チョコレートの甘い香り。
それは、恋人たちの心も甘い気持ちにさせる。
~甘い香りに誘われて~
燃えるような紅の長髪に翡翠の瞳を持つ少年。
アッシュは今、とても機嫌が悪かった。
理由はルークである。
ルークは自分を基に作られたレプリカ。
夕焼けのように赤い髪に美しい翡翠の瞳を持つ少年。
今まで俺はルークを憎んでいたが、今では俺にとって一番大切な存在である。
ルークの優しい笑みが憎しみを溶かしてしまった。
だが最近、ルークの様子がおかしいのだ。
いつもだったら、俺がルークたちの元へと訪れると、ルークは子犬のように駆け寄ってくる。
なのに、最近はそれがないのだ。
むしろ、避けられているといっていいほどだ。
「くそっ!一体、何なんだ!!」
俺が何かしたのだろうか。
「……仕方ねぇ。あいつに直接聞いてやる!」
ここでどうこう言っていても埒が明かない。
アッシュはルークの許へと向かった。
* * *
「おっ? アッシュ、何か用か?」
ルークの許へと向かうと、ガイと出会った。
「……あいつは何処だ?」
「ルークのことか?だったら、あそこにいるぞ」
ガイが指差す方へと視線をやると、ナタリアたち女陣に囲まれたルークの姿があった。
ルークの手には何かや袋のようなものを握られていた。
アッシュはルークへと近づいた。
「おい、レプリカ」
「えっ? ア、アッシュ!?」
ルークは心底驚いたような声を上げた。
「なっ、何か用でもあるの?」
ルークの声は何故か上擦っていた。
明らかにおかしい。
「おい、一体何を隠してやがる?」
「べっ、別に何もか、隠してないよ!」
そう言う割にはルークの目は泳いでいた。
「お、俺忙しいんだ。だから……ごめん!」
ルークはそう言うとアッシュから逃げた。
しかも、猛スピードで。
「おっ、おい!」
アッシュは呼びかけたが、ルークは振り向くことなく街並みへと消えていった。
(なっ、何なんだ!!)
「いや~。いい逃げっぷりですね~」
「本当; あそこまで必死に逃げなくてもなぁ;」
その様子を傍観していたジェイドは面白そうに、ガイは苦笑してそう言った。
「おまえら、他人事だと思いやがって!」
それにアッシュは怒鳴った。
「ええ、他人事ですし♪」
「…………」
満面の笑みでそうジェイドに言われ、アッシュは口を閉ざす。
コイツをまともに相手したら、疲れるだけだ。
「……ところで、アッシュ。ルークに何かしたんですか?」
「はぁ?」
ジェイドの言葉の意味がわからず、アッシュは聞き返す。
「いや~。ルークがあそこまで逃げ出すんです。あなたが何かしたしか思いつきませんよ」
「ふ、ふざけるな! 俺は何もしてねぇ!!」
アッシュの怒鳴り声が街中に響いた。
* * *
「くそっ! なんなんだ!!」
街外れのベンチに座ったアッシュは一人怒鳴った。
あの後も、ジェイドに弄ばれ腹が立っていた。
だが、それ以上にルークだ。
何故、あそこまで避けるんだ?
理由がわからなかった。
だから、それを聞こうとやってきたのに、聞く暇さえ与えてはくれなかった。
あそこまで避けられると、正直落ち込む。
――――もしかして、ルークに嫌われましたか?
あの後言われたジェイドの一言が堪える。
本当に、ルークは俺のことを嫌いになってしまったのだろうか……。
「アッシュ!」
そんなことを考えている、まさにそのときだった。
聞き慣れた声が耳に入ってきた。
声が聞こえたほうを見ると、夕焼けのように赤い髪の少年がこちらへと向かって走ってくる。
「はぁ……はぁ。やっと、見つけたよ」
「なんだ?」
アッシュは不機嫌そうな声でそう言った。
「あっ、あのね。……ごめん」
「何がだ?」
「……さっきのこと、……怒ってるよね?」
「…………別に、怒ってなんかねぇよ」
本当は怒っていた。
でも、今は違う。
こいつが俺のところに来たから……。
「そっか……よかった……」
それにルークはホッとしたような顔をした。
「ア、アッシュ。こっ、これ……」
すると、ルークは何を取り出しアッシュへと突き出した。
それは赤い包みに包まれたひとつの箱だった。
「? なんだ、これは?」
「チョコだよ。今日バレンタインだから……」
ルークの言葉を聞いてアッシュは今日がバレンタインデーであることを思い出した。
「ティアやアニスに教わりながら作ったんだけど、なかなか上手くいかなくて……。さっきやっと出来たんだ」
その言葉を聞いて、アッシュはやっと全てを理解した。
何故、ルークが俺を避けていたのかを。
それはチョコを作っていたからだ。
別に、変に心配することなんてなかったのだ。
アッシュはルークから箱を受け取り、包みを外し箱を開けた。
箱の中には綺麗に並べられた9個の生チョコが入っていた。
アッシュはそのひとつを手に取り、口へと運ぶ。
口にはほろ苦い甘さが広がった。
「…………苦い」
「ごっ、ごめん! やっぱり、失敗してたんだ!!」
アッシュの言葉にルークは翡翠の瞳を潤ませながらそう言った。
「……だったら、責任取らないとな」
「…………えっ?」
含み笑いを浮かべたアッシュはルークの右手を引っ張り、そのままルークの唇を奪った。
チョコの苦さがやがて消え、甘さだけが口に残った。
「いっ、いきなり、何するんだよ///」
唇を離してやると、ルークは林檎のように真っ赤になってそう言った。
その姿が何とも愛おしく思えた。
「……悪いのはおまえだろ? 苦いチョコを作ったんだから」
「う゜っ…; そっ、それはそうだけど……;」
「だったら、これが無くなるまで、やらねぇとな」
そう言って、アッシュはチョコへと視線を落とす。
箱に入った生チョコはあと八個入っている。
「もう……アッシュの……ばかぁ」
言葉とは裏腹に、ルークの声は嬉しそうなものだった。
アッシュは再びチョコを口に入れるとルークと甘い口付けを交わした。
チョコが無くなるまで、ずっと……。
Fin...
バレンタインネタのアシュルク小説でした!!
いや~、前半のアッシュはちょっと可哀想になってしまいしましたね;
でも、最後はラブラブだよ、二人ww
あと、ジェイドさんはルークが何しているのか知っていてアッシュにあんなことを言ってます。
ひ、ひどいなぁ、ジェイドさん;
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