七月七日、七夕の日。
織姫と彦星が会える日。

~短冊が揺れるとき~

「なぁ、七夕って何だ?」

今日は七夕だねと、アニスたちが話していたので、ルークは聞いてみた。

「えっ~~~! ルーク七夕も知らないの!!」
「な、なんだよ。そんな言い方しなくても;」

七夕はそんなにも常識的なことなのかと、ルークは思った。

「七夕っていうのは、織姫と彦星が一年で一日だけ会える日なの」
「織姫と彦星?」
「昔、働き者の織姫と彦星の恋人がいたの。 でも、結婚したら二人とも働くなってしまったの。 その様子を見て怒った織姫のお父さんが二人を天の川の反対岸に離してしまったの」
「でね、そうしたら織姫は彦星に会えなくなっちゃったから、毎日泣いてたの。それを可哀相に思ったお父さんは、一年に一日だけ天の川に橋を架けて二人を会えるようにしたんだよ。これが七夕の由来で、その日が今日なんだよ」

ティアとアニスが丁寧に説明してくれた。

「ふ~ん。なんか俺とアッシュみたいだな」
「「「えっ?」」」」

ルークの言葉を聞いたティア、アニス、ナタリア、ガイの声が綺麗に揃った。

「おい、ルーク。それはちょっと違う気がするぞ;」
「えっ? だって、俺アッシュになかなか会えないし……」
「でも、織姫と彦星と同じだったら、アッシュに一年に一日しか会えないのよ」
「う゛っ……それは……やだなぁ;」
「俺は認めないぞ。アッシュが彦星だなんて」

ガイはブツブツと呟いた。

「ガイ? あなたさっきから何を呟いていますの?」
「えっ? いや、何でもないさ;」

ナタリアに話しかけられたガイは苦笑した。

「おや? 私がいない間にずいぶんと話が盛り上がっていますね」

用事を済ませてきたジェイドが戻ってきた。
手には、笹と色とりどりの細長い紙を持っていた。

「? ジェイド。なんだよ、これ?」

不思議に思ったルークがジェイドに聞いた。

「今日は七夕ですからね。折角ですから、笹と短冊をもらってきました」
「それをどうするの?」
「七夕の日には、この短冊に願い事を書いて、笹に吊るす慣わしがあるんです」
「へ~ぇ」

ルークはジェイドの話を熱心に聞いていた。
昔の自分だったら、自分の知らないことを説明しているのが、なんだかバカにされているように思えた。でも、今は自分の知らないことを知るのが楽しくて仕方なかった。

「では、一人一枚取ってください」

ジェイドはみんなの前に短冊を差し出した。
ルークは赤、ティアは紫、ガイはオレンジ、アニスはピンク、ナタリアは緑、ジェイドは青の短冊を手に取った。

「おや? 一枚余りましたね」

ジェイドは灰色の短冊を手に取った。

「……折角ですから、ルーク。もう一枚書きますか?」
「えっ! いいのか!」

ルークは嬉しそうに言った。

「ええ、もらったのは私ですから。それに、あなたは七夕が初体験のようですしね」

ルークはジェイドから短冊を受け取った。

(一体何書こうかなぁ?)

短冊にそれぞれの願い事を書き始めた。




* * *





「では、そろそろ吊るしますか」

みんなが短冊に願い事を書き終わった頃を見計らってジェイドは言った。

「ナタリアは何を書いたんだ?」
「わたくしは、”キムラスカとマルクトの民が幸せに暮らせますように”と書きましたわ」
「へ~ぇ、さすがナタリアだ」

ルークはナタリアに関心した。
「俺はもちろん”ルークと両――」
「ところでアニスは何を書きましたか?」

ジェイドはわざとガイの言葉を遮った。
ガイがいじけたのは言うまでもない。

「私はもちろん”お金がい~っぱい貯まりますように”て♪」
「アニスらしいな;」

アニスとガイ以外はみんな苦笑した。

「そういう旦那は何書いたんだよ!」

さっきのことがまだ許さないのか、不機嫌そうにガイは言った。

「私は”陛下がちゃんと仕事をしてくれますように”と書きました」

ジェイドはサラッと言った。

「ねぇ? ティアは、なんて書いたの?」
「えっ! 私は……///」

アニスにそう聞かれると、なぜかティアの顔が赤くなった。

「……私は”好きな人が私の気持ちに気付いてくれますように”って、書いたけど///」
「えっ? ティアって好きな人がいるのか? 誰だよ?」
「ひっ、秘密よ///」

ルークに問いかけられたティアは、ますます顔が赤くなった。
ルーク以外の誰もがティアの好きな人が誰なのかすぐにわかった。

「そっ、そういうルークは、なんて書いたの?」

「えっ? 俺?」

なんとか話を変えようとルークに問いかけた。

「俺は”みんなといつまでもいられますように”って」

ルークはそれに対して笑顔で答えた。

「おお~~っ! ルーク!! 俺はずっと傍にいてやるぞ!!」
「わぁ! ガイ!!」
「ちょっと、ガイ! ルークから離れなさい!! わたくしのルークが汚れてしまいますわ!」
「違うよ~。ルークは私のだよ~!!」
「うっ、うるさい! ルークは俺のだ!」

ガイ、ナタリア、アニスが言い合いを始めた。

「いや~。賑やかですね♪」

ジェイドはそれを面白そうに眺めていた。

「…………いいなぁ」

ティアは、ポツリと呟いた。
自分もあんな風に思いを伝えられたらなぁ……。




* * *





「はぁ~~~~。疲れた~~~」

宿での自分の部屋に戻ってきたルークは、ベッドに寝そべった。
今日はルークだけが一人部屋になっていた。
あれから、ジェイドが何とか三人を宥め、笹に短冊を吊るした。
ふと、ルークはズボンのポケットから一枚の短冊を取り出す。
それは、あのとき余った灰色の短冊。
みんなには、まだ書いていないと言って吊るさなかった。
だが、実際にはこの短冊はさっき吊るしたものより早くに書いていた。
これを吊るすのが、なんだか恥ずかしかった。

「はぁ~~~~~」

ルークは溜息をついた。

――――ズキン

すると、突然頭に激痛が走った。

『おい、レプリカ』

そして、自分より低い声が聞こえてきた。

「ア、アッシュ!」

ルークはベットから起き上がる。

『今すぐ、窓を開けろ』
「えっ? なんで?」
『いいから、さっさと開けろ!』

アッシュは怒鳴った。
ルークは訳が解らなかったが、アッシュに言われた通り窓を開けた。
すると、そこで目に入ったのは紅だった。

「あっ……」

ルークは思わず声を漏らした。
アッシュはそんなことはお構いなしに、部屋に入ってきた。

「なんて間抜けな顔してやがるんだ」
「だっ、だってアッシュがいきなり入って来るから……」

あんな風に入ってきたら誰だって驚くだろう。

「ところで、なんか用でもあったのか?」

ルークの言葉にアッシュはムッとした表情になった。

「用がないと、いけないのかよ」
「いっ、いや。そういう意味で言ったんじゃ……」

ルークはあたふたした。

「……たまたま、近くを通ったから来てやっただけだ」
「……そっか、へへ」

ルークは、嬉しくなり笑った。
ふと、アッシュはルークのズボンのほうに視線を移す。
ズボンのポケットから白い紐が垂れていた。

「? なんだこれ?」
「ああ! それは……」

アッシュはそれを引っ張り取った。
そして、短冊に書かれていた内容を読む。

「…………」
「えっと、その……」

ルークはそれを読まれて恥ずかしかったのだろう。
顔を真っ赤になっていた。
ルークの言葉にアッシュはムッとした表情になった。

「……お前なぁ、こんなものに頼るなよ」
「だっ、だって……」

アッシュはルークの腕を掴み、そのまま自分の方へと引き寄せる。

「こんなものに頼らなくたって、俺がお前の願いを叶えてやるよ」
「アッシュ……」

アッシュはルークに微笑んだ。
そして、ルークに甘い口付けをする。
それと同時に、短冊が床に落ちた。
短冊には短い文が書かれていた。
”アッシュに会いたい”と……。







Fin...


七夕ネタのアシュルク小説でした。
なんだか、ガイがこわれかけていますが、気にしないでください。
本当は、七夕イラストを描こうかと思っていましたが、七夕だと気付いたのは、2日前でしたので断念しました。
いつも小説は2、3日かけて書きますが、今回は1日で書き上げました。
この後の二人は皆さんのご想像にお任せします!!


H.18 7/7