ゲーム~ 「……ハンサムがあの時取り乱したのも無理ないわ。両親殺しの手掛かりが殺されたんだから」 ネイサンから手渡された封筒に入っていたのは、とある新聞の記事だった。 その記事の見出しには、「資産家殺害事件」、「ロボット工学研究で知られるブルックス夫妻」とあり、記事内には顔写真も載っていた。 間違いない。これは、バニーの両親が殺された事件の記事だ。 「ハンサムさ。両親が殺された時ってまだ四つなのよ……。あの子、四歳からずっと、独りでそれを抱えて生きてきたのかしら」 「…………」 ネイサンの言葉に耳を傾けながら虎徹は静かに記事を見つめていた。 「……なぁ、やっぱこの犯人とバニーが言っていたウロボロスが関係しているのか?」 「可能性としては、ないとは言い切れないんじゃない? そして、あの青い炎を使うNEXTもその組織の一員で口封じの為に動いているとか?」 「それはねぇよ」 ルナティックについてそう推測するネイサンに対して虎徹は、きっぱりと否定した。 その反応にネイサンは眉を顰める。 「何でよ? 今までの焼死事件の被害者をよ~く考えてご覧!!」 「全員犯罪者が共通点。そう言いたいんだろ?」 「イエス! ウロボロスが犯罪組織であるなら、あのNEXTが組織の口封じをしたかもしれないじゃない!」 ネイサンが物凄い勢い言い寄ってくるので、虎徹はそれから逃げるように距離をとる。 「じっ、じゃぁ、殺された奴ら全員、あのタトゥーがあったのかよ?」 「さぁ? それを証明しようにも死体は丸焦げだし……」 「だろ? だったら、そう決め付けるのは、まだ早ぇよ」 大体、俺はあいつがウロボロスの一員じゃないことを知っている。 あいつは、自分自身の信念で犯罪者を裁いているんだ。 だとしても、人を殺すことは、許されることじゃない。 絶対に止めねぇと……。 「…………」 「なっ、なんだよ?」 「別に。けど、なーんか、あのNEXTに妙に肩持ってるように見えただけよ」 「はあっ!? なんで、俺がル……あいつの肩なんか……!」 「まぁ、違うならいいんだけど」 「違うに決まってるだろ! 俺は、ただ……バニーに余計な事を伝えないほうが言いと思っただけだよ」 変に情報を渡せば、間違いなくバニーの奴だったら首を突っ込むだろうし。 今のバニーに、歯止めがきくかわからなねぇし……。 なら、伝える情報は最小限にすべきだ。 「……この話、バニーにはしたのか?」 「それが連絡がつかないのよ」 「…………」 ネイサンの言葉を受け、虎徹はバーナビーに連絡を取ろうと試みようとPDAを操作しようとしたが、途中で諦めた。 今、俺から連絡をとっても、バニーは出てくれないだろうと思い直したからだ。 あの時もそうだったのだから、今回は尚更だろう。 「けど、だとしてもあのハンサムの行動は許せないわよ。タイガーにあんなこと、するなんて!」 「……まぁ、仕方ねぇよ。その辺、バニーは感情がうまく抑えられないだけなんだからさぁ」 「けど……」 「俺は、あんま気にしてねぇし。……な?」 「……まぁ、あんたがそれでいいって言うなら、あたしからは何も言わないけど……」 虎徹にそう言われたら、これ以上正直何も言えない。 これは、あくまでも二人の問題なのだから……。 「……にっしても、案外あっさりしてるのね。もうちょっと、驚くかと思ったんだけど?」 「まぁ……これ、見るの、二回目だしなぁ……」 「? 二回目?」 「へっ? あっ! いや! 違う! 違う!!」 ネイサンの言葉に思わず口が滑ってしまった虎徹は慌てて訂正する。 「そうじゃなくて……誰だって、色んな事情、抱えてるだろ?」 「まぁ、そうだけど……案外、冷たいのね」 「んー。何つーかさぁ……。この件は、バニーにとっては、簡単に触れて欲しくない過去かもしれねぇだろ? それだけさ」 自分にも触れられたくない過去や事情があるのだ。 それは、バニーも同じはずだ。 そして、何より、もう一つの力やトキについても、知られたくないし……。 そう思った虎徹は、静かにまた新聞の記事を見つめた。 そこに写る両親に囲まれて幸せそうに笑う幼いバーナビーの姿を……。 「あぁ! とうとう電話も繋がらなくなっちゃったよ、バーナビー君!」 セントラルパークの楽屋で虎徹はヒーロースーツ姿でベンチに座りながら、ロイズがそう言ったのを聞いていた。 「最近の若者にしては珍しく仕事熱心な男だと思ってたのに……。何が『そんな気分になれません』だよ! こっちは、ビジネスでやってんだからさぁ……」 「まぁまぁ、いいじゃないですか。優等生だってたまにはヘソ曲げる事もありますよ」 携帯電話で連絡を取ろうとしているロイズがそう言いながら室内を歩き回って愚痴るのを虎徹はなるべく明るい口調でロイズを宥めた。 そんな虎徹の様子をロイズは怪訝そうに見つめる。 「俺だって、若い頃はそういうときもありました」 「君は、そもそも優等生なんかじゃないだろ?」 「あっ、そうかも……;」 「本当に君はテキトーな男だねぇ……」 「すいません……;」 苦笑雑じりでそう答える虎徹に対してロイズは何処か諦めた様子で溜息をついた。 「……それより……君の方は、大丈夫なの?」 「へっ? 大丈夫って……何がですか? 段取りなら、一応覚えましたけど?」 「一応……って、そこはちゃんと覚えなさいよ。そうじゃなくて……君自身の体調に決まってるでしょうが」 きょとんとした表情を浮かべる虎徹に対して、ロイズはさらに呆れた表情を浮かべた。 「君さぁ……一応、昨日あんなことがあったんだよ。それで、今日普通に出勤してたらさぁ……」 「俺なら、全然大丈夫ですよ。ってか、ロイズさん。俺の事、心配してくれてたんですね」 「当たり前でしょうがっ!!」 「!!」 何気なくそう言った虎徹の一言にロイズは思わず声を上げる。 その予想外のロイズの反応に虎徹は目を丸くした。 「! ……いっ、一応、私は……君の上司なんだから……。あっ、あくまでもビジネスとして……君を心配しただけであって……。私、個人としては、心配してないから……」 「あっ、はい……。けど、そうだとしても、嬉しいですよ!」 「!!」 その虎徹の反応を見たロイズは、何故か慌てたようにそう言った。 それに対して虎徹は嬉しそうに笑みを浮かべて答えたのを見てロイズは瞠目する。 「…………ホントに君って人は……」 「? ロイズさん。何か言いましたか?」 「いっ、いや! 何でもないから!!」 「? そう……ですか……。あのぉ……それよりも、もっとマシなヤツはいなかったんですか?」 変に慌てるロイズの反応に少し違和感を感じつつも虎徹は、そう言って右手の親指で背後を指した。 その先には、バーナビーのヒーロースーツを身に纏った貧相な男が立って小刻みに震えている。 「仕方ないでしょ。急遽、バイトで来た子をさぁ……」 「そうなんですけど、無理だと思うんで、さっさと帰らせたほうが……」 だって、こいつ後々楽屋泥棒するし……。 その前にさっさとこいつを帰らせて、折紙に頼んだほうが……。 (ん?なんか、忘れてるような……) 「もう! いきなり呼び出すなんて、失礼しちゃうわ!」 そう思考を巡らせていると、何処からか高らかなヒールの足音が聞こえてきた。 そして、勢いよく楽屋の扉が開き、一つの声が響く。 その声に虎徹とロイズは振り向くとそこには、ブルーローズの姿があるのだった。 「……ったく、段取り全部無視しやがって;」 「そんなの知らないわよ。急に呼び出されたんだから」 特設ステージの上で客席に向かって手を振るブルーローズに対してそう虎徹が小声で言うとブルーローズもそう言い返した。 その言葉に虎徹は、思わず苦笑する。 「でも、思ってたより、動きやすかったけど?」 「まぁ、それは俺の適応力の良さのおかげだろ?」 「もう何よ、それ」 ブルーローズの言葉に自信満々に虎徹がそう言うとブルーローズはクスリと笑った。 まぁ、実際はブルーローズがどう動くか知っていたから、それに合わせて動いていたとは言えなねぇけど……。 「……ねぇ。バーナビーとは、あれから会ったの?」 「ん? あぁ、バニーか……。あれから、一度も会ってねぇんだよなぁ……」 「もう! 何なの、あいつ! ちゃんとタイガーに謝りもしないなんて!!」 「まぁ……そのうち会えるだろうし……。あんま、気にしてねぇからさ」 虎徹の言葉を聞いて心底怒るブルーローズに対して虎徹は、苦笑しながらそう宥めた。 一応、まだステージ上にいるのだから……。 「けど――」 「お待たせ致しました! 続いて、我らがアイドルヒーロー・ブルーローズ、サプライズコンサートを開催します!」 ブルーローズが何か言いかけたその時、男性アナウンサーの声がそう響くとステージの大型スクリーンにブルーローズの映像が映し出された。 それと同時に歓声が一気に湧き上がる。 「ほら、呼ばれてるぞ! 頑張れよぉ!」 「……もう! 誰の為に来てあげたと思ってんのよっ!!」 「いでぇっ!!」 その歓声を聞いた虎徹は、さっさとステージから退場しようとブルーローズの方に優しく手を置くとそうエールを送った。 それに対してブルーローズは、あの時と同様、虎徹の右足を蹴り上げるのだったが、何故そんなことをされたのか、虎徹は理解できないままだった。 神様シリーズ第3章第13話でした!! すっごい久しぶりの更新になってしましました; そして、なんだかんだで虎徹さんのことを心配しているロイズさんが好きです! 虎徹さんは気づいていないと思うけど、実はロイズさんは虎廃だという裏設定があったり、なかったりwww じゃぁ、なんで虎徹さんに辺りが強いかというと、虎徹さんを目の前にしてどう接していいのかわからないからです。(ツンですねww) H.30 5/24 次へ |