「…………ところで、ルーク。これから何処に向かうんだ?」

アルビオールに乗り込むとガイは、ルークにそう疑問を問いかけた。

「セントビナーだ。そこへ行って、シュレーの丘が入れるかどうか訊く」
「シュレーの丘……そうか! パッセージリングか!!」

ルークの言葉にガイは、納得したように手を叩いた。

「そうだ。この異変に気付いているアッシュだったら、何処かのパッセージリングにいるかもしれない。……ノエル、頼めるか?」
「はい! わかりました!!」

ノエルはルークの言葉にそう返事を返すと、アルビオールをセントビナーへと向かわせた。






〜Shining Rain〜








ラーデシア大陸に隠された街。
ナム孤島、そこにアッシュの姿があった。
ノワールの好意によってアッシュは、一つの部屋を用意してもらってそこにほとんどに籠っていた。
そして、今日は気分転換の為に久しぶりに部屋を出た。

「あっ! アッシュだぁ!!」

すると、アッシュの姿を見た子供たちがすぐにアッシュの許に駆け寄ってきた。

「ねぇねぇ、アッシュ! 僕たちと遊んで!!」
「そうだよ、遊んでよ!!」

目を輝かせてそう言う子供にアッシュは、少し困ったような笑みを浮かべた。

「こらっ! あんたたち、アッシュを困らせるんじゃないよ!!」
「え〜〜〜っ! だって〜〜〜!!」

それを見ていたノワールが子供たちにそう言うと、子供たちは不満そうな顔をした。

「だってもかってもないよ! さぁ、あっちで遊んできな!!」
「でっ、でも……」
「ごめんな。また、後で遊んでやるから」
「……わかったよ」

苦笑雑じりのアッシュの言葉を聞いて、子供たちはやっと諦めたように来た道を戻っていた。

「……悪かったね。うちのチビらが迷惑かけたみたいで」
「そっ、そんなことないですよ。……むしろ、俺の方が迷惑かけてるし……」

本当だったら、俺はダアトかルークの屋敷に戻らなければならなかったのだ。
でも、今は無理なのだ。
まだ、やり残したことがあるから……。
だから、ノワールに無理を言ってここにおいてもらっているのだ。

「それはあたしは、ぜんぜん構わないけど……本当に戻らなくてよかったのか?」

むしろ、嬉しかったくらいだ。
アッシュが自分のことを頼ってくれて……。
でも、本当は帰りたいんじゃないかと考えてしまうのだ。

「…………」

ノワールの問いにアッシュは何も答えなかった。
だが、そのときのアッシュの表情は、とても哀しいものだった。

「ただいま、戻ったでゲス」

再びノワールが口を開きかけたそのとき、ウルシーの声によってそれは遮られた。

「おや? アッシュさん、久しぶりですね」
「あぁ、二人とも、久しぶり」

ヨークの言葉にアッシュは、笑みを浮かべてそう言った。

「……で、何か収穫はあったのかい?」
「いや、特にはなかったでゲス」

ノワールの少し不機嫌そうにそう聞くと、ウルシーが申し訳なさをうにそう答えた。

「そうですねぇ……。世界の動きといっても大きいものもないですし。強いて言えば、マルクト軍がケセドニア付近で演習を行っているくらいですかねぇ」
「! なんだって!!」

何気ないヨークの言葉にアッシュは色を失った。

「……それ、本当なの?」
「えっ、ええ……。あっしら、丁度軍がグランコクマに出るところを見たんで間違いないでゲスよ」
「……そっ、そんな……」

アッシュの只ならぬ様子に三人は、戸惑いを隠せなかった。

「どうしたんだい、アッシュ?」
「……ごめん、ノワール。俺、ちょっと出かけてくる!」
「えっ? ちょっ、ちょっと、アッシュ!?」

ノワールの静止の声が聞こえたが、アッシュはそれを無視して走った。
急がなければならない。
あの人を助ける為にも……。





















ケセドニア付近。
そこで、軍事演習を行っていたフリングスの部隊は予想だにしなかった出来事に遭遇した。
キムラスカ軍旗を掲げた中隊が自分たちの部隊に襲い掛かってきた。
兵士とは思えない軽装で軍服を着服しているのは一部のみで、皆生気のない目をしている。
その中隊に不意打ちを食らった自分たちの部隊の多くの兵士が重傷を負い、自分も怪我を負っていた。
彼らは自分たちを全滅させるのが目的らしく、一向に攻撃の手を緩めることはなかった。
このままでは、本当に全滅してしまう恐れがある。

「フリングス将軍! 将軍だけでも逃げてください!!」
「馬鹿者! そんなこと、出来るわけないだろ!!」
「しっ、しかし……っ! 将軍!!」

部下の声にフリングスは振り返った。
目の前にいる兵士が、爆弾を持って自分へと突っ込もうとしているのが見えた。
それをさせるのは、もう不可能だった。
フリングスはそれを覚悟して目を瞑った。
そのとき――――。

「魔神拳!」
「!!」

突如、響いた声にフリングスは、目を見開いた。
目の前にいた兵士が何処からともなく現れた衝撃波によって倒されていた。
そして、他の兵士達も後退りを始めた。
フリングスは、衝撃波が飛んできた方へと視線を向け、そして瞠目した。
そこにいたのは、美しい夕焼けを思わせるような赤い長髪の少年。
一度見たら、忘れられない容姿の彼がそこに立っていた。

「…………アッシュ……さん?」

フリングスの声にアッシュは、フリングスの方を見た。

「……よかった。間に合ったみたいだね!」

そして、フリングスの顔を見てニッコリと微笑んだ。
それを見たフリングスは思わずホッとした。

「……フリングスさん、ここは俺に任せて逃げてください」
「でっ、ですが……」
「俺なら大丈夫です。だから、早くみんなを安全なところへ」

戸惑うフリングスにアッシュは笑みを浮かべてそう言った。

「……わかりました。ここはお任せします」

それを見たフリングスは頷くと、部下を引き連れてその場からは離れた。
フリングスたちを追いかけようと中隊たちが動き出そうとした。

「魔神拳!」

アッシュは、威嚇するつもりで彼らに魔神拳を放った。

「……何処に行くんだよ? おまえたちの相手は俺だぜ」

アッシュの言葉に彼らの生気のない目がアッシュを捉えた。

「…………みつけた。我らと同じ……レプリカ」
「!?」

その一人が呟いた言葉にアッシュは瞠目した。

「……つれていく。……あの方の許へ……つれて……いく……」
「…………悪いけど俺、捕まる気全然ないからっ!」

アッシュは、ニッと笑うとレプリカ兵へと駆け出した。
























Rainシリーズ第8章第4譜でした!!
ついにアッシュが登場です!ティアたちが必死で1ヶ月も探し回っていたアッシュは、ノワールの許でひっそりと隠れてました。
そして、ウルシーたちの言葉を聞いてついにアッシュが動き出しました!
それはもちろん、フリングスさんを助けるためですが、なんかアッシュ自身もレプリカたちに狙われてますね;


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